トランプ氏演説で見えた外交の「強さ」と「危うさ」 同盟観は語られず内向き懸念残る
産経ニュース / 2024年7月19日 19時32分
米国のトランプ前大統領が、共和党大統領候補の指名受諾演説で強調した外交メッセージは、強い米国の復活を通じた平和の実現だ。アフガニスタンからの米軍撤収とタリバン支配の復活、ロシアによるウクライナ侵略、中東の混乱というバイデン政権下で起きた危機の連鎖を断ち切る決意である。一方、米南部国境からの不法移民流入を「侵略」と強調。同盟関係を重視する姿勢も見せず、米国が内向きとなる危うさが残った。
トランプ氏は演説で「世界は第3次世界大戦の瀬戸際にある」とし、「現政権が作ったあらゆる国際危機を終わらせる」と語った。
どのように危機の連鎖を断ち、紛争を抑止するのか。自身の政権下では「ロシアはどこも攻めなかった」と強調したが、具体的な方法には触れなかった。
トランプ氏に対しては、軍備増強で東西冷戦を勝利に導いたレーガン元大統領流の「力による平和」の復活を待望する声がある。共和党のジョンソン下院議長も「21世紀の『力による平和』政策が必要だ」と指摘する。
バイデン政権下で米軍事力の優位性と抑止力が低下したことは間違いない。中露、イラン、北朝鮮、ベネズエラなど複数の権威主義国家が米国主導の世界秩序に挑戦する。冷戦期と異なり米単独では対処できないのが現状だ。
そんな中で、トランプ氏を巡っては、同盟軽視という印象が払拭されていない。欧州やインド太平洋地域の同盟諸国との連携を維持するのかという「同盟観」は、演説で語られなかった。
銃撃事件からの生還で「強いリーダー」像を確立したトランプ氏には「危うさ」が混在する。
6月末の米ブルームバーグ通信とのインタビューで、トランプ氏が「台湾は(米国に)防衛費を支払うべきだ」と語ったことが波紋を呼んだ。米紙ウォールストリート・ジャーナルは17日付の社説で、この発言は対中抑止にマイナスだとし「台湾はトランプ氏の最大の不安定化リスクだ」と懸念を示した。
トランプ氏が演説を通して米国の最大の脅威と位置づけたのは、記録的な不法移民の流入だ。大統領選の最大争点ではあるが、国境の守りに拘泥すれば、米国が世界を牽引するリーダーの立場から後退していると中露に受け取られかねない。(ミルウォーキー 渡辺浩生)
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