中東で高まる「広域紛争」リスク、米の停戦圧力無視「ハニヤ氏暗殺の事前通告なかった」
産経ニュース / 2024年8月1日 8時39分
【ワシントン=大内清】レバノンの親イラン民兵組織ヒズボラの最高幹部がイスラエルの報復攻撃で殺害されたのに続き、イスラム原理主義組織ハマスの最高指導者イスマイル・ハニヤ氏が同国によるとみられる暗殺作戦で死亡したことで、中東は広域紛争の舞台となるリスクがいっそう高まった。パレスチナ自治区ガザを巡る停戦協議の早期妥結をイスラエルに求めてきたバイデン米政権の外交圧力は実質的に無視された形だ。
「当然、事態がエスカレートすることを憂慮している」。カービー米大統領補佐官は7月31日、イランの首都テヘランでのハニヤ氏暗殺や、ヒズボラ最高幹部フアド・シュクル氏の殺害についてこう述べ、ガザ停戦協議が「いっそう複雑になった」ことを認めた。
これに先立ち、アジア歴訪中のブリンケン国務長官は、ハニヤ氏殺害について「米国は関与しておらず、事前通告も受けていない」と説明した。
バイデン政権は、ガザでの戦闘が始まった昨年10月以降、一貫してイスラエルの自衛権を擁護しつつ、紛争が中東各地に飛び火することを強く警戒。今年5月末にはバイデン大統領が自ら、停戦や人質解放、イスラエル軍のガザ撤退などの実現に向けた3段階のロードマップ案を提示した。
7月下旬には、民主党の大統領候補指名を確実にしているハリス副大統領が、訪米したイスラエルのネタニヤフ首相と会談し、強いトーンで停戦協議の早期妥結を求めた。これに対し、支持率が低迷する中で戦闘継続に固執するネタニヤフ氏は「動揺」した様子をみせたと伝えられる。
イスラエルはハニヤ氏暗殺への関与を明言せず、否定もしていない。だが、ハマスの政治部門トップとして停戦協議の最終責任を負うハニヤ氏がこのタイミングで殺害されたことで、協議が頓挫または停滞することは確実。ネタニヤフ氏としては望む政治的成果を手に入れた格好だ。
中東では今後、ヒズボラ、ハマスとともに「抵抗の枢軸」と呼ばれる陣営を形成する親イラン勢力の報復攻撃やテロが活発化する恐れが強まり、イスラエルの後ろ盾とみなされる米国が脅威にさらされる可能性も高い。国務省は31日、米国人にレバノンへ渡航しないよう勧告。米ユナイテッド航空は、米国からイスラエル最大都市テルアビブへの便の運航を一時停止すると発表した。
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