ウクライナで変わった戦争の性格 日本の専守防衛では対処困難 米戦争研究所ケーガン所長
産経ニュース / 2024年12月6日 11時0分
ロシアによるウクライナ侵略戦争の分析で定評ある米国の大手研究機関「戦争研究所」(ISW)のキンバリー・ケーガン所長が4日、東京都内で産経新聞のインタビューに応じ、ウクライナ戦争が日本やインド太平洋地域にとって持つ意味などを語った。ケーガン氏は、ウクライナでの戦いが従来の戦争の性格を変えたとし、致死性、攻撃性の高い新兵器の登場により、日本の専守防衛の姿勢をも危険にさらしていると語った。
ISWは2007年に米ワシントンでケーガン氏により創設され、イラクやアフガニスタンでの戦闘に関し、公開情報だけに頼る独特の分析手法で国際的な信頼を得た。ウクライナ侵略戦争について「世界で最も頻繁に引用される研究機関」とも評されている。
ケーガン氏はウクライナ戦争について「ロシアはウクライナの完全制覇だけでなく、北大西洋条約機構(NATO)の価値、さらに米国主導の国際秩序の破壊を目指しており、日本の安全保障にも害を及ぼす」と述べた。ロシアの野望には中国、イラン、北朝鮮が同調しているという点で、日本やアジア太平洋地域の米同盟国・有志国にも脅威は及ぶという。
ウクライナ戦争では人工知能(AI)や無人機、電子戦やサイバー攻撃に関する新技術を導入した新型兵器が、戦車や大砲という旧式兵器を圧倒している。ケーガン氏は戦争での攻撃性や殺傷力が増大したと強調し、従来の防御主体の国防態勢は弱体化したと述べた。日本も専守防衛策では新たな軍事情勢への対処が難しいとして「日本も米国とともに臨戦態勢、戦時の精神構造を持つことが戦争への抑止になると思う」と語った。
ケーガン氏は習近平・中国国家主席の狙いについて「ロシアに同調し、まずアジア太平洋での米側の安保態勢を崩し、覇権を確立する」ことだと指摘。「台湾の武力統一を国家目標としている」という点でも日本への軍事脅威は現実的だと警告した。「今日のウクライナは明日の台湾」という表現にも賛成だという。
ウクライナ戦争の展望については、①プーチン露大統領はまだ当初の戦争目的を達成しておらず、現状では停戦交渉には応じないだろう②露軍は一定地域の占拠には成功しても、毎月3万人以上の死傷者を出している③ウクライナは年間150万機の無人機を自力で製造して戦場に送ったが、なお十分でない④ロシアを停戦交渉に応じさせるには、露軍の戦場での損害をさらに多くすることが効果的だ―などと語った。(古森義久)
現時点での停戦は困難、露は月3万~3万5千人の死傷者
キンバリー・ケーガンISW所長による発言の詳報は次の通り。
1 ウクライナ戦争はロシアという核兵器保有の大国がウクライナという独立国の主権を奪い、その背後にいるNATOの価値を否定し、さらに米国主導の国際秩序を破壊しようとする点で国際情勢全体を変えようとする大変革の動きだ。
2 ロシアのこの野望に中国、イラン、北朝鮮という諸国が程度の差はあれ同調し、米国とその同盟国・有志国を敵視し、その絆を断とうとしている。この点でウクライナ戦争のアジア太平洋地域への影響は重大だといえる。
3 特に中国はロシアと反米基調を一体として、アジアでの覇権から国際秩序の改変までを目指している。その一環として台湾の武力制圧をも国家目標としており、その点で日本への軍事脅威も現実的だといえる。
4 ウクライナの戦闘では、双方が無人機やAI、電子戦やサイバー攻撃に関する新型技術を導入した新兵器を広範に使用しており、致死性つまり殺傷能力や攻撃性が画期的に高まった。このため従来の防御型の安全保障態勢は弱体となった。
5 日本も米国の軍事力を自国の防衛に取り込む同盟国だが、ウクライナ戦で登場した殺傷性や攻撃性の高い新型兵器を中国が使うことを予測すると、従来の専守防衛的な安保体制は抑止力となりえなくなる。
6 ウクライナ戦争の停戦や講和は、プーチン露大統領が当初の目的を全く達していない現状ではきわめて難しい。ウクライナの完全占領というその目的は国際的には受け入れ難い。だからロシアを停戦に応じさせるには、戦場でのロシア側の損害を一定以上に増すことが現実策だ。
7 ロシアはウクライナでの戦闘で毎月平均3万~3万5千人の死傷者を出している。プーチン氏はそれとほぼ同数の将兵を毎月、ロシア国内の非公式の徴兵で補充しようとしている。その補充が困難になったときが一つの転機となりうる。(古森義久)
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