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新テロ時代 ③二律背反 国家機密どこまで報じるか 政府介入回避、米英に自律・調整の枠組み

産経ニュース / 2024年7月9日 7時0分

テロを巡る報道は、テロ対策-すなわち国家安全保障や防諜・諜報の領域を含む。

そしてこの領域は歴史上、常にメディアと政府との緊張、対立関係を生み出してきた。

× × ×

「ジュリアン・アサンジを釈放せよ」

英首都ロンドンの高等法院(高裁)前の路上で数十人の活動家や市民らが連呼した。

今年2月20日と21日、英国の刑務所に拘束されている内部告発サイト「ウィキリークス」創始者、ジュリアン・アサンジを米国に引き渡すかどうかを判断するための審理が高等法院で開かれた。

オーストラリア出身のアサンジは2010~11年、米政府や米軍のデータベースに侵入して、米軍のアフガニスタン進攻やイラク戦争などに関する大量の機密文書をウィキリークスを通じて公表した。

米司法省は、アサンジが機密を暴露したせいで多数の情報源の命を危険にさらしたなどとして諜報活動取締法違反など18件の罪状で起訴した。アサンジは在英エクアドル大使館に約7年間かくまわれた後、19年に英当局に逮捕、拘束された。米司法省は英政府に身柄の引き渡しを要求。英最高裁は22年4月、引き渡しを正式に承認した。

そして米主要メディアは今年6月24日、アサンジが米司法省との司法取引に合意したと報道。同26日、米自治領サイパン島の連邦地裁で禁錮5年2月の有罪判決を言い渡されたが、司法取引により英国での収監期間で刑期を終えたと見なされた。約12年に及ぶ亡命・収監を経て、アサンジは母国オーストラリアへの帰国を許された。

× × ×

アサンジ裁判での最大の焦点は、01年の米中枢同時テロを受けた世界規模の「テロとの戦い」を背景とした、報道の自由と政府の機密保全を巡るせめぎ合いという、古くて新しい問題だった。

過去にアサンジと連携して機密文書の内容を詳細に報じた米紙ニューヨーク・タイムズや英紙ガーディアンなどの米欧紙5社は22年、文書の公表は犯罪にあたらないとして、米司法省に起訴の取り下げを求める共同書簡を発表した。

英シェフィールド大でメディア論を教える元BBC放送記者のウィリアム・ホーズリーは「アサンジ裁判に象徴されるように、言論の自由に関して誇るべき伝統のある英国は、国民の知る権利を巡るメディアと政府の綱引きの最前線となってきた」と語る。

その最前線の舞台の一つが、機微にわたる国防やテロなど安全保障に関する情報を伝えることの是非について、メディアと政府の代表でつくる独立委員会を通じて調整する「DAノーティス(国防勧告通知)」と呼ばれる枠組みだ。

委員会は、報道機関が政府の機密保護関連の法律に抵触しない範囲でどこまで報道できるかに関し勧告や指導を行う。だが、委員会の勧告や指導には法的拘束力がなく、メディアが公益に資すると判断すれば、勧告に従わず報道に踏み切る自由が確保されている。

一方、米国のメディアは防諜法などの法規制や歴代政権からの言論規制の圧力との衝突を重ねつつ、テロや戦争の報道に関する詳細な自主的基準を設け、法律への抵触を口実とした政府の介入を回避する仕組みの構築を進めてきた。

ガーディアン紙の顧問弁護士を務めるギル・フィリップスは「政府とメディアの間には常に緊張関係が存在する」とした上で、テロや国防機密などを巡る報道では、政府とのやり取りの中で公共の安全を勘案しつつ、何を報じるかは最終的にメディアの判断に委ねられると指摘した。

翻って日本では、英国のような調整機能も、米メディアのような体系化された自主的判断基準も存在せず、場当たり的な対応に陥る懸念が常に付きまとう。テロ対策などを口実とした政府の言論介入を排しつつ、国益や国民の安全を危険にさらさない責任ある報道を果たすにはどうすべきか。新たな「テロの時代」は日本に重大な課題を突き付けている。

(呼称・敬称略)

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