「世界に軍事力を提供した米国」の終焉 トランプ氏が突きつけた「自分の力で自分を守る」時代に対応を 佐々江元駐米大使
産経ニュース / 2025年1月25日 15時0分
日本国際問題研究所は、29、30の両日、東京都内で国際会議「第6回東京グローバル・ダイアログ」を開催する。佐々江賢一郎理事長(元駐米大使)が会議を前に、20日に発足したトランプ米政権との向き合い方について展望を語った。主な発言は次の通り。(聞き手 岡田美月)
「力を背景とする国益の維持」必要に
トランプ米大統領が就任した。世界はトランプ氏の登場前から既に、米国が力を持ち中心となって引っ張っていく体制ではなくなってきている。多国間主義やグローバル化がもたらした反動や弊害が、貧富の格差、文化闘争、価値観の多様化などの形で表れ、統合よりも分散していく遠心力の方が強まった。
中露など米国に挑戦する国々を念頭に、もう一回力を背景とする国益の維持を図らなければ、きれいごとでは済まされない。米国から見たこうした現実主義的な見方を端的に率直に表した外交が、〝トランピズム〟といえる。
懐深く世界のために資金を出し、軍事・安全保障も提供し、鷹揚(おうよう)に構えていた米国の時代はもう終わりつつある。トランプ氏の登場はその現実の反映といえよう。それぞれの国が自分の力を最大限発揮して自らを守る。安全保障、防衛、経済安保、文化的なアイデンティティーの問題など各国がもう一回、自分たちの守るべき価値と国益が何かを再評価することが求められている時代だ。トランプ氏がある面で先陣を切っているといえ、世界はこれが現実だとの認識の上に立つ必要がある。
トランプ氏は第1次政権で、北大西洋条約機構(NATO)に対して大きな防衛努力を要請していた。トランプ氏の同盟国に対する発言の本質を捉えることが求められる。防衛努力が必要か、イエスか、ノーか。イエスなら、トランプ氏の主張の中身が同盟国側としてやりたいと思う方向に沿っているか。仮にそうだとすると、それを実現できるだけの国内の能力があるかという要素が重要だ。
トランプ氏の要求をどう逃れようか、との発想ではなく、自分たちはどうしたいか、どうすべきかという考えがまずあるはずだ。日本は歴代首相が「今日のウクライナは明日の東アジア」だと訴えてきた。その本質は、ロシアのウクライナ侵略をひとごとだと思って眺めるのではなく、日本の安全保障・防衛体制の問題として受け止める危機感に他ならない。
日本は中露朝の三正面で、より深刻な潜在的な脅威に直面しつつある。5年後、10年後、この抑止力が十分働き、戦争や紛争を防げるだけの態勢を整えていればいい。いざとなって、(防衛努力を要求してきた)トランプ氏の主張が正しかったなどと、後悔する事態にならないようにしたい。
米中「一致点はあり得る」
他方、気候変動問題など米国の役割が期待できなかったらどうするかとの問題がある。環太平洋経済連携協定(TPP)などの貿易体制をはじめ、米国なき秩序の維持に向けた努力がより一層、重要になる。
一方で、政権移行で見られた良い兆しは、中東和平に向けたバイデン前政権の最後の交渉努力に、トランプ氏のチームが参加したことだ。政策や政権の変更があっても、米国の対応には継続性があるとの保証を与えた。実態を見て判断することは非常に重要だ。
米国では対中警戒が強まっている。他方でトランプ氏はディール(取引)を通じ、ある種の落ち着き先を見つけることによって新しい米中関係の安定性を求めていくのではないか。中国を破壊し、新たな秩序を作ろうと考えている人は少数だと思う。
トランプ氏自身は何らかのディールをして中国に対して米国が優位な形で安定的な米中関係を持つことを考える。一方、中国は米国に追い付くために時間稼ぎをしながら本格的な争いをしない範囲で自国の実力を伸ばすことが戦略的に重要だと考える。その両者の間で、どこかで一致点はあり得るのではないか。
日本は、トランプ氏本人や、ルビオ国務長官、ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障問題担当)ら鍵となる周辺人物をはじめ、米国の政府、議会、世論も含めて全体として日米関係をマネージ(うまくまとめることが)できるような土台を作ることに全力を挙げることが肝要となろう。
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