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トランプ氏復帰、世界中が注視 ウクライナへの軍事支援に変化も 中国「不確実性増す」

産経ニュース / 2024年11月6日 21時30分

米共和党のトランプ前大統領と、民主党のハリス副大統領が対決した5日の米大統領選を世界各国は強い関心を持って注視した。ロシアのウクライナ侵略を巡り、ウクライナへの支援から撤退する可能性のあるトランプ氏が勝利したことを欧州は警戒。ロシアは歓迎しているとみられる。トランプ氏の勝利で中国は「不確実性」が増すと予測。混沌とする中東情勢は同氏の復帰で新たな局面を迎えそうだ。

欧州、NATO結束で不安

米大統領選で共和党候補のトランプ前大統領が勝利したことで、欧州では米国がウクライナ支援から撤退し、欧州安全保障に危機をもたらすとの警戒感が出ている。フランスのマクロン大統領は6日にX(旧ツイッター)でトランプ氏の勝利を祝福したうえで、「ドイツのショルツ首相とも話し合った。新たな環境のなかで、われわれは欧州をより強く、結束させるために働く」と投稿。独仏で欧州連合(EU)を牽引し、新政権のもとで新たな米欧関係の構築を目指す構えを示した。

トランプ氏はこれまで、欧州加盟国が防衛費の負担を増やさなければ、ロシアが将来、欧州を攻撃しても防衛しないと述べている。北大西洋条約機構(NATO)の結束に不安が広がる中、ルッテNATO事務総長は6日、「強さによる平和を推進するため、再び協力できることを楽しみにしている」とXに投稿した。

先月の欧州世論調査では、ドイツで64%、フランスでは61%が「安全保障のためにはハリス副大統領の勝利が望ましい」と回答していた。

トランプ氏は国内産業保護のため輸入品に高関税をかけると公言しており、米EU間の貿易摩擦は不可避となる見通しが強い。EUの貿易大国ドイツで特に警戒が強まっている。トランプ氏は10月末、EUについて「彼らはわれわれの車や農作物を買わずに、膨大な量の車を売っている。代償を払わせる」と発言した。

露、ウクライナ降伏への圧力期待

ウクライナ侵略を巡って同国の「降伏」による早期の戦闘終結を実現させたいロシアは米大統領選で、ウクライナに停戦圧力を加えたり、軍事支援を停止したりする可能性がある米共和党のトランプ前大統領が勝利したことを歓迎しているとみられる。

ペスコフ露大統領報道官は6日、「プーチン大統領は一貫して対話に前向きだ」とトランプ氏との電話会談を排除しなかった。ウクライナでの停戦に向けて米国が動くかどうかをロシアは注視するとも述べた。

プーチン氏は10月下旬、トランプ氏が停戦の実現に尽力する意向を示しているとし、「(停戦に関する)そうした発言は誰からのものであろうと歓迎する」と表明。また、「(戦争の)帰結はロシアに有利なものであるべきだ。(停戦の内容は)戦場の現実に立脚すべきだという点に関してロシアは譲歩しない」と述べた一方、ロシアには「合理的な妥協」を行う用意があるとも主張した。

プーチン氏は従来、停戦に応じる条件として、ウクライナが南部クリミア半島と東・南部4州全域をロシアに割譲することや、NATO加盟を否定することを提示。ただ、露軍も疲弊しており、4州全域を軍事的に掌握するのは困難だとの見方が露国内でも出ている。

トランプ氏が今後、ロシアとウクライナ双方に硬軟織り交ぜて停戦を促した場合、プーチン氏が4州全域の割譲要求を取り下げ、現在の前線を停戦ラインとすることを認めるなど一定の「妥協」に応じる可能性はゼロではない。

韓国、対北で安保体制の維持強調

北朝鮮がウクライナを侵略するロシアへ派兵するなど、安全保障情勢が厳しさを増す中、韓国では、米大統領選でトランプ前大統領が勝利したことを受け、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領がバイデン米大統領、岸田文雄前首相と築いた日米韓の対北安保協力体制が揺らぎかねないとの不安感が高まっている。

トランプ氏は在任中、「裕福な国」である韓国が米国の軍事力に「ただ乗りしている」と主張し、在韓米軍の駐留経費を巡り、韓国に大幅な負担増を迫った経緯がある。このため、韓国は10月、トランプ氏の返り咲きに備え、2026年以降の駐留経費負担を決める協定に早々に合意。選挙直前の今月4日、駆け込むように署名を済ませた。

尹氏は6日、Xでトランプ氏への祝意を示した上で、トランプ氏が「これまで見せてきた強いリーダーシップ」を評価。米韓が今後、緊密に協力していくことに期待を表明した。

韓国大統領府高官は同日、ロシア派兵で北朝鮮の脅威が増している点を指摘。「韓国政府は安保が一寸も揺るがないよう米国の新政権と完璧な安保体制を築き上げていく」と述べ、米新政権下でも安保協力を維持していく方針を強調した。

中国、関税引き上げ警戒

米大統領選で共和党のトランプ前大統領、民主党のハリス副大統領のどちらが勝利しても、中国では米国の対中圧力は緩和されないとの見方が支配的だった。

浙江外国語学院米国研究センター主任の王冲氏は「誰が大統領になろうとも中米関係で小春日和が実現するのは難しく、劇的な好転を実現するのはさらに難しい」との見解を選挙前に中国メディアに寄せた。

王氏は、バイデン大統領の対中路線を継続すると見込まれたハリス氏に対し、トランプ氏の路線では「不確実性と予見不可能性が増す」と警戒する。

中国側は、トランプ氏が大統領1期目で見せた「不確実性」に神経をとがらせる。トランプ氏は既に中国製品に60%の関税を課す方針を表明しており、実現すれば、景気低迷下にある中国経済には逆風だ。中国が「核心的利益」と位置付ける台湾問題でも、トランプ氏は中国が台湾に侵攻すれば「150~200%」の関税を課すと発言している。

一方で、中国は米政権の圧力継続を見越し、ここ1年ほどは米国を念頭に置いた外交を展開してきた。

まずは米国の同盟国などの切り崩しだ。日米豪印の枠組み「クアッド」の一角をなすインド、米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」とクアッド双方に入るオーストラリアとは、それぞれ悪化していた関係の改善に動いた。

次にグローバルサウス(南半球を中心とする新興・途上国)の取り込みにも力を入れ、中国やロシアなど主要新興国でつくる「BRICs」の枠組み拡大などを進めた。日中外交筋は「中国はこの1年間の取り組みを通じ、誰が米大統領になっても対応可能だと自信を持っているのではないか」と指摘する。

台湾、有事の防衛で懸念残る

台湾当局は、米大統領選の結果が台湾海峡の平和と安定に影響を与えるとみて注視している。「米国の台湾支持は超党派の共通認識」(米当局者)とはいえ、バイデン米大統領が繰り返し台湾防衛を明言してきたのに対して共和党のトランプ候補の姿勢は曖昧さが増しており、台湾側には懸念も残る。

トランプ氏は「台湾は(米国に)防衛費を支払うべきだ」と主張し、域内総生産(GDP)比10%の防衛費支出を台湾に要求。これは歳出の8割超にあたる非現実的な数字だ。

さらに台湾が「半導体ビジネスを米国から奪った」とし、台湾製半導体への高関税も示唆した。世界的な供給網の中核として、中国による台湾侵攻を抑止する役割への期待から「シリコンの盾」と呼ばれる台湾の半導体産業に、トランプ氏の存在は大きな影を落とす。

ただトランプ氏に対しては悲観論だけではない。当局系シンクタンクの安全保障研究者は、大規模な兵器購入を台湾に求める同氏の勝利で「(最新鋭ステルス戦闘機の)F35などの高度な兵器を買うチャンスでもある」と指摘する。

また与党、民主進歩党系の政治研究者も「民進党は前回の米大統領選で、台湾との関係が良好だったトランプ氏の再選を望んでおり、バイデン氏の当選に焦りもあった。今回はどちらでも構わない」と話す。

一方、中国に融和的な最大野党の中国国民党は、米中間の緊張を高める可能性が大きいとみられるトランプ氏をより警戒する。「米国が中国に対抗するためのコマとして台湾を利用する」(国民党系の政治学者)との懸念を持つためだ。

対イラン政策、一変の公算

パレスチナ自治区ガザやレバノンで戦闘を続けるイスラエルと、その宿敵イランに米国がどう対処するのか注目されるだけに、中東諸国は強い関心を持って米大統領選の行方を見つめた。

イスラエルで10月末に公表された世論調査結果で、次期米大統領はトランプ氏が好ましいとの回答が全体の66%を占め、ハリス氏との回答は17%だった。

それも当然の結果といえる。2017年から4年間の大統領任期中、トランプ氏はそれまでの米外交政策を変更してエルサレムをイスラエルの首都と認定するなど、同国寄りの政策を貫いた。特に戦闘が続く現在では、激しい攻撃で高まる国際的批判をかわす上でも最大の後ろ盾になるとの期待が大きい。イスラエルのネタニヤフ首相は6日、トランプ氏が勝利したことを受け、「歴史的に最も偉大な(大統領への)復帰だ。米国の新たな始まりとなる」と祝意を示した。

一方、イランはトランプ氏復帰に警戒を強めている。イランが10月初めにミサイル約180発でイスラエルを攻撃した際、トランプ氏は「(イスラエルは)イランの核施設を攻撃すべきだ」と述べた。今後、中国などとの原油のヤミ取引の監視を強化するなど、イランに対する「最大限の圧力」政策が復活する公算が大きい。

イラン政府のモハジェラニ報道官は6日、「米国の選挙はイラン人の暮らしに影響しない」と述べた。ロイター通信がイランの通信社の報道として伝えた。

(小野田雄一、パリ 三井美奈、ソウル 桜井紀雄、上海 三塚聖平、台北 西見由章、カイロ 佐藤貴生)

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