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「債務の罠」で押さえらえたハンバントタ港 中印が相互で監視、「冷戦」状態

産経ニュース / 2024年9月21日 10時46分

スリランカ南部にあるマッタラ・ラジャパクサ国際空港のロビー。この日、航空機の運航はなくスタッフ以外の人影は少ない=18日(岩田智雄撮影)

スリランカのほぼ南端に位置するハンバントタ港は、同国が中国からの借金で整備したものの返済が滞り、運営権を中国に事実上譲渡した「債務の罠(わな)」の典型例といわれる。中国との間で領土問題を抱えるインドが、同港が中国に軍事利用されるのではないかと懸念を募らせる中、現地では中印間の「冷戦」が起きていた。

現在のハンバントタ港は厳重に警備され、許可なく立ち入ることができない。最近までの状況を知るスリランカ政府元職員によると、港にはインドの油田探査船が2年以上も停泊し、乗組員の中にインド海軍の元軍人がいた。

「次に向かう運航先の指示を待っている」と語っていた元軍人については、インド政府が同港の状況を監視するために送り込んだのではないかと疑われていたという。

セメント船を清掃する人たちを乗せたインド船も停泊していて、同国の対外諜報機関、調査分析局(RAW)の一員が混じっていたとされる。

ハンバントタ港をめぐっては、債務返済に窮したスリランカ政府が2017年、99年間にわたって中国側が運営権を所有する契約を交わした。

同港の管理会社は中国企業とスリランカ港湾局の合弁となっている。ただ、管理会社は主要な管理職を中国人が占め、監視カメラや無人機(ドローン)を駆使するなどして港の警戒にあたっているという。元職員は「管理職の中に中国人民解放軍がいたことは100%間違いない」と断言した。

スリランカはアジアと中東・アフリカの中間に位置するシーレーン上の戦略的要衝といわれ、ハンバントタ港では燃料や物資の補給を行う船舶の往来が絶えない。同港の運営権が中国側に渡ったことで神経をとがらせているのが、スリランカとポーク海峡をはさんで10キロほどしか離れていないインドだ。

中国の調査船が約2年前に入港した際、インドは「スパイ船だ」と反発した。その後、スリランカは来年1月までの1年間、外国調査船の活動を認めない措置を取った。

中国はスリランカに対し、調査船活動の再開を含む同港の有効利用に向けて圧力をかけているとみられる。港が中国の管理下で軍事利用されると、インドは安全保障上の脅威となる。このため、インドも独自に港を監視する体制を取っている可能性がある。

ハンバントタ港近くには、米フォーブス誌に「世界で最も空いている空港」と揶揄(やゆ)されたマッタラ・ラジャパクサ国際空港がある。「旅客便が最近到着したのが5月11日」(空港関係者)という空港は、この地が故郷のラジャパクサ元大統領が中国から巨額の資金を得て建設した。同空港についても、中国に運営権が渡るのではとの見方もあったが、スリランカはインドとロシアの合弁企業に運営を委ねることを決めている。インド側企業関係者は20日、運営権移譲は「今月中だろう」と明らかにした。

中国ではなく、印露に委ねる理由について、印シンクタンク、統合サービス研究所は「海外に海軍基地をつくるには、航空機による海上監視能力が必要だ」との専門家の見方を紹介。空港の運営権を得ることでインド側は「港の利用方法をかなりコントロールできる」と分析している。

スリランカは、ロシアを関与させて中印の緊張の緩和を図ろうと腐心しているといえそうだ。

スリランカでは21日、大統領選が投開票され、次期政権下でインド太平洋地域の安全保障環境に変化があるかどうかが注目されている。

現地情勢に詳しいインド紙デカン・ヘラルドのETB・シバプリヤン副編集長はこう指摘する。

現職のウィクラマシンハ大統領か野党、統一人民戦線(SJB)のプレマダサ党首が勝てば「スリランカとインド、西側諸国との最良の関係は続く」。野党・人民解放戦線(JVP)のディサナヤカ党首が勝利すれば「JVPはインドや米国と良好な関係を築いたことがなく、状況が劇的に変わる可能性はある」。

また、印シンクタンク、オブザーバー研究財団のアディティア・ゴウダラ・シバムルティ近隣国準研究員は「経済危機により、スリランカは中国、インド、日本、米国に同様に依存している。今後もこれらの国々とのバランスを取らざるを得ない。安全保障環境が変わることはほとんどないだろう」と予測している。(ハンバントタ 岩田智雄)

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