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中国の債務の罠が生むゾウ被害 スリランカの国際空港近くで群れに遭遇、命失う住民相次ぐ 世界行動学

産経ニュース / 2024年10月23日 7時0分

スリランカ南東部のマッタラ・ラジャパクサ国際空港の敷地内を歩くクジャク=9月18日(岩田智雄撮影)

草原の間を抜ける立派な幹線道路で車を走らせていると、道路わきのガードレールの先に野生ゾウの群れが現れた。9月に訪れたインド洋の島国スリランカでの出来事だ。

車をとめて、車窓からしばらくながめていたが、人間を見て動き出す様子はない。子ゾウを守るように10頭ほどの大きなゾウたちが草をはみ続けていた。

スリランカに生息するのはアジアゾウの中で最大の亜種スリランカゾウ。かつて密猟などで数を減らしたものの、保護が進み、今では全土で約7千頭にまで数が増えてきた。一方で、開発により生息地を追われ、人間との摩擦も生んできた。

ゾウに出くわした場所は、スリランカ南東部にあるマッタラ・ラジャパクサ国際空港のすぐ近くだ。スリランカが中国からの巨額借金で建設したが、ほとんど利用されておらず、米誌フォーブスにかつて「世界で最も空いている空港」と揶揄(やゆ)されたこともある。スリランカは国際社会からの相次ぐ借金が返せなくなり、2022年に事実上のデフォルト(債務不履行)に陥った。2国間債務で最大の債権国、中国の外交圧力を受け、近くにあるハンバントタ港の運営は中国に引き渡してしまい、こうした事業は「債務の罠(わな)」の典型といわれている。

近くの商店の男性店主が、約10年前にそんな「無用の長物」が開業して以降相次ぐゾウ被害を教えてくれた。1カ月ほど前の夕方、付近の民家の前に大きなゾウが現れ、在宅中の主婦が大声を出したところ、侵入防止用の電線を壊して近づいてきた。主婦が常備していた爆竹を鳴らして追い払おうとすると、ゾウはさらに凶暴になり、主婦を殺してしまったという。

スリランカでは昨年だけで170人余りがゾウの被害で命を落としたと報道されている。店主は「このあたりでは、空港や道路、港の開発ですみかを失ったゾウがウロウロしている。毎月のように人が殺され、農作物の被害もひどい」と打ち明けた。

生息地を追われたのはゾウだけではない、車を走行中、多くのクジャクやサル、それにキツネにまで出会った。道路沿いには「危険 クジャクが前方に」と注意を呼び掛ける道路標識が並ぶ。

空港や港といった大型公共事業の借金の返済に追われ、スリランカ国民の生活は苦しさを増した。しかも、こうした事業には汚職疑惑がつきまとう。その結果、9月の大統領選では、国会(一院制、225議席)にわずか3議席しかもたない左派マルクス・レーニン主義政党の党首が当選した。

人間の生活圏をゾウが徘徊(はいかい)し、人命が失われていることだけを取っても、国民の怒りは理解できる。

案内人の男性は「ゾウをきちんと観光資源として活用すれば、人々の暮らしをよくするはずだ。それなのに、政治家は自分の懐のことばかり考えている」と不満をぶちまけていた。

(インド太平洋特派員 岩田智雄)

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