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野生動物の襲撃、インドでは人食いトラ出没するも保護に懸命 自然との共生は長い課題 世界行動学

産経ニュース / 2024年6月26日 7時0分

クマに人間が襲われる事件が後を絶たない。中には食われてしまうこともあると報道されている。日本人には、クマに親しみを感じる人も少なくないが、クマの危険と隣り合わせで暮らす人には恐ろしいことこの上ない。

筆者はかつて、インドでクマならぬトラの取材をしたことがある。それも[人食いトラ」の出没についてだ。

現場は北部ウッタルプラデシュ州。森の中ではない。村近くでサトウキビの収穫をしていたある女性(18)はいきなりトラに襲われた。親族は、「食われるところを見た」と悲惨な目撃談を話してくれた。現地の調査によると、80キロ離れたトラの保護区から来た1頭のメスが、8人を次々に襲っていたということだった。こうした「人食いトラ」による被害は、インドでは時々起きている。

一方で、インド人にはトラをとても大事にする国民性がある。そもそも国民の多くが信じるヒンズー教には動物に関連した神様が多く、トラは女神ドゥルガーの乗り物とされている。

敬虔(けいけん)なヒンズー教徒のモディ首相は、トラの保護に余念がない。政府は最近、インドに本部を置く「国際ビッグキャット(大型ネコ科動物)同盟」を設立すると発表した。5年間で15億ルピー(約29億円)を拠出し、トラ、ライオン、ヒョウ、ユキヒョウ、ピューマ、ジャガー、チーターの個体数減少を食い止めるという。

日本のインド大使館では今月18日、トラの保護に関するセミナーも行われた。トラは20世紀初めには世界で約10万頭が生息していたとされるが、狩猟などで数が減り、シビ・ジョージ大使によれば、現在、野生のトラは約4200~4400頭しか存在しない。このうち安全な生息地域が守られているインドには、約3千頭がいるという。

インドは人口が約14億人と、中国を抜いて世界一だ。経済の成長著しく、野生動物との軋轢(あつれき)が増すが、トラも増えている。政府担当者は「発展途上国として開発のニーズと国民の願望を満たすため迅速に動かなければならないが、エコロジー(自然環境)もエコノミー(経済)も軌道に乗っている」と胸を張っていた。

また、世界自然保護基金(WWF)ジャパンによると、米国でも、昨年施行された「大型ネコ科動物に係る公衆安全法」により、トラなどの飼育や取引に関する規制が強化された。動物園などでの一般市民向けの展示利用も制限され、動物をなでたり、幼獣を抱いて写真を撮ったりすることはできなくなった。しかし、日本では、まだ野生動物のふれあいに対する規制が甘く、担当者は「生物多様性保全や公衆衛生の観点で、野生動物と人間との間には適切な距離を置くべきだ」と話している。

7月29日は「世界トラの日」。絶滅危惧種のトラの現状を知り、保全を図る日だという。古くて新しい問題である野生動物との共生を考えたい。

(インド太平洋特派員 岩田智雄)

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