マレーシアでも反イスラエル不買運動が拡大 米系企業標的、政権は経済への打撃を懸念
産経ニュース / 2024年7月30日 13時0分
パレスチナ自治区ガザの戦闘を巡り、「親イスラエル」とみなされた米国系の企業や飲食チェーンを標的にした不買運動が、中東から離れた東南アジアのマレーシアにも広がっている。マレーシアではムスリム(イスラム教徒)が多数派で、アンワル政権は親パレスチナの立場を鮮明にしている。ただ、不買運動が拡大を続ければマレーシアへの投資や現地の雇用に悪影響が出る恐れがあり、政権は対応に苦慮している。
政権は親パレスチナの立場だが…
「(米IT大手の)アップルやマイクロソフトとも取引を止めるのか? 非現実的だ」。マレーシアのアンワル首相は6月25日の閣議で不買運動の広がりに警戒感を示した。
アンワル氏は、ガザを支配するイスラム原理主義組織ハマスとの関係を維持するなど親パレスチナの姿勢で知られている。それにもかかわらず、最近は政府系の空港運営会社の株式売却計画に不買運動の矛先が向けられている。
運動を呼びかける親パレスチナ団体などが問題視しているのは、イスラエルと関係のある米資産運用大手ブラックロックが株式売却計画に関わっているということだ。シンガポール紙ストレーツ・タイムズ(7月2日電子版)によると、株式取得を目指す企業連合のうち1社を、ブラックロックが買収予定だという。
ブラックロックはマレーシアの上場企業約100社に投資しているとされる。空港問題がこじれてブラックロックがマレーシアから投資を引き揚げるようなことになれば、「数千人の雇用に影響する可能性がある」(投資貿易産業相)と政府は警戒している。
ストレーツ・タイムズは、政府が空港計画を撤回すれば、「正当なビジネスよりも、遠隔地の政治的配慮を優先するというネガティブな印象を与える」との専門家の見方を伝えた。
マレーシアでの不買運動は、親パレスチナ団体「BDS(ボイコット・投資撤収・制裁)マレーシア」がイスラエルに関係するとした欧米系企業のリストを拡散して広がった。リストに入った欧米系の飲食チェーンや食料品、化粧品を拒否するよう呼びかける若者らの動画投稿も相次いだ。
ただ、世界展開する飲食チェーンの多くは、現地企業が本社に権利料を支払って運営するフランチャイズ方式のため、地元企業や従業員にも打撃は避けられない。
マレーシアで約600店舗を展開する米ファストフードKFCの運営企業は4月末、「厳しい経済状況」を理由に店舗の一時休業を発表。KFC運営会社は声明で「1万8千人の従業員の85%がムスリムだ」などと地元雇用への貢献を強調したが、ストレーツ・タイムズによれば一時休業は4月末時点で100店舗超に上った。
米国は3位の大口投資元
「マレーシアはもともと米国や中国などの外資を積極的に誘致してきたが、ガザ情勢を受けて反欧米感情が国民の間で高まっている」。6月にマレーシアを訪問した日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所の研究員、谷口友季子さんはこう驚きを語った。
親パレスチナのムスリムだけでなく、非ムスリムの一般市民にもガザの人権状況に対する抗議が広がっている。現地の研究者らは、不買運動の影響が当面続くとみているという。
谷口さんは不買運動が拡大した背景として、2000年代以降にインターネットを使った社会運動が浸透したことに加え、国内政治の要因を挙げる。
マレーシアでは中華系、インド系など多様な人種や宗教が共存するが、マレー系のムスリムが国民の約6割を占める。近年は政権交代が続くなど政局が不安定化しており、「アンワル政権は反イスラエルを強く打ち出すことでマレー系支持者をつなぎとめようとしている」と谷口さんは解説する。
だが、イスラエルの同盟国である米国は、昨年のマレーシアへの投資額が国別で3位となるなど経済を支える重要な存在だ。谷口さんは「不買運動は消費者レベルから国益にかかわる問題になりつつある」と話している。(石川有紀)
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