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ウクライナで戦死した台湾人義勇兵の思い㊤ 子供3人の父親、「自由と民主を守りたい」と戦地に 

産経ニュース / 2024年12月22日 8時0分

戦死した台湾人義勇兵、呉忠達氏をしのぶ会で謝辞を述べるウクライナ出身者たち=11月30日、台湾・高雄市の正忠基督長老教会(西見由章撮影)

ロシアによるウクライナ侵略開始後、8千キロ離れた台湾から15人前後が義勇兵としてウクライナ側に参戦し、前線で2人の死亡が確認された。台湾とウクライナには近隣の覇権主義国による併呑の脅威という共通点がある。なぜ死地にあえて赴いたのか。2人の「思い」を戦友や知人たちの証言からたどった。

「父は民主主義に貢献した」 13歳長女が見せた涙

台湾南部・高雄出身の呉忠達さん=享年(44)=は中高生3人の父親だった。台湾陸軍を退役後、ウクライナに渡って外国人部隊「領土防衛国際軍団(ILDU)」の兵士となり、10月末、東部ドネツク州での戦闘で死亡した。

「私の父が民主主義と自由のために貢献したことを皆さんに理解して頂き、とてもありがたいです。父の優しい笑顔と穏やかな声が今も…」。遺族代表として気丈にあいさつした長女(13)が、思わず声をつまらせた。11月30日、高雄市のプロテスタント系「正忠基督長老教会」で開かれた、呉さんをしのぶ会。会場には戦場で猫3匹を抱えてほほ笑む呉さんの写真パネルが飾られていた。

会を企画した林偉聯牧師は「われわれは他国の戦争に参加することを奨励はしない。しかし彼はウクライナにたつ前、『台湾のために(渡航を)準備している』と語っていた。こうした義挙は記念されるべきだ」と話す。

「台湾はウクライナの戦争と直接関係はない。しかし強大な隣国に併呑されようとしている点で非常に似ている」。別の牧師も壇上で呉さんを「勇士だ」とたたえた。高雄在住のウクライナ出身者たちが登壇し、謝辞を述べた。「彼はわれわれの自由のために命を犠牲にした。ウクライナの歴史と私たちの心にとどまり続けるでしょう」

露軍の迫撃砲直撃 遺体回収できず

ロシアが侵略に成功すれば、台湾統一を掲げる中国の習近平政権が武力行使への自信を深めるのは確実だ。

ただ、台湾人義勇兵をたたえる声は、必ずしも台湾世論の多数派とはいえない。

「多くの市民は無関心で、高給を得るための傭兵だと考えている。しかしそれは間違いだ」。呉さんの死を目の当たりにした戦友の潘文揚さん(25)はそう語る。

当時、2人が所属する分隊は森林の中に防衛線を構築する任務を行っていた。正確な情報が乏しい中、待ち構えたロシア軍部隊と遭遇し交戦。敵が放った迫撃砲の1発目が潘さんの左約2メートルの位置で爆発し「目の前を破片が飛んでいった」。2発目は数メートル前にいた呉さんを直撃した。

腰に被弾し失血する呉さんを抱えようとしたが、激しい砲撃が続いて味方に負傷者が相次ぎ、撤退を余儀なくされた。いまだに呉さんの遺体は回収できていない。所属部隊では2週間で24人が戦死したという。

募る怒り「正常な国家が破壊されていく」

3人の子の父親である呉さんはなぜ戦闘に参加したのか。「自由と民主を守りたい、と私に話したことがあった。それに彼はウクライナを第二の故郷として愛していた」と潘さんは振り返る。呉さんは、東部で一般市民がロシア軍の攻撃で殺害されることに憤り、「正常な国家が破壊されていく」と語っていたという。

呉さんは戦乱で飼い主と離散した猫を9匹保護し、自分でエサを買って与えていたという。戦場での経験が浅い同胞の潘さんを常に気にかけており、「父親のような存在。とても善良な人だった」としのんだ。

台湾海軍の陸戦隊(海兵隊)に約4年間在籍した経歴を持つ潘さんだが、もし周囲に義勇兵を志願する人物がいれば「絶対に行かないよう忠告する」と断言した。現在の前線はあまりにも危険だからだ。

早期終戦を掲げるトランプ米次期大統領の来年1月就任を前に、ロシア軍は現在、前線で攻勢をかけている。少しでも交渉を有利に進めるためだ。ウクライナ軍の現状は苦しい。「重火器と砲弾が不足し、空軍戦力もない。突撃任務の戦死率は3割だ。歩兵が敵の自爆型ドローンに発見されれば生き残るすべはない」。(西見由章)

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