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対中抑止力に先端半導体の「民主主義供給網」 TSMC抱える台湾の自信

産経ニュース / 2024年9月28日 10時0分

台湾北西部の新竹市にある半導体受託生産最大手、台湾積体電路製造(TSMC)本社(石川有紀撮影)

世界で戦略物資として重視される半導体の供給網が、対中抑止力につながると台湾当局が自信を深めている。その主な担い手は、半導体受託生産で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)。先端半導体技術を巡る米国の対中規制が強まる中、日本、米国、ドイツが同社の生産拠点を相次いで誘致した。台湾の外交トップは、民主主義陣営内での供給網拡大に期待を示し、「台湾の産業の優位性を活用した経済貿易外交を推進する」と語った。(台北 石川有紀)

GDPの約2割 台湾産業の中心担う半導体

台北市内から高速道路で約1時間。工業団地「新竹サイエンスパーク」にあるTSMC本社の隣に、世界から年約2万人が訪れるというミュージアムがある。同社の半導体が使われたスマホやデジタルカメラ、VR(仮想現実)シミュレーターなどが展示され、急速な技術革新を体感させられる。

TSMCの創業には、台湾当局が人材、資金面で深く関与した。

創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏は、中国浙江省生まれ。青年期に渡米し、マサチューセッツ工科大やスタンフォード大で学び、米半導体業界でキャリアを築いた。

1985年、台湾当局の招きで工業技術研究院(工研院)長に就任。当時の台湾の行政院長(首相に相当)の依頼を受け、台湾で半導体産業を発展させる方策として、最終製品のメーカーと競合せずに、半導体を受託生産する専業ファウンドリーというビジネスモデルを提案した。

87年の創業時には、台湾当局や米フィリップが出資し、工研院の人材とともに工場を立ち上げた。創業期の台湾当局の関与について、TSMCの広報担当者は、「かつて安い労働力で外貨を稼いでいた台湾の経済発展のため、高付加価値の製造業として半導体が注目された」と説明する。

台湾当局の狙い通り、半導体産業は台湾経済の牽引(けんいん)役となった。「中華経済研究院」によると、台湾の半導体産業は国内総生産(GDP)の約2割を占める。

緊張高まる台湾海峡…生産拠点を世界に拡大

一方、新型コロナウイルス禍以降に起きた半導体不足や中国の軍事的威圧から、同社の生産拠点が台湾に集中していることは各国や投資家からリスクとみられてきた。各国が巨額の補助金を提示して工場誘致を働きかけた結果、同社は今年に熊本県で工場を完成させた。米南部アリゾナ州やドイツ東部ザクセン州でも工場を建設中だ。

同社によると、進出先は同社の上位顧客の拠点があることが共通条件。熊本工場はソニー向けの半導体を主に担い、第2工場の建設も計画されている。

台湾の林佳竜外交部長(外相に相当)は8月下旬、産経新聞など日本記者団に「半導体産業で日本は材料や設備、台湾は量産化で強みがあり相互補完的に協力できる」と主張。「台湾有事は日本有事だ。台日は、民主主義的な供給網の形成をリードしていかなければならない」と連携の重要性を語った。

また、郭智輝経済部長(経産相に相当)は取材に、中国は巨大経済圏構想「一帯一路」事業で各国の信頼を失い、不況もあって外資撤退が続くと予測。台湾の半導体やAI分野に外国からの投資が拡大していることは、「信頼の証だ」と述べ、中国に対する優位性を強調した。

台湾守る「護国神山」

中国は「一つの中国」原則を認めない台湾の民主進歩党政権に対し、軍事演習を名目に威圧を続けている。こうした情勢下で、世界の半導体供給を握るTSMCは、台湾を台風被害から守る中央山脈にちなみ、「護国神山」(国を守る神の山)と呼ばれている。

台湾経済を研究する神奈川大学の川上桃子教授は、TSMCが高度な演算処理に使う「ロジック半導体」の回路の微細化技術や量産化で、サムスン電子(韓国)やインテル(米国)に先行していると指摘。材料供給元や大手顧客との研究開発の蓄積と、最先端から汎用(はんよう)まで幅広い製品生産力が強みと分析する。

世界の大企業だけでなく中国の電機メーカーやハイテク企業とも取引があるため、川上氏は、「中国の侵攻が合理的な計算に基づくとすれば、TSMCの存在は一定の抑止力になる」との考えを示す。

同社の海外展開は、補助金の拠出や人的交流を通じ各国と台湾当局の結びつきも強めるとみられるが、課題もある。

台湾のシンクタンク「中華経済研究院」の戴志言副主任によると、海外工場開設コストは台湾の約6倍。TSMCは研究開発も工場も交代制で24時間稼働させるほどのスピード感でビジネスを進めてきたとされ、工場運営や働き方、人材確保など「海外工場で、現地の文化と融合できるのかも課題」と指摘する。

ただ、日米独の工場稼働後も、最先端技術の研究開発と生産能力の大半は台湾に集中させるとみられ、「世界経済における台湾の重要性はさらに高まる」と川上氏は予測。台湾を中心とした半導体供給網が日米欧に広がることで、台湾の安全に対する西側諸国の関心も一層高まりそうだ。

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