露の対ウクライナ偽情報工作、越境攻撃受け機能停止に 情報戦でも転機 露系教会も標的に
産経ニュース / 2024年8月22日 18時54分
【キーウ=黒瀬悦成】ロシアに侵略されたウクライナによる露西部クルスク州への越境攻撃を受け、ロシアがウクライナに対して展開してきた偽情報工作が最近まで機能停止に陥っていたことが、ウクライナ当局の分析で明らかになった。奇襲攻撃で自国領土の一部を奪われるという想定外の事態に見舞われたプーチン露体制が苦境に陥っている表れとみられる。2022年2月24日の侵攻開始から2年半を迎えるウクライナ戦争は、情報戦でも大きな転機を迎えつつある。
正確な情報提示で対抗
ウクライナでは、国家安全保障国防会議(NSDC)の偽情報対策センターや国防省の情報総局、文化情報政策省の戦略コミュニケーション・情報セキュリティーセンター(CSCIS)などの機関がロシアの情報工作を追跡し、正確な情報を提示して偽情報を打ち消すなどして対抗する取り組みを進めている。
CSCIS副所長のミコラ・バラバン氏が産経新聞に語ったところでは、ウクライナ軍が露クルスク州に進撃した直後から、ウクライナへの偽情報工作が「フリーズ(停止)状態」になったことが確認された。
同氏によるとロシアの偽情報工作は、プーチン大統領やキリエンコ露大統領府第1副長官らトップの号令を受けて国営テレビや外務省、サイバー戦組織「トロール・ファクトリー」が稼働する、上意下達型の硬直した体制を敷いている。
現場が対応できず
このため、突然の事態に現場が柔軟に対応できず、自国の領土を奪われる失態をどう言い繕うべきか上層部の指示を待つ状態が最近まで続いていたという。
ロシアは数日前から、ウクライナが放射性の汚染物質を拡散させる「ダーティボム(汚い爆弾)」をクルスク州で使用する恐れがあるとの偽情報を流しているほか、露対外情報局(SVR)が21日付露紙で「越境攻撃には米英とポーランドの情報機関が準備に関与した」と主張するなど、露国民にウクライナや欧米への敵対心をあおる情報工作を展開し始めた。
だが、複数のウクライナ政府関係者の話では、同州ではウクライナ語を話す人も多いため住民の反発や抵抗は一切なく、ロシアの工作は現時点で空振りに終わっているとしている。
他分野でも対策強化
宗教など他の分野でもロシアの偽情報対策を強化する動きが目立ってきた。
ウクライナ最高会議(議会)は20日、ウクライナ正教会のモスクワ総主教庁系の活動を実質的に禁じる法案を賛成多数で可決した。ゼレンスキー大統領の署名で発効する。
モスクワ総主教庁系の正教会では、神父らが信者にウクライナ侵略を正当化する言説を説くなど、露政府の意向に沿った活動をしていることが問題視され、活動停止に追い込むべきだとする声が強まっていた。
一方、ゼレンスキー氏は19日の演説で、全世界に1200~2千万人いるとされる、難民を含む在外ウクライナ人をロシアの偽情報から守るため、専門の機関を設立すると発表した。
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