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ミサイル飛来でも演奏…日本人指揮者がウクライナで知った「音楽の力」 来年3月、現地オケと来日

産経ニュース / 2024年11月10日 9時0分

取材に応じるオペラ指揮者の吉田裕史さん=9月25日、都内(桑村朋撮影)

イタリア在住のオペラ指揮者、吉田裕史さん(56)が、ロシアの侵略を受けるウクライナの国立オデッサ歌劇場への支援を続けている。戦禍の現地で指揮者としてタクトを振り、新たな公演開催に向けた資金集めに奔走。努力の末、同歌劇場オーケストラの日本公演が来年3月に実現することが決まった。吉田さんは「戦禍の人々にとって音楽は生きる希望。彼らの魂の演奏を知ってほしい」と訴えている。

北海道生まれ、千葉県育ちの吉田さんは海外で20年以上活躍する世界的な指揮者だ。現在はイタリアのモデナ・パバロッティ歌劇場フィルハーモニー音楽監督を務めながら各国で活動する。

ウクライナとの縁が始まったのは2020年12月。オデッサ歌劇場で長崎を舞台にした作曲家プッチーニのオペラ「蝶々(ちょうちょう)夫人」を客演して成功したのを機に、首席客演指揮者に就任した。

露軍の侵略が始まった22年2月、歌劇場も休止を余儀なくされたが、数カ月後に再開した。ミサイルが連日飛んでくる中でも逃げずに公演を続ける関係者の姿に「心から胸を打たれた」という。

23年9月には侵略後で初めて現地入りし、プッチーニのオペラ「ラ・ボエーム」を指揮。当時の音楽監督だったベラルーシ人がプーチン露大統領との関係を疑われ、事実上更迭されたのを受け重要なシーズンの開幕公演を依頼された。「50カ国以上で指揮したが、戦地での演奏は会場の燃焼度が違った。客も心底から音楽を求めていた。音楽家人生で初めての感覚だった」と振り返る。

今年6月にも公演を指揮したが、そこでは軍人約100人が立ち見していた。演奏後、整列した兵士から「スラーバウクライーナ(ウクライナに栄光あれ)」の言葉とともに感謝された。「『これで明日、戦場に戻れます』と泣く兵士もいた。音楽が役に立てるのだと実感した」と語る。

ただオーケストラの現状は厳しい。約120人いたメンバーは現在、約70人に減少。兵役免除のオーケストラだが志願兵がおり戦死者も出た。戦争前まで演奏できたロシアの曲も禁止され、チャイコフスキーなどの名曲は披露できない。

「歌劇場のメンバーもロシアは許せないが、イデオロギーに関係なく名曲を届けたいとの思いがある。こんな状況を生んだ戦争が憎い」。自分にしかできない支援は何か-。思いついたのが「日本公演」だった。

「魂の音楽よ、日本に届け」を合言葉に、1月から資金集めに奔走。クラウドファンディングで2100万円以上を集めるなどし、オデッサ歌劇場オーケストラの日本公演の実現にこぎつけた。

公演は来年3月、神奈川、兵庫、北海道など計6カ所で実施予定。ただウクライナ政府の許可が下りていた旧ソ連で活躍した作曲家、ハチャトリアンの曲目はウクライナ関係者からの根強い反対で変更を余儀なくされた。吉田さんは「ロシアと関係があればどんな名曲でも演奏できないのが今の現実だ。ただ、困難な情勢にあるウクライナの音楽家たちを支援したいという気持ちには変わりなく、むしろ一層強まるばかりだ」と意気込む。

活動が評価され、今年9月に文部科学大臣表彰を受賞。今後は日本とウクライナの音楽交流に加え、日本を世界に貢献できる文化芸術大国にするのが「使命」といい、日本独自のオペラを制作するのが大きな目標だ。

「世界が混迷を極める中、音楽ができることは何か。それは時に共感であり、時に希望や感動を与えることだ」と訴える吉田さん。オデッサ歌劇場オーケストラと奏でる日本公演で、自身がウクライナで感じた「音楽の力」を全力で表現する。(桑村朋)

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