松田駐ウクライナ大使が離任 「広島スピリット」が和平に寄与 戦後秩序再構築へ率先を
産経ニュース / 2024年10月13日 14時0分
2021年から駐ウクライナ大使を務め、ロシアのウクライナ侵略を巡る現地対応をつかさどった松田邦紀氏が、12日の離任を前に産経新聞のインタビューに応じた。在任中の23年5月、ゼレンスキー・ウクライナ大統領が広島での先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)に参加し、グローバルサウス(南半球を中心とする新興・途上国)もまじえた合意文書を発表した。松田氏は、この経験がウクライナ和平のための国際会議「平和サミット」開催につながったと指摘し、国際秩序の再構築で日本がリーダーシップを発揮するよう訴えた。主な発言は次の通り。
■日本のウクライナ外交の成果
離任のあいさつをする過程で、ウクライナ大統領府や閣僚会議の高官から異口同音に言われたことがある。すなわち、以前の両国関係はごく平凡なものだったが、ロシアによる22年2月24日の全面侵攻以降、ウクライナは遠く離れたアジアに真の友人を発見したということだ。
ゼレンスキー氏が対面出席を果たしたG7広島サミットでは、G7とウクライナ、グローバルサウスの首脳が対面で議論し、4項目の重要な合意を達成した。
イエルマーク大統領府長官によれば、この広島での経験が「平和フォーミュラ」(ウクライナが提唱する10項目の和平案)を動かしていく上での大きなヒントになった。つまり、安全保障担当補佐官会議や大使級会議などの枠組みを作り、平和フォーミュラに基づく「平和サミット」の開催(24年6月)につながった。いわば「広島スピリット」が外交の大きな動きにつながったことを、議長国日本は誇っていいと思う。
今年2月には東京で日・ウクライナ経済復興推進会議を開き、両国の民間企業や地方自治体が参加して56本の文書に署名がなされた。これが後押しをする形で、6月にベルリンで行われた国際的なウクライナ復興会議につながった。復旧・復興でも日本は大きな流れを作ってきた。
■和平に向けてなすべきこと
いずれかのタイミングで停戦・和平が来る。公正で持続可能な和平を達成することが重要だ。このような侵略戦争が二度と起きないよう、再発防止のための仕組みを作る必要がある。日本がこの分野で引き続きリーダーシップをとる必要があると考えている。
国際秩序の再構築には、侵略戦争に関する特別法廷の設置可否という問題や、国際刑事裁判所(ICC)を中心に行われる戦争犯罪の追及などが含まれる。ロシアによる一方的な侵略の結果として生じた膨大な損害に対する賠償・補償や国連の機能強化も重要な課題だ。
この戦争は、他の一般的な領土紛争や内乱とは違う。第二次大戦の悲劇を繰り返さないよう人類が戦後築いた国際秩序に、ロシアは真っ向から挑戦している。あろうことか国連安全保障理事会の常任理事国が欧州であからさまにだ。これを放っておいたら、世界のどこにいてもその影響を受ける。ウクライナからの露軍撤退を含む公正で持続可能な和平を実現しなければ、必ず後世の国際社会に禍根を残す。
■グローバルサウスへの働きかけ
日本がさらに工夫を要するのはグローバルサウスへの働きかけだ。ウクライナ支援と対露制裁という点で、日韓を別にするとアジアの国の存在感は圧倒的に小さい。欧州から地理的にも政治・経済的にも遠いグローバルサウスの人々に、この戦争の本質について理解を深めてもらうことが今後の重要な課題だ。
グローバルサウスからは「ウクライナも大事だが他にもたくさん問題がある。なぜウクライナだけなんだ」という、単純だがわりと本質を突く疑問が常に呈されている。グローバルサウスへの対応はさらに工夫するべきだし、それを支える外交上の哲学や理論が必要になってくると思う。
同時に、ロシアの周りには北朝鮮やイランなど、侵略戦争を支援する国が少しずつ集まってきてしまっている。ロシアを軍事的に支援している国に強力な対抗措置を講じていくことが必要だ。
■日米欧の指導者交代、露の工作
日米欧で首脳やリーダーの交代時期を迎えている。ウクライナは、新しい指導者たちのもとで「支援疲れ」が出てこないかということを最も心配している。それに加え、ロシアによる認知領域の動きにも注意を向けている。つまり、ロシアは、日米欧の新指導者たちがあたかもウクライナ支援に熱心でないかのようなプロパガンダ工作を強めてくる恐れがある。
ウクライナ支援国とやや中立的な国、ロシア側に付いている国の間で外交上のせめぎ合いが本格化していく。ロシアは10月22日から自国で開催するBRICS首脳会議で何か仕掛けてくるかもしれない。11月の米大統領選から新政権が発足する来年初めにかけての数カ月間は、きわめて重要で目を離せない時期になる。
(聞き手 岡田美月)
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