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ロシア、ウクライナに「もし勝利」でも大損失が確実 地政学・軍事・経済の全てで〝赤字〟

産経ニュース / 2025年1月2日 15時0分

ロシアによるウクライナ侵略の早期終結を掲げるトランプ次期米大統領は1月20日の新政権発足後、本格的にロシアとウクライナに停戦を働きかける見通しだ。仮に一部のウクライナ領の実効支配をロシアに認める条件で停戦が成立すれば、ロシアは一定の「勝利」を収める形となる。ただ、その場合でも、過去約3年間にわたる侵略戦争でロシアが払った代償は地政学、軍事、経済の全ての面で膨大で、差し引きで言えば大赤字が確実だ。

一部領土で実効支配を受忍も

トランプ氏の停戦案の一部には、現在の前線を停戦ラインとして紛争を凍結させることが含まれているとされる。そうした中、ウクライナのゼレンスキー大統領は最近、北大西洋条約機構(NATO)からウクライナの安全が保証されるのであれば、占領下にある一部領土についてロシアの実効支配を受忍することは可能だとの考えを表明。「停戦には全領土からの露軍の撤退が必要だ」としてきた従来の立場を緩和した。

これに対してプーチン露大統領は、ウクライナがNATO加盟方針を放棄して「中立化」することや、ウクライナ南部クリミア半島と東・南部4州をロシアに割譲することを停戦条件に掲げている。ただ、プーチン氏は24年秋以降、詳細への言及は避けつつも、ロシアには「合理的な妥協」を行う用意があるとも発言。ウクライナのNATO加盟や既存占領地の放棄は容認しないとしても、現在の前線で停戦することには同意する可能性がある。

この場合、ロシアは事実上、ウクライナ領の一部を獲得し、軍事作戦の開始当初に掲げた「ウクライナ東部のロシア系住民の保護」という目標の一つを達成する形となる。

しかし、仮にロシアが一部ウクライナ領の支配という「利益」を得たとしても、そのために被った損失は多岐にわたる。

その一つは地政学的損失だ。ロシアは早期にウクライナを降伏させることに失敗し、軍事大国としての威信に傷が付いた。また、従来は中立を維持していた隣国フィンランドとスウェーデンのNATO加盟を招き、露欧間の戦略海域であるバルト海は「NATOの海」と化してしまった。

「勢力圏」を相次いで喪失

ロシアはウクライナ侵略戦争に専心した結果、旧来の「勢力圏」も相次いで喪失した。

23年9月、南カフカス地方の旧ソ連構成国アゼルバイジャンが、隣国アルメニアに実効支配される係争地ナゴルノカラバフの奪還作戦を行った。ロシアはアルメニアと軍事同盟を結んでいるが、ウクライナ侵略戦争で余力がないためにアゼルバイジャンを止められず、アルメニアの敗北を容認せざるを得なかった。この結果、アルメニアはロシアに不信感を募らせ、ロシアとの同盟関係を事実上停止した。

24年12月には、ロシアを後ろ盾としてきたシリアのアサド政権が反体制派の攻勢を受けて崩壊した。ロシアがシリア国内に租借してきた海軍基地と空軍基地の先行きは不透明になった。シリアの新政権が両基地の租借契約解除に動いた場合、ロシアは地中海地域に持つ唯一の軍事拠点を失うことになり、軍事的影響力の低下は避けられない。

アルメニアとシリアの情勢に共通するのは、ロシアが現地に駐留させていた部隊を引き抜いてウクライナに投入した結果、アゼルバイジャンやシリア反体制派への抑止力が低下していたことだと分析されている。「ロシアは頼むに値しない国だ」とのイメージが付けば、「非欧米諸国の結集による欧米陣営への対抗」というロシアの世界戦略には大打撃となる。

12月にはアゼルバイジャン航空機の墜落も発生した。ロシア人のほか、アゼルバイジャン人やカザフスタン人ら計38人が犠牲になった。仮に露軍の防空ミサイル誤射で墜落したことが確認されれば、旧ソ連圏でのロシアのイメージはいっそう悪化する。

軍再建には膨大な費用と期間

ウクライナ侵略に伴ってロシアが被った軍事的損失も膨大だ。ロシアは自軍の損害の全体像を公表していないが、米欧諸国やウクライナ、専門家らの分析を総合すると、戦死者だけで少なくとも10万人を超えているとみられる。負傷者はその数倍に上る見通しだ。

さらに、ロシアは黒海艦隊の旗艦「モスクワ」など主力艦の多くをウクライナ軍の攻撃で喪失。旧ソ連時代から備蓄してきた数千両とされる戦車もかなりの部分を失ったとの観測が強い。仮に停戦に至った場合でも、ロシアが軍再建のために相当な期間と費用をつぎ込まざるを得ないのは確実だ。

軍需偏重でインフレ、政策金利21%

ロシアが受けた経済的損失も大きい。ロシアは侵略で欧米諸国などから大規模な経済制裁を科され、先進技術のサプライチェーン(供給網)から切り離された。重要な外貨獲得源だった石油や天然ガスなどエネルギー資源の輸出では、主要顧客だった欧州が購入を大幅に減少させた。ロシアは中国やインドへの輸出を拡大しているが、足元を見られて割引価格での販売を強いられており、対欧州輸出の減収分を補えていないとみられている。

ロシアの国内景気は軍需生産の拡大で活況を呈し、賃金も上昇しているが、その反動としてインフレが加速している。露中銀によると、24年のインフレ率は9%を超える可能性がある。中銀はインフレを抑えるために24年秋、政策金利を21%に引き上げた。借入金を抱える企業は高金利のために利益を出すのが難しくなっており、銀行借り入れによる新規投資にも慎重になっている。

ウクライナ侵略がどのような形で決着しようと対露制裁は続く公算が大きい。現在の露経済を支える軍需産業も消耗品の武器・弾薬を製造しているのであり、富の蓄積にはなりがたい。

ある露経済の専門家は「停戦後、ロシアが平時の経済に戻る際にはハードランディングが起きる可能性が高い」と予測した。(小野田雄一)

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