民族対立、内政干渉…「イラクの二の舞」防げるか シリア・アサド政権崩壊から1カ月
産経ニュース / 2025年1月7日 18時29分
【カイロ=佐藤貴生】シリアのアサド前政権崩壊から8日で1カ月となる。政権打倒を主導した「シリア解放機構(HTS)」のアハマド・シャラア(通称ジャウラニ)氏を中心とする暫定政府は国民融和を掲げるが、前政権の独裁統治で分断された諸民族・宗派が和解できるかどうかは予断を許さない。復興への道筋が明確でない上に、周辺国の内政干渉の懸念も残っている。
政教分離にあいまいさ
シャラア氏や暫定政府のシェイバニ外相は今月、独仏やサウジアラビア、カタールの外相らと会談した。関係を強化して復興資金を求める狙いもうかがえる。7日には首都ダマスカスの空港で国際便の乗り入れが始まる予定で、国家再建の土台作りが進んでいる。
中部ホムス在住のムハンマド・タハさん(25)は産経新聞の電話取材に、「政治・経済情勢の安定には時間を要するが、暫定政府は国を再建する能力がある」と語った。
将来を楽観視するタハさんは多数派のイスラム教スンニ派に属する。一方で、アサド前大統領の下で庇護(ひご)されてきたイスラム教シーア派の一派アラウィ派や、キリスト教徒などの少数派は、他宗派の反発や襲撃におびえる。
HTSはかつて国際テロ組織アルカーイダと関係を持ち、欧米では「イスラム過激派」とみなされてきた。シャラア氏はネクタイにスーツを着用し、イスラム色の払拭に躍起だ。
ただ、暫定政府は学校のカリキュラム見直しを表明しており、教材の「国を守る」という一文の「国」が「神」に書き換えられたり、進化論や宇宙の成り立ちをめぐる「ビッグバン理論」の記述が削除されたりする可能性がある。政教分離をめぐるあいまいさは残っている。
トルコやイスラエルどう動く
国際的には、前政権の後ろ盾だったロシアやイランのシリアへの影響力は大きく減退しそうだ。半面、HTSと深い関係にあるとされるトルコや、シリアの要衝ゴラン高原を占領するイスラエルが今後どう動くかが注目される。
米国はかつてイスラム教スンニ派過激組織イスラム国(IS)の掃討に際し、クルド人主体の民兵組織シリア民主軍(SDF)と連携した。トルコが自国内の非合法武装組織、クルド労働者党(PKK)の分派だとして敵視するシリアの少数民族クルド人はイスラエルや米国と親しい関係にある。トルコはイスラム原理主義組織ハマスと戦うイスラエルを強く非難し、双方の関係は冷え込んでいる。
米外交誌フォーリン・アフェアーズ(電子版)は、中国の軍事的脅威が強まるなか、米国はシリアに駐留する小規模な米軍部隊の撤収に向け、制裁を解除するなどし暫定政府の統治能力を強化すべきだと指摘した。
米軍が2003年に侵攻してフセイン政権が崩壊したイラクでは、平和の到来が期待されながらも民族・宗派対立が後を襲って中東の混乱要因となった。シリアの再建が目に見える形で成果を上げなければ、「イラクの再来」となる事態も否定できない。
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