韓流ドラマ視聴で「友人が銃殺」 自由を求め漂流44時間 20代脱北女性が語る金正恩政権の「韓国敵視」政策
産経ニュース / 2024年12月28日 13時0分
北朝鮮から韓国に木造船で漂着した脱北者一家の20代女性が11月、都内で産経新聞のインタビューに応じ、金正恩(キム・ジョンウン)政権で強まる韓流文化の取り締まりの実態を証言した。女性は韓国ドラマを視聴したとの理由で友人が銃殺刑に処されたことで、厳しい統制から逃れ「自由を手に入れたい」と脱北を決意した。
「違う国で生まれ変わりたい」 脱出のボートに警備艇から銃撃
待ち合わせした都内のカフェに現れたのは、髪を明るく染め、白いコートをまとった姜ギュリさん。脱北後1年ほどしかたっていないが、ファッションも話し方もソウルの女性と見分けがつかない。韓国ドラマ好きで、『梨泰院(イテウォン)クラス』『キム秘書はいったい、なぜ?』など最近の作品も密かに北朝鮮で見ていたというから、韓流の浸透ぶりが伺える。
姜さんは北朝鮮北東部の咸鏡南道(ハムギョンナムド)出身。2023年10月、母とおば、船員の計4人で木造船に乗り、脱北した。
普段、貝を取りに海に出た際は何事もなかったが、韓国へ向かって出航するとすぐに警備艇が銃撃しながら追ってきた。追跡を振り切り、44時間漂流した末に、韓国北東部の江原道(カンウォンド)束草(ソクチョ)にたどり着いた。ひたすら願ったのは、「死んだら違う国で生まれ変わりたい」。命をかけて自由を求めた。
言葉遣いも検閲対象…「韓国式」への厳しい取り締まり
脱北した理由は、金正恩政権で韓流文化への統制が強まったことへの不満だ。漁船を管理する裕福な家庭で育ち、食べることにも困らなかったが、「北朝鮮には自由がない。できることは、とても限られていた」と振り返った。
金政権は近年、若者らに流行する韓国文化に神経をとがらせ、反動思想文化排撃法(20年)、青年教養保障法(21年)、平壌文化語保護法(23年)といった法律を制定し、ドラマの視聴や流布、韓国式の言葉遣いまで取り締まっていた。
姜さんも、道を歩いているだけで服装を見た軍人に「韓国式だ」とたびたび呼び止められ調査された。スマートフォンも取り上げられ、韓国式の言葉遣いをしていないか検閲されたという。姜さんは摘発されなかったが、友人が韓国ドラマを見たという理由で警察署に連行された後、銃殺されたと聞いた。
「韓国ドラマを見ることが銃殺されるほどのことなのか…。理解できなかった」。いつか自分もそうなるのではないかと不安が募った。
脱北者の番組視聴し「韓国に行く」決心
姜さんの祖父は、1960年代の北朝鮮帰国事業で日本から親族とともに北朝鮮に渡った在日朝鮮人だった。姜さん一家は北朝鮮で海岸近くにアンテナを立て、韓国のラジオや公共放送KBSなどもよく視聴した。姜さんは中学生の頃には脱北を意識するようになっていた。
特に印象に残っているのは、韓国で暮らす脱北者が北朝鮮について証言するKBSの番組だ。同じ北朝鮮住民が脱北し、韓国で支援を受けながら成功をつかんだと涙ながらに語る姿を目にした衝撃は忘れられない。「絶対に韓国に行かないと」と決意したという。
金正恩政権は今年、韓国を「敵対国」と定義する憲法改正に踏み切り、金日成(イルソン)、正日(ジョンイル)政権が掲げてきた「南北統一」政策を否定する動きを強めている。
ただ、姜さんは韓国敵視政策は「ずっと以前から」との認識で、驚きはないという。住民は統一を願っているが、金正恩政権に入って以降、統一についての教育を受けたことはないとも断言した。
脱北後、ソウルで大学入学を目指す姜さんだが、気がかりは北朝鮮の友人たちの境遇だ。脱北者として北朝鮮の人権状況を証言することで、「国際社会が少しでも関心を寄せ、彼らを救う助けになってくれたら」と願いを語った。(石川有紀)
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