韓国の「帝王的大統領」が陥る「独善」の連鎖 ソウル支局長・桜井紀雄
産経ニュース / 2025年1月15日 17時16分
韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が「非常戒厳」宣布を理由に現職大統領として初めて身柄拘束された。韓国では退任や罷免後に逮捕されたり、自殺したりする大統領経験者が相次ぎ、存命の元大統領のうち無傷なのは文在寅(ムン・ジェイン)前大統領ただ一人だ。文氏も娘の不正疑惑で捜査対象となっている。
韓国大統領は「帝王的大統領」とも呼ばれる。強大な権力が集中するだけでなく、再選がなく米大統領のように選挙の中間審判を受けないため、「独善」にはまりやすい点が指摘されてきた。
尹氏は国民目線とかけ離れた「帝王」と化さないようにと、大統領府を宮殿のような「青瓦台」から旧国防省庁舎に移した。出勤時に記者のぶら下がり取材に応じ、メディアを通じた国民との意思疎通をアピールした。
だが、一部記者との確執でぶら下がり取材は約半年で中断。国会で多数派の野党に阻まれ、政策は思い通りに進まず、妻が疑惑でバッシングされる中、野党を北朝鮮の従属勢力とみなす過激な主張のネット番組に没頭していったとされる。
弾劾された朴槿恵(パク・クネ)元大統領も周囲との意思疎通を欠く「不通」と呼ばれたが、それ以上の「不通」ぶりを体現することになった。
野党が主導権を握る国会を尹氏が「犯罪者集団の巣窟」「自由民主主義を崩壊させる怪物」と非難した戒厳宣布の際の談話は一部支持者に歓迎されても一般国民の理解は得がたく、「独善」以外の何ものでもなかった。
朴氏が弾劾訴追された際、退陣を求めるデモに参加した人たちは民主主義の発露だと自慢した。逆に尹氏の弾劾訴追後は自国が「恥ずかしい」と漏らす人が少なくない。
韓国ではコツコツ実績を積み上げた政治家より「帝王」のごとき型破りな指導力を大統領に求める傾向がある。過去の大統領の不幸な政権末期を受け、改憲によって5年1期の大統領任期を米国のように4年で再選を認める制度に改め、大統領権限も縮小すべきだとの議論が持ち上がっては先送りさせてきた。
韓国の有権者は今度こそ、大統領に「帝王」を投影させる政治風土と、それを可能にする制度にメスを入れない限り、不幸は繰り返されることを肝に銘じるべきではないか。
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