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尹氏の「価値」外交崩壊がもたらす北東アジアの危機 ソウル支局長・桜井紀雄

産経ニュース / 2024年12月14日 19時38分

韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領が軍部隊を国会に突入させた「非常戒厳」の宣布は、民主主義国家としての韓国の信用をおとしめ、自らを失脚させただけではない。尹氏が唱えた「自由民主主義の価値を共有する国同士の安全保障連携」という理念も大きく傷つけた。北東アジア安保への負の影響は避けられない。

尹氏は韓国の外交・安保の殻を破ろうとした。北朝鮮の核・ミサイルの脅威から国を守るために日米との安保連携は不可欠だとの信念の下、対日関係改善を急いだ。野党が「自衛隊が朝鮮半島に進駐する」と国民の不安をあおろうとしても意に介さず、日米韓の共同防衛訓練を定例化させた。

日米のインド太平洋戦略と共同歩調を取り、北大西洋条約機構(NATO)加盟各国とまで安保協力の幅を広げた。対北問題を進展させるため、米日中露という周辺4大国からの協力取り付けにきゅうきゅうとしてきた韓国の外交・安保政策を大転換させた。

戒厳宣布と外交的成果は別だとの見方がある。ただ、尹氏は12日の談話で強調した。「私は就任以来、一瞬も個人的人気や地位にこだわったことはない。地位の保全を考えれば、戒厳宣布はなかった」。北朝鮮の脅威に対する危機感と世論を恐れずに信念を貫く政治姿勢が外交・安保策の大胆な転換を可能にした。その裏返しとして、国内の親北野党勢力に対する危機感と周囲の声を聞かずに突き進む姿勢が戒厳の背景にある現実は重い。

野党は尹氏が中朝露を敵視し、日本と密着したと批判してきた。経済関係の深い中国との融和や対北対話を優先する野党が政権を取れば、朝鮮半島と台湾海峡での有事の同時進行に備えた日米との安保協力を前向きに進めるとは考えにくい。

韓国外交は再び殻に閉じ籠もるだろう。中朝の脅威が急速に増す中、それがもたらす安保危機を日本政府は自覚しているだろうか。

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