1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 国際
  4. 国際総合

犯罪組織の介入招く? メキシコ、裁判官の「公選制」巡り強まる反発

産経ニュース / 2024年9月14日 9時0分

10日、メキシコの首都メキシコシティで、ロペスオブラドール大統領の司法改革に反対し、上院に乱入する抗議者(AP)

メキシコの左派ロペスオブラドール大統領が、市民による選挙で裁判官を選ぶ「判事公選制」を柱とする司法改革を急ピッチで進めている。自身の政策に反対する最高裁判事を入れ替える狙いがあるが、新制度案で末端の裁判官まで公選制の対象としたことで反発が拡大している。政党や利益団体のほか、犯罪組織が裁判官選出に介入するとの懸念が浮上。司法の独立性が揺らぐとの警戒感は隣国の米国にも広がっている。

世界でも異例の司法改革

判事を巡る新たな制度案は、軍事法廷など一部を除き、全ての連邦・州・自治体レベルの裁判所の判事を選挙で決める内容だ。米紙ニューヨーク・タイムズによると、全国の7千を超える判事ポストが対象となり、世界的に「異例」(米コーネル大法科大学院のミッチェル・ラサ教授)という。

新制度案では、連邦裁判事に立候補するための要件は、法律の学位と数年の法曹界での実務経験などを求めている。国家試験に合格したうえで経験を積み、能力を認められて初めて判事となる現行制度から、大幅に緩和される。

また、連邦最高裁判事の定数は現行の11から9に削減される。大統領が指名して上院が承認する現行の仕組みが廃止され、大統領府と立法府、司法府が10人ずつ推薦した候補の中から、国民が直接投票で選ぶとされる。

憲法改正へ与党に勢い

ロペスオブラドール氏が司法改革に注力する動機は、「選挙管理当局の改編縮小」「国家警備隊の国防省への指揮移管」といった自身の目玉政策に対し、最高裁が次々と「違憲判断」を下したためだ。最高裁は、ロペスオブラドール氏のポピュリズム(大衆迎合主義)色が強く、「権力の監視と分散」への関心が薄い政策に反対している。

改革は、反目する最高裁への「意趣返し」(野党議員)という。ロペスオブラドール氏の「まな弟子」と強調して6月の大統領選で勝利し、10月に就任するシェインバウム次期大統領も改革を支持している。

判事公選制導入には憲法改正が不可欠で、改正には上下院で議員の3分の2を超える賛成が必要となる。下院は今月4日、上院は今月11日、それぞれ与党連合が提出した司法改革のための憲法改正案を3分の2を上回る賛成で可決した。

米メディアによると、憲法改正案の発効には、メキシコの全32州のうち少なくとも17の州議会で批准される必要があるが、ロペスオブラドール氏率いる与党は27の州議会で過半数を占めており、司法改革は現実味を帯びている。

批判に激高した大統領

ただ、新制度案を巡る反発は強い。10日には、司法改革に抗議するデモ隊が上院の議場に乱入する事件も起きた。

問題点は複数指摘されている。選挙で任命された判事は再選を見据えて、支援を受けた政党・利益団体を満足させることを優先させる事態が想定される。判事になるための要件が大幅に緩和されるため、判事の専門能力の低下が生じる可能性がある。

さらに懸念されるのが犯罪組織の司法への介入だ。国内では、麻薬密売などを手がける犯罪組織が跋扈(ばっこ)し、治安の悪化が顕著だ。2022年まで5年連続で殺人による死者が3万人を超え、今年6月の大統領選・連邦議会選の選挙期間だけで候補者ら90人以上が殺害された。犯罪組織に厳しい政策を打ち出した候補や選対幹部らが標的になったようだ。

犯罪組織が裁判官選出選挙に選挙献金を通じて介入する可能性があるほか、犯罪組織の息のかかった判事が当選する懸念すらある。国連の「裁判官と弁護士の独立に関する特別報告者」であるサタースウェイト氏は、判事公選制について、「すべての裁判官を選挙で選ぶことは重大なリスクをもたらす」と懸念を示した。

判事公選制は米でも悪評

米国のサラザール駐メキシコ大使も判事公選制は「メキシコの民主主義の機能にとって大きなリスクだ」と指摘した。ロペスオブラドール氏はこの発言に内政干渉だとして激高し、在メキシコ米国大使館との関係を「休止する」と発表。米国も「判事公選制を導入しているではないか」と反論した。

確かに、米国でも大半の州が、一部の判事について公選制を導入している。

しかし、米国でも、判事公選制は「世界で最も政治的な司法制度」(米ヒューストン大のリディア・ティーデ教授)と評判が悪い。女性初の米連邦最高裁判事として知られる故サンドラ・オコナー氏は元々、公選された州判事だったが、利益団体の「腐敗した影響」から司法判断の完全性を守るとして、判事公選制に反対する主唱者となった。

米スタンフォード大法科大学院のアムリット・シン教授は、ロペスオブラドール氏による司法改革は、「メキシコの民主主義を死に導くものだ」と撤回を求めた。(ニューヨーク 平田雄介)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください