ベネズエラ独裁政権に背を向けるブラジル 中露と別の判断、G20議長国「変節」は本物か
産経ニュース / 2024年10月28日 9時0分
ブラジルの左派、ルラ大統領が、隣国ベネズエラで独裁体制を固める反米左派のマドゥロ大統領に背を向け始めた。ルラ氏は同じ左派のマドゥロ氏とイデオロギー的な親和性があると考えられていた。しかし、マドゥロ氏が3選したと主張する今年7月の大統領選を承認せず、来年1月10日に予定される大統領就任式への出席も見送る方向だ。ブラジルのアモリン大統領特別顧問が先月、金融紙ヴァロー・エコノミコの取材に明らかにした。内外で高まる「マドゥロ批判」を考慮したとみられる。
同じ左派、イデオロギー的に波長が合う
ルラ氏は昨年1月の大統領就任以降、ベネズエラとの関係を強化してきた。ブラジルは南米最大の民主主義国であるだけに、ベネズエラとの接近は奇妙ともいえる動きだった。現地外交筋によると、労働者党政権を率いるルラ氏は、社会主義を掲げるマドゥロ氏と「イデオロギー」で波長が合う。「マドゥロ氏との絆を重視するあまり、強権的な政治手法に目をつぶることさえあった」という。
昨年5月には、ルラ氏は首都ブラジリアにマドゥロ氏を招待して会談し、共同記者会見で「マドゥロ氏が国民に選ばれたベネズエラの大統領であることを否定するのはばかげている」と言ってみせた。ベネズエラでは2017年に国会の立法権が剥奪され、18年の大統領選は野党がボイコットした状況で行われたにも関わらずだ。
そのルラ氏は今年7月のベネズエラ大統領選を機に態度を変えた。劣勢と報じられていたマドゥロ氏は、自らが敗北すれば「血で血を洗う内戦」に陥るなどと発言。ルラ氏はこの発言に「恐ろしい」と強い懸念を表明し、ブラジルはマドゥロ政権から依頼されていた選挙監視団の派遣も見送った。
7月のベネズエラ大統領選については、国連から派遣された専門家が「マドゥロ氏勝利」との選管発表に疑義を唱えた。国際社会では米国や欧州連合(EU)、チリ、アルゼンチンなどが選管発表を疑問視する一方、ロシアと中国は「祝意」を示してマドゥロ氏の勝利を認めた。
ブラジルは経済的に中露への依存度が高い。農業国として肥料輸入をロシアに、農産物輸出を中国に頼っているためだ。ブラジルはロシアのウクライナ侵略で対露制裁に加わらず、中国とともにウクライナに不利な和平案への支持拡大を図っている。「隠れロシア派」とも批判される立場をとってきた。
ルラ氏は今回、マドゥロ氏の勝利を承認せず、中露とは判断が分かれる形となった。ブラジルの対ベネズエラ関係には「かすかだが、明白な変化が起きている」。ブラジル外務省出身の英オックスフォード大講師、フェリペ・クラウセ氏は今月8日の米外交誌フォーリン・ポリシー電子版でこう分析した。
大勢のベネズエラ難民に共感広がる
クラウセ氏が「変化」の要因として挙げるのは、マドゥロ政権の圧政によって発生した大勢のベネズエラ難民に対し、ブラジルで共感が広がっているということだ。ブラジル国民の6割超が「マドゥロ氏は選挙不正を行ったと思う」と答えた世論調査もある。
ブラジルで10月27日に実施された統一地方選(決選投票)や2年後の大統領選をにらみ、選挙不正や圧政に目をつぶれば中道や無党派層を遠ざけかねないとの判断もルラ氏には働いているとみられる。
ルラ氏が就任した昨年1月、ブラジルでは、大統領選での敗北を認めない右派ボルソナロ前大統領の支持者らが議会や大統領府を襲撃した。難を逃れたルラ氏はこの事件後、民主主義の擁護を一段と強く訴え、支持基盤の左派に加え、中道や無党派層の結集を図ってきた経緯がある。
ベネズエラを巡るルラ氏の姿勢には、なお曖昧な部分が多い。7月のベネズエラ大統領選の結果を承認していないが、否定もしていないように映る。ルラ氏が来年1月のベネズエラ大統領就任式を欠席することについて、前出のアモリン・ブラジル大統領特別顧問は「今日の時点では」と留保をつけ、情勢の変化に伴う出席もあり得ると示唆している。
ブラジルは11月の先進20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)の議長国であるだけに、ルラ氏の「変節」が本物なのかが注視される。中米の権威主義国ニカラグアから亡命した元外交官アルトゥロ・マクフィールド氏は「ルラ氏はイデオロギーを離れ、自由と人権の価値を高めなければいけない」と訴えている。
(ニューヨーク 平田雄介)
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