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ユダヤ対ペルシャの新たな中東戦争 長期化は避けられず 中川浩一・日本国際問題研究所客員研究員

産経ニュース / 2024年10月6日 14時18分

日本国際問題研究所の中川浩一客員研究員(本人提供)

パレスチナ自治区ガザを巡るイスラエルとイスラム原理主義組織ハマスの衝突が始まって7日で1年となる。元外交官で中東情勢に詳しい日本国際問題研究所の中川浩一客員研究員は、中東の広範囲に戦闘が広がっているとして、現状を「ユダヤ対ペルシャの新たな中東戦争」だと指摘する。

◇ ◇ ◇

ハマスの奇襲でイスラエル人が200人以上人質に取られてから間もなく1年となる。当時は大量の人質奪取がイスラエル建国史上初の出来事だとして、ネタニヤフ政権に退陣を求める声が強まった。その後、ネタニヤフ首相は自らの失態を「建国時以来の第二次独立戦争」、「イスラエルの9・11事件」との表現を使い、「国土を守る戦い」として巧妙に正当化した。また米大統領選挙をにらみ、イスラエルを支持せざるを得ない米国を巻き込むことにも成功した。

今ではイランと、その代理勢力であるハマス(ガザ)、ヒズボラ(レバノン)、フーシ派(イエメン)との「4正面」の戦いが対テロの「正当な戦争」として、イスラエル国内で一定の支持を集め、ネタニヤフ氏は自信を取り戻している。

ガザでの軍事作戦も、ハマスの殲滅(せんめつ)という目標に人的、インフラの面では近づいているといえる。そして7月以降は、イスラエルは対イラン、ヒズボラなどを優先度させており、世界はガザを忘れつつある。こうした状況を醸成し、パレスチナ問題の矮小化(わいしょうか)を狙おうというのがイスラエルの戦略だ。

この1年の事態の拡大は、イスラエル主導で進んでいることも忘れてはならない。4月のイランの史上初のイスラエルへの攻撃も、先にイスラエルがシリアのイラン大使館を攻撃していた。7月のテヘランでのハマス指導者ハニヤ氏や、8月のヒズボラのナスララ師の殺害もそうだ。今や誰もイスラエルを止められなくなっている。

イランは7月に改革派のペゼシュキアン大統領が就任し、欧米融和路線を模索していた。しかし度重なるイスラエルの挑発により、周辺地域での政治的地位低下を恐れたイランは今月、やむを得ず2度目の報復を行った。近くイスラエルは必ず相応の報復を行うだろう。イスラエルには、1980年代にイラクの核施設を攻撃した〝前科〟があり、今回も可能性は否定できない。

これまで4度の中東戦争はイスラエル対アラブの構図であったが、この1年はイスラエル(ユダヤ)対イラン(ペルシャ)およびその代理勢力の構図になり、新たな中東戦争が勃発していると言っていいだろう。戦闘はガザから中東の広範囲、点から面に広がった。今後も戦線が点々と変わっていくだろう。

戦火を終わらせるためには、各国は事態拡大をもくろむイスラエルに停戦を求め続ける必要があるが、米国は中東への影響力が低下し、抑止力が効かない。次期大統領がトランプ前大統領なら、ネタニヤフ政権を一層後押しするだろう。ハリス副大統領になれば、ネタニヤフ氏はバイデン大統領と同様に米政権を軽視する可能性が高い。こうした状況下では、米国はイスラエルを止めることはできず、戦争の長期化は避けられないだろう。

日本には、国益を考えた行動が求められる。石破茂新首相はイランの報復攻撃を非難したが、反イランの米国に無条件に追従するような発言は避けるべきである。いま必要なのは言葉での非難ではなく、イスラエル、イラン双方の当事国に停戦を働きかけるトップ同士の外交努力だ。

また、今回の戦争に直接関与していないサウジアラビアやアラブ首長国連邦などのアラブ諸国が戦争に巻き込まれれば、中東湾岸産油国に原油の95%超を依存する日本は危機的状況に陥る。これらの国にも同様に外交的努力を求め、日本としての関与も強めるべきだ。

今こそ、日本には米国と一線を画した〝新中東戦争〟に対処する独自の政策と知恵が問われている。(聞き手 桑村朋)

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