息吹き返す「イスラム国」各地に温床 「カリフ制国家」創設宣言から10年、相次ぐテロ
産経ニュース / 2024年8月5日 10時0分
イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)のテロが今年に入って相次いでおり、開催中のパリ五輪でも厳戒態勢が続く。バグダディ容疑者をカリフ(預言者ムハンマドの後継者)とする疑似国家の創設宣言から今年6月で10年。イラクとシリアにまたがる広大な地域を支配したISは、米軍などの掃討作戦で一時は壊滅状態に陥った。しかし、関連組織が南アジアやアフリカに拠点を築いているほか、シリアでも息を吹き返している。
モスクワの大規模テロなど実行
ISに忠誠を誓う関連組織はアフリカや中東、アジアに存在する。中でも最近、活発な動きを見せているのが、アフガニスタンやパキスタンにまたがる地域を拠点とする「ISホラサン州」(2015年設立)だ。
今年1月にイラン南東部で80人以上が死亡した自爆テロや、3月にロシア・モスクワ郊外のコンサート施設で140人以上が殺害された銃乱射テロは、「ホラサン州」に属するタジキスタン人らの犯行だったとされている。
イランではイスラム教シーア派、ロシアではキリスト教東方正教会の信徒が多数派。「背教者」を攻撃し、宗派間対立をあおるISの手法を見て取れる。
「ホラサン州」はアフガンで、実権を握るイスラム原理主義勢力タリバンを「偽善者」とみなして敵対している。隣接する中央アジアの最貧国、タジキスタンで人員の獲得を活発化させてきた。
貧困、政情不安の国々で人員獲得
IS系勢力の活動はアジアにとどまらない。英BBC放送(電子版)によると、アフリカにはISの支部が5つある。近年のクーデターで軍部が相次いで実権を掌握したニジェールなど西部3カ国に加え、中部のコンゴ共和国(旧ザイール)や南東部モザンビークに地盤がある。
これらアフリカ諸国では軍閥や民兵がらみの紛争が絶えず、ISは将来に希望を持てない若者の受け皿になっているようだ。治安が悪化すれば、欧州を目指す密航者が増えるという分析もある。米財務省は7月下旬、南アフリカなどを足場にISの資金獲得活動に関与したとして、3個人を独自の制裁対象とした。
内戦状態が続くシリアを巡っては、欧米拠点の非営利組織「過激派対策プロジェクト(CEP)」の集計がある。それによると、ISは6月にシリアで少なくとも29件の攻撃を行い、親アサド政権の兵士ら約50人を殺害した。件数、死者数ともに5月を上回った。
シリアの妻子拘束施設から「連れ出し」疑い
ISがシリアで戦闘員の「予備軍」を養成している疑いも出ている。
米CNNが6月に報じたところでは、シリア北東部にはIS戦闘員の結婚相手の女性やその子供ら6千人超が拘束されている施設がある。この施設からは「10~15歳の少年が毎月20~30人ずつ、ISの訓練施設に連れ出されている」という。
CNNのサイトに掲載された施設内の動画には、黒装束の母親らがISに連帯を表明し、子供たちがカメラに向けて投石する姿が映っていた。母子でISに共鳴する思想が受け継がれている恐れがある。
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによれば、シリア北東部にはこうした施設が約30あり、ISに関連する男女や子供ら5万6千人超が暮らしている。出身国は70カ国超に及ぶが、大半の国が帰還者の受け入れに難色を示し、放置された状態が続いている。大量脱走などが起きれば、ISの再編を加速させかねない。
施設を運営しているのは、米国と共闘して5年前、シリアのISを壊滅状態に追い込んだ少数民族クルド人の民兵組織だ。アムネスティは、人々が明確な基準もなく無期限に拘束され、性暴力や電気ショックなど拷問も行われる「非人道的な状況」が続いていると主張。「米国はこのシステムに多くの面で関与している」と批判している。(カイロ 佐藤貴生)
◇
イスラム国(IS) 2014年6月29日、「イラク・シリアのイスラム国」が政教一致のカリフ制国家の樹立を宣言し「イスラム国」を名乗った。15年にはジャーナリスト後藤健二さんら日本人2人の殺害を公表した。イラクとシリアにまたがる広大な地域を支配したが、米軍などの掃討作戦で19年3月、全ての支配地域を一時失った。カリフを名乗ったバグダディ容疑者は19年10月、シリア北西部の潜伏先を米軍に急襲され、自爆して死亡した。
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