【書評】作家・関川夏央が読む『隣国への足跡』黒田勝弘著 「日本人になりかけた」韓国の切ない事情

産経ニュース / 2017年8月13日 10時2分

『隣国への足跡』黒田勝弘著(産経新聞)

 著者・黒田勝弘は1978年、36歳のとき共同通信記者として韓国に語学留学、80年、ソウル支局に赴任した。

 彼以前の特派員は韓国語ができなかった。日本でおもに北系在日コリアンから反韓国的知識を注入され、現地では日本語のできる現地の助手に頼って記事を送る、そういう「韓国報道」を一変させたのは著者である。

 89年、「好きなだけ韓国にいてもいい」といわれて産経新聞に移籍、75歳の今日まで在住35年におよぶ。韓国への愛着と批評精神をあわせ持つ「黒田コラム」を読むために産経新聞を買う人は私を含め少なくないが、この本では日韓関係現代史と著者自身の職業人生回想を重ねた。

 黒田氏が初めて韓国旅行をしたのは、71年8月、29歳のときである。現地の明るい印象は、日本でイメージしていた(イメージさせられていた)ものとまったく違っていた。

 その3カ月前の71年5月、3年ぶりに再開された北朝鮮帰還船を新潟港に取材した黒田氏は、「人道の船、北へ」という見出しの記事を書いた。流行の空気に棹(さお)さし、手拍子で書いた記事への「痛恨の思い」と韓国旅行の記憶がその後の道を決めた。

 日本時代の韓国には「反日」の気運は少なかった。ことに戦争中、韓国人は日本の戦果に熱狂した。「日本人になりかけた」そんな経験があったからこそ、「反日」と「民族主義」を梃(てこ)に「韓国人」をつくらなければならず、それが浸透する65年まで日韓基本条約を締結できなかったのである。

 声高に「歴史」をうんぬんするコリアンだが、それは実証的な歴史を意味しない。ただ「かくあるべきだった歴史」に固執してやまぬわけで、日本人との歴史議論が噛(か)み合わないのは当然だ。そういう状況下に生きざるを得ない韓国人を私などは「情けない」と思うが、黒田氏は同情をこめて「切ない」と評する。

 永住しても韓国に「からめとられる」ことなく、冷静さとユーモアを失わない黒田勝弘の存在は、「貴重」の一語に尽きる。(KADOKAWA・1600円+税)

 

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