吉野辰海の新作展 この世の生命を犬に仮託

産経ニュース / 2018年2月15日 10時2分

「SCREW 77×1/1」

 展示されているのは、老犬と唐辛子の立体作品…。犬たちは、悲哀があったりユーモラスに見えたりと、表情豊かだ。長年、現代美術の第一線で活躍してきた美術家、吉野辰海(たつみ)(78)の新作展が東京・銀座の画廊で開催されている。個展は3年ぶりとなる。

 ドローイングを含め20点を展示。会場中央に置かれたのは、「SCREW(スクリュー) 77×1/1」というタイトルの作品。等身大で、筋肉は落ち肩甲骨や背骨がくっきりと出っ張り、老いは隠せない。頭を垂れて元気なさそうだが、顔はきりっとしている。威厳があり哲学的な顔は、考え事をしているようで“考える犬”だ。粘土で原型をつくり、FRP(繊維強化プラスチック)で成形し、油絵の具で着色して仕上げた。

 吉野は宮城県に生まれ、武蔵野美術大に進学した。大学在学中の昭和35年、伝説の前衛芸術グループ「ネオ・ダダイズム・オルガナイザーズ(ネオ・ダダ)」に参加。花火などを使った先鋭的な作品で、美術の概念を壊す「反芸術」表現で暴れた。「ネオ・ダダ」の生き証人で、いまも活動する数少ない人物だ。

 これまで、象、少女、犬を主なモチーフにした作品を制作してきた。なかでも犬は特別で40年ほど前から現在まで取り組んできた。「幼い頃に飼っていて、ある日突然、行方がわからなくなってしまった犬の記憶が強い。この世の生命を犬に仮託している」と吉野は話す。2本足で人間のように立っている作品もある。しばしば身体の部分には、永遠に続くらせんをイメージさせるねじれを取り入れてきた。

 頭部だけの作品もある。正面から見ると、なんとなくとぼけている。左右の横顔の印象は異なり、一方は悲しそうで、もう一方は温和。見る位置だけでなく、鑑賞者によっても見え方は異なるだろう。どうにでも解釈できるのがいい。長い首はわずかにねじれを見せ、頭のてっぺんにはなぜか真っ赤な唐辛子が突き刺さっている。

 「唐辛子は覚醒効果の意味がある。唐辛子を立体化する作家はいないから」

 意味があるようでなさそうな、ナンセンスな味わい。会場には唐辛子のカラフルでポップな作品もあり、にぎやかだ。

 高揚した精神で老いても旺盛に制作を続ける吉野。やせこけシワだらけの老犬は、作者自身の投影された姿なのだろう。“考える犬”は甘く見たら不意にかみついてきそうだ。(渋沢和彦)

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 「吉野辰海新作展」は24日まで、日曜休。ギャラリー58(電)03・3561・9177。

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