脂がのった名残の味 晩秋の「戻りガツオ」

産経ニュース / 2020年11月22日 8時2分

たれをつけずにカツオのうまみを存分に楽しむ「藁(わら)焼きカツオの塩たたき」(1950円、税込み)。炎にかざし、かたい皮とやわらかい身で火の入れ具合を変えながらまんべんなくあぶる(酒巻俊介撮影)=東京・銀座「おきゃく」

 秋の味覚「戻りガツオ」のシーズンが終盤を迎えた。さっぱりとした初ガツオとは対照的な、脂がのった濃厚な味わいに魅力がある。名残の味を求めて、銀座に足を運んだ。

(榊聡美)

 わらの炎であぶる

 厨房の隅に真っ赤な炎が高々と上がる。焼き網にのせたカツオを炎の先にかざしながら、表面を豪快にあぶっていく-。

 東京・銀座にある高知県のアンテナショップ内のレストラン「おきゃく」にはこの時季、わら焼きしたカツオのたたきを目当てに訪れる人が後を絶たない。

 「一番火力が強い所を探しながら、皮から焼いていくんです。指先で触って弾力を確かめると、火の入り具合がわかります」と、あぶるコツを山下裕司料理長(63)が教えてくれた。

 わらは少量の油分を含み、燃やすと炎の温度は600~800度に達する。この強い火力で表面だけ薄く火を通し、中は完全な生の状態に仕上げる。あぶりたてを分厚く切ると、深みのある赤色の身が現れた。

 「駆け出しの頃は、『げたの歯くらいの厚さが一番おいしい』と教わったものです」

 トロにも負けない

 塩たたきを、生ニンニクのスライスをのせていただく。まとわりつくような、ねっとりとした食感。濃厚なうまみの後から、わらの薫香が追いかけてくる。

 カツオは年に2回、旬がある。春から初夏に群れをなして太平洋を黒潮にのって北上するときに獲れる初ガツオ。栄養を蓄えて秋に南下するのが戻りガツオだ。脂ののりに大きな差がある。日本食品標準成分表平成27年版(七訂)で比較すると、100グラム当たりの脂質は初ガツオが0・5グラム、戻りガツオは6・2グラム。中にはマグロのトロに負けず劣らずな「トロガツオ」の異名を取るものも。

 戻りガツオに最適とされる、たたきの起源は諸説ある。1つが、江戸時代の漁師の知恵から生まれた、という説だ。当時の土佐藩主、山内一豊が食中毒防止のため魚の生食を禁止。生でカツオが食べたい漁師は、表面だけをあぶって焼き魚に見せかけた。「これが有力だと思う」と、山下料理長は力を込める。

 日本にいなくなる?!

 昭和50~60年代に人気を呼んだ漫画「土佐の一本釣り」の舞台で、全国的に「カツオの町」で知られる同県中土佐町。食堂や鮮魚店が軒を連ねる「久礼大正町市場」には例年、国内はもとより海外からも食通が詰めかけるが、今年は新型コロナウイルスの影響で客足は遠のいている。

 「年に20回ほど県内外で行ってきた、たたきの実演も今年はゼロでした」

 同市場の商店主らが立ち上げた「企画・ど久礼もん企業組合」の川島昭代司会長(73)はこう話す。それでも地元の味を全国に届けたいと、カツオの加工品づくりに力を入れる。インターネット通販の売れ行きは好調だという。

 将来、日本にカツオがいなくなるかもしれない…。こんな声が地元から上がっている。日本近海に来遊するカツオの数は年々減少し、同県沿岸で行われている一本釣りなどによる水揚げは低迷が続く。一方で、太平洋の赤道域での漁獲量は大幅に増加している。

 「カツオの群れが多いエリアで、海外の大型巻き網漁船が一網打尽にしている。このままでは日本にカツオがいなくなってしまう。待ったなしの状態です」

 「高知カツオ県民会議」の会長代理を務める、高知大の受田浩之副学長は警鐘を鳴らす。食文化と資源を守るため、産官学と住民挙げての取り組みが熱を帯びている。

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