【法廷から】「あなたの人相が恥ずかしい」裕福な生活夢見て来日した中国人夫婦の亀裂と悲しき末路

産経ニュース / 2017年9月13日 12時1分

遺体の入ったスーツケースが遺棄された京浜運河=東京都品川区(産経新聞)

 東京都品川区の京浜運河で昨年6月27日、スーツケースの中から中国籍の女性遺体が見つかった事件の裁判員裁判が、8月28日から9月11日にかけて東京地裁で開かれた。女性の夫で殺人罪などに問われた中国籍の男が法廷で明かしたのは、ともに裕福な生活を夢見て来日した過去と、カネを巡る口論に端を発した夫婦の悲しい末路だった。2人は互いに何を思っていたのか。

(社会部 加藤園子)

収入欲しさで実習先から脱出

 「貧乏な生活から抜け出したかった」「中国で家を買って、吉林省の親や子供にいい生活をさせてあげたかった」。周世超被告(38)は法廷で、日本で働く意味を繰り返し中国語で語った。

 検察側の冒頭陳述や被告人質問によると、妻の楊梅さん=当時(34)=は平成25年9月に、周被告は26年12月にそれぞれ技能実習生として来日。周被告は吉林省で農業をしていたが収入に不満で、夫婦で「500万〜600万円ためる」ことを目標に来日した。

 その後、周被告は各地で問題となっているように、研修先の鳥取県の農場から数カ月で逃げ出し、その後飲食店での勤務を転々とする。「実習生時代に手元に入るのは月8万円程度。少なくて日本に来た意味がないと思った」。法廷でも不満を語った。

カネを求める妻、仕事に没頭する夫

 楊さんも別の場所で働いていたため別居していたが、周被告が鳥取を出た後は同居を開始。28年6月からは殺害現場となった東京・西日暮里のマンションに暮らす。ところが同居後は、楊さんの態度が「別人のようになった」と周被告は主張する。

 「(周被告の)人相が悪いのが恥ずかしい」「生きている間に遊んでお金を使わないと」。容姿でののしられることもあれば、2人の夢をあっさり裏切る発言もあったという。稼ぎを得て気持ちが変わったのか、理由は分からない。2人の会話はなくなった。

 しかし周被告は「稼ぎのため」に我慢する。このころは青果市場で、早朝から遅くまで休みなく働いていた。

「15万円じゃ足りない」

 まもなく事件は起こる。

 「15万円ほしい」

 6月21日、楊さんが周被告に金を求めた。周被告が口座から引き出した現金を渡したが、22日には「15万円じゃ足りない」と怒り、「ダイヤの指輪を買う。足りない」と求めたという。貯金という2人の目標は「もうなくなったようでした」と周被告は振り返る。

 そのまま口論になり、周被告が掛け布団を楊さんにかぶせた上、口の辺りを手で圧迫。しばらく力を込めた後、楊さんが動かなくなっていることに気付いた。その後、スーツケースに楊さんの遺体を詰め、京浜運河に投棄したのだった。

殺意認めず、傷害致死罪適用

 公判で検察側は「遺体の状況から首を強く圧迫し窒息死させている」と殺意を強調する一方、弁護側は「大声で罵倒しながら平手打ちしてきた被害者の口を布団で押さえただけ」として、殺意を否定していた。

 また検察側と弁護側がそれぞれ別の医師を証人に請求し、検察側証人は「首を圧迫されたことによる窒息死の可能性が高い」、弁護側証人は「窒息死のほか不整脈で死亡した可能性も否定できず、死因は不詳」と、異なる見解を述べていた。

 島田一裁判長は、「死体は腐敗が進んでいることから医師の解釈に差があると考えられる」として死因は不詳と認定。「布団の上から首を圧迫していると明確に認識していたと認めるには疑問が残る」として、殺人罪は成立せず傷害致死罪にとどまるとして懲役10年を言い渡した。

直視できないもの

 被告人質問で楊さんについて聞かれると、ときどき声を荒らげながら、「性格が悪くなった」「言葉を発するとすぐに手が伸びてきてたたかれた」と非難を繰り返した上、「不倫相手がいたようだ」とも漏らした周被告。

 事件当日は楊さんの口を押さえながら、「これからは互いに干渉せず生活しよう」と語ったという。以前描いた幸せな家族像は、いつの間にかかなわぬものになってしまったようだ。

 ただ一方で、証拠調べで遺棄に使ったスーツケースが法廷のスクリーンに映し出されると、あからさまに目をそらし、深いため息を繰り返していた。ごくありふれた形のスーツケース。妻の最期を思い出したのだろうか。

 周被告は判決を聞き終えると、うなだれたまま法廷を去っていった。

産経ニュース

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