【石平のChina Watch】習主席を慌てさせた「中国ナッシング」 北の核保有問題を長引かせたいわけ

産経ニュース / 2018年5月17日 11時49分

 今月7日、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は中国・大連を訪れ、中国の習近平国家主席と会談した。3月下旬に開催された中朝首脳会談からわずか四十数日後のことである。国家間の首脳会談というのは普通、年に1回あるかないかであり、このような頻繁な首脳会談の開催は異例中の異例である。

 さらに奇妙なのは、習氏が2013年3月に中国の国家主席に就任してから今年2月までの約5年間、一度も会うことなく互いに敬遠していたはずの両国首脳が、3月に入ってから突如「親密」になったことである。それは一体どういうことなのか。

 時系列で考えてみると、両首脳が急接近した理由は明らかだ。3月8日、トランプ米国大統領の決断により、米朝首脳会談の開催が決められた。まさにその時以来、習主席は金委員長と2回も会談したり、トランプ大統領や日本の安倍晋三首相と電話会談を行ったりして慌ただしい動きを見せた。トランプ大統領と金委員長が一対一で直接に対話することになったこと、それこそが習主席を慌てさせた最大の原因ではないのか。

 今まで、中国は北朝鮮問題に対して一定の影響力を保ち、それを自らの対米外交のカードとして使ってきた。北朝鮮危機が高まると、米国は常に中国に頭を下げて協力を求めてくるから、中国のアメリカに対する立場はそれだけ強くなるのである。

 しかし、北朝鮮が中国の頭越しに米国と直接に対話することとなったり、あるいは北朝鮮の核保有問題が米朝の直接対話によって解決の道筋がつけられるようなこととなると、米朝両国にとって中国の存在と影響力はもはや不要なものとなろう。中国は、半島問題に対する自らの影響力を失い、対米外交の有力なカードも失うのである。

 まさにこのような「中国ナッシング」の流れを止めておくために、習主席は2回にわたって金委員長との首脳会談を行い、両国間の「親密ぶり」をアピールすることによって主導権を奪い返そうとしていたのだ。

 そして金委員長との会談においても、会談後のトランプ大統領への「電話報告」においても、習主席は繰り返し北朝鮮問題への中国の「積極的な役割」を強調し、自国の「役割」に対する厚かましいほどのアピールを行った。それは、ゲームから外されかねないことへの焦りの表れではないのか。

 習主席と金委員長との2回目の会談の後、中国国務院新聞弁公室(国務院広報担当)の公式サイトである「中国網」は、会談の「重要な意味」を解説する論評を掲載した。論評はその文中、「中国は半島問題において重要かつ積極的な役割を果たしている」「半島問題における中国の役割はこの上なく重要だ」「半島の非核化は中国の働きが必要不可欠」と、何回も繰り返して中国の「役割」を主張しているのだが、それもまた、習政権が半島問題への影響力の保持に執念を示していることの証拠であろう。

 しかし、このような意味合いにおいて、中国は決して、北朝鮮の核保有問題の早期解決を望んでいないことが分かる。なぜならば、この問題が完全かつ迅速に解決された暁には、中国の「役割」はそれこそ不要なものとなってしまうからである。つまり中国にとって、最大の関心事は問題の解決ではなく、そこにおける自らの「役割=影響力」の保持であるから、問題の解決が長引くことは、習主席と中国にとって、むしろ好都合なのである。

 それこそが、北朝鮮問題に当たっての中国の本音中の本音であろうが、このような中国は北朝鮮問題解決の妨害者になることがあっても、その積極的な促進者にならないことを、国際社会はきちんと認識しておくべきであろう。

【プロフィル】石平 せき・へい 1962年、中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年来日し、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。『謀略家たちの中国』など著書多数。平成19年、日本国籍を取得。

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