【軍事ワールド】北の核、広島型の10倍 米中それぞれのジレンマ

産経ニュース / 2017年9月13日 11時52分

 北朝鮮が6回目の核実験を行い、ついに水爆の開発に成功したと見られている。日本はもちろん米中も衝撃を受けつつ対応を図るが、いずれも妙案がないのが実情だ。打つ手はいくらでもあるが、改善の保障はないというジレンマが米中の2大国を悩ませている。(岡田敏彦)

 シンプルな解決策

 北朝鮮のミサイルと核の開発は、米国にとって無視できない安全保障上の問題となった。かつて国民に多数の餓死者を出し、世界の最貧国レベルだった北朝鮮が、核ミサイル一本槍の軍事増強で「グアムを包囲射撃する」と公に脅しをかけ、かつ水爆を開発するまでになったのだ。

 しかし核実験前の8月7日、最もシンプルかつ恐ろしい解決策を示す人物が現れた。元米空軍参謀次長で太平洋空軍司令官も務めたトーマス・マキナニー退役中将だ。

 マキナニー氏は米保守系TV局のFOXニュースに出演。北朝鮮の米本土攻撃の危険性について尋ねられ「いまの北朝鮮には米本土を攻撃する能力はない。しかし1年以内にはその能力を持つだろう。ただ、もし金正恩・朝鮮労働党委員長が(韓国の首都)ソウルを攻撃すれば、米国の核兵器を含む反撃によって15分で全てが終わる。北朝鮮の全ての都市が消える」と報復核攻撃を示唆した。

 圧倒的な陸海空軍戦力を持つ米国が、今も北朝鮮に軍事力を行使しない理由は、トランプ米大統領が「北朝鮮にとって悲劇の日となる」と言うとおり北の民間人に未曾有の被害が出ることに加えて、ソウルが“人質”にとられているからだ。ソウルと北との国境までは約40キロ。その距離であれば、高価で数が限られるうえに軍事目標として目立ちやすい弾道ミサイルなどは必要ない。

 ソウルは50年以上前のテクノロジーで作られた大口径砲の射程範囲にあり、北の国境沿いでは数百門の大砲が横穴に隠れつつ砲撃するとみられており、空爆による破壊作戦は数日かかるとみられている。北朝鮮国境VSソウルの戦いでは、「質より量」の論理が生きているのだ。

 攻撃可能時間は15分

 番組では女性キャスターがこの点を指摘したが、マキナニー氏は「あなたは私の言葉をよく理解できていないようですね」と一言。

 続けて「北朝鮮がソウルを攻撃すれば、我々がただちに核爆撃を行うので、北朝鮮には何も残らない。もちろん他の兵器も投入するので、金委員長は15分も生き残れない。10分〜15分では、金委員長はソウルに十分な攻撃は出来ない」と強調。「私は米太平洋軍司令部に長くいたが、中国やロシアは米太平洋軍の戦力をよく知っているから、米国主導の制裁に従うのだ」と強調した。

 マキナニー氏が司令官を務めた米太平洋空軍は、三沢基地の第35戦闘航空団や韓国・群山(クンサン)空軍基地の第8戦闘航空団など文字通り太平洋全域の米空軍を隷下に置くだけに、同氏の言葉には説得力がある。

 ただし、米国が考慮しているのは“金王朝”を終了させる方法や、核・ミサイルを破壊する方法だけではない。問題はその後の管理にある。

 統治せよ

 国家は他国の占領や領土拡張を本能として持つわけではない。第二次大戦時の1944年6月、米英連合軍はノルマンディー上陸作戦を実施し、ナチスドイツが占領するフランスに攻め込んだ。米英による強力な反攻作戦だったが、ここで問題になったのが仏の首都パリの扱いだった。

 ナチスの占領時に仏を脱出した軍人や、仏植民地に配置されていた仏軍残余をまとめた自由フランス軍司令官のシャルル・ドゴール将軍は、母国の首都パリ奪還のためにこそ戦い続けてきたことをアピールし、パリ解放に執念を見せたが、米英連合軍首脳部は消極的だった。「パリなどドイツ人に管理させておけ」という声があったのだ。

 もしパリ奪還に動けば、頑強に抵抗するドイツ軍との戦闘で兵力はダメージを負い、時間も失ううえ、避けがたい難問を引き起こす。奪還後のパリ市民を、どうやって“面倒を見る”のか、という問題だ。そのための食料と燃料、治安維持の人員は膨大なものとなる。そうした資源があれば、連合軍の多くの陸上部隊がドイツの首都ベルリンまで一気に攻め込み、戦争を終わらせることができるではないか、との意見だ。

 当時の米英連合軍は、燃料や食料、武器弾薬を米英本土からの海運に頼っていた。仏海岸で使えるわずかな港湾をフル稼働させ、膨大な数のトラックによる大規模物流システム「レッドボール・エクスプレス」を構築するなどして前線に物資を運んでいた。それらの戦略物資を、大都市パリはあっという間に飲み込んでしまうだろう。

 一方で、パリを包囲状態にしておけば、中のドイツ軍はいずれ投降するしかない。戦わずに勝てるのだ。

 結局はドゴールの政治的姿勢と強引さ、そして仏第2機甲師団の突出など様々な要因で連合軍はパリに進攻、首都は解放されたが、この米英の「放置」の発想はその後も消えることはなかった。国民性、メンタリティの違いなどもあり、占領し統治することは時に負担となる。

 放置の正否

 米軍は戦後、ベトナムやアフガニスタンで本格介入に躊躇し、介入後は失敗を重ねた。湾岸戦争(1991)ではクウェートを解放しただけでイラク本国とフセイン政権は“放置”した。その結果イラク戦争(2003)に至る。さらに2011年12月、当時のオバマ米大統領が米軍の完全撤収によってイラク戦争の終結を正式に宣言した。この撤収=放置の結果、過激組織イスラム国(IS)の台頭を許す羽目になった。

 現在、米軍トップの地位にあるマティス国防長官は、こうした「放置」を100%失敗だと見ている。オバマ政権下で米中央軍司令官に指名されながら、後にオバマ氏と袂を分かった原因のひとつもそこにあった。マティス氏とともにイラク戦争に従軍したジョン・ケリー首席補佐官も認識は共通とされている。

 北朝鮮を攻撃し、政権を倒し、その後は-。後は野となれ山となれ、といったプランでは、イラク同様に「より悪化した事態」を生起させかねない。しかし米国による完全な統治を中露は許さないだろう。それは新たな火種の誕生だ。

 出来るなら関わりたくないというのが本音であり、その本音にメッキをかけたのがオバマ前大統領の「戦略的忍耐」だと見ることもできる。

 ただ、米本土が攻撃されれば話は別だ。パキスタンのムシャラフ大統領は2006年、米CBSテレビに出演し、歴史上唯一といえる米本土攻撃となった01年の米中枢同時テロを振り返って語った。

 テロ発生後、アーミテージ米国務副長官(当時)はムシャラフ氏に対しこう述べたという。「米国の対テロ戦争に協力しなければ、パキスタンを米軍の空爆で石器時代(ストーン・エイジ)に戻してやる」。当時も今も、パキスタンは核保有国だ。

 冒険主義

 一方の中国は冷戦時以降、北朝鮮との関係を「血盟関係」、または「唇亡歯寒」と表現してきた。後者は、北朝鮮という唇が無ければ、歯が寒い-つまり、米国との軍事的緩衝地帯として北朝鮮は重要だとの認識だ。しかし現在の中国人民ネットユーザーは「中国にはろくな同盟国がない」と嘆く。そもそも昔から、中国にとって北朝鮮は厄介者でしかなかったという側面は見逃せない。

 朝鮮戦争(1950-53)では中国の「やめておけ」という忠告にもかかわらず韓国に攻め込み、米軍の本格的反攻を受けて中朝国境まで撤退。中国義勇軍が参戦せざるを得なくなる状況に陥った。

 国境まで逃走した北朝鮮トップの金日成(キム・イルソン)首相(当時)は、この援軍が自分の指揮下に入ると考えていたが、義勇軍の彭徳懐(ほう・とくかい)司令官は金首相に「これは私とマッカーサーの戦争だ。貴下の口出しする余地はない」と言い放っている。北朝鮮の南進を「冒険主義以外の何ものでもない。軍の統制も子供並みだった」(デイビィッド・ハルバースタム著「朝鮮戦争」より)とした彭氏の分析は、今に通じるものがある。

 歴史上、中国に勃興した幾多の国家は皆、朝鮮半島にあった国家を属国とするだけで、版図に組み入れなかった。どれほど「直接統治したくなかった」かは歴史が証明している。

 アンコントロール

 いまや中国は、経済的に米国との結びつきは切っても切れない。米国の逆鱗に触れることなく世界に影響力を広げたいとの野望は隠そうともしないが、戦争で得るものがないのも重々認識している。韓国の朴槿恵(パク・クネ)前大統領が中国の対日戦勝パレードに出席するなど、ようやく半島に敵対勢力がなくなったかと思えば、朴氏は任期の終盤に親米・日路線に転じ、今度は北朝鮮が“新たな火種”をつくるのだから頭が痛い。

 もちろん中国にもシンプルな解決策はある。中国人民解放軍が北朝鮮を制圧することだ。だが、その後の管理はやはり問題で、年月を経て反中親米政権が誕生しようものなら目も当てられない。さらに軍事的に解決しようがこのまま放置しようが、“属国”を外交で制御できない国家が、他国とどんな外交を行えるのかと関係各国から足下を見られるのは変わらない。

 見方を変えれば、グローバルなババ抜きにも映る北朝鮮問題。短時間での“解決”は難しそうだ。

産経ニュース

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