若者よりも中高年が期待―ネット投票導入のカギは?―第44回政治山調査
政治山 / 2018年4月6日 11時50分
2013年のいわゆる「ネット選挙解禁」から5年、当時多くの人が感じた「なぜネット投票は実現できないのか」という疑問に、政治も行政も明確な答えを示すことができないまま今に至っています。
その間、選挙における低投票率は常に話題となり、様々な対策が講じられているものの大きな成果は得られず、それどころか選挙制度そのものの信頼を揺るがすようなミスや不祥事、事件が相次いでいます。
昨年の衆院選では台風の接近によって、投票時間が短縮されたり開票作業が大幅に遅れたりしましたが、この事態を受けて野田聖子総務大臣は選挙後、インターネット投票(以下、ネット投票)の検討に言及しました。
現在は総務省の「投票環境の向上方策等に関する研究会」で議論が行われていますが、そもそもネット投票に対する期待と不安とは、どのようなものなのでしょうか。政治山では、全国の18歳以上の男女を対象に3月29日から4月1日まで、インターネット意識調査「政治山リサーチ」を用いた調査を実施しました(回答数1,987人)。
はじめに、昨今の選挙における低投票率を受けて、「投票率向上に有効だと思う施策を3つまでお選びください」との設問に対して、もっとも多くの人が選んだのは「インターネット投票(オンライン投票)の導入」50.7%でした(グラフ1)。
次に多かったのは「投票できる時間や場所を増やす」34.6%で、「投票すると割引を受けられるサービス等の拡大」24.6%、「インターネット選挙運動(ネット選挙)の推進」22.9%と続きました。
これを年代別に見てみると、20代が41.2%(全体の平均は50.7%、以下同じ)ともっとも低く、50代が61.4%ともっとも高いことが分かりました(表1)。ネット投票を若者向けの政策として位置付ける人も少なくありませんが、実際には若年層よりも中高年層における期待の方が大きいようです。
割引サービスもネット上で受けられるような仕組みを作ることができれば、投票率向上に有効と考えられている上位の施策は、いずれもネット投票によって実現に向かうと言えそうです。
一方、投票率向上の施策としてよく目にする「著名人やマスコットを利用した啓蒙啓発」は3.4%ともっとも低く、投票率の向上にはそれほど期待されていないことがうかがえます。
18歳選挙権に続く若者向け政策の1つとされる「被選挙権年齢(25歳または30歳)の引き下げ」も4.0%と少数派ですが、10代20代に限れば8.1%と一定の効果は期待されていると言えそうです。
続いての設問では、国政選挙や地方選挙、国民投票などそれぞれの投票シーンにおいて、ネット投票はどのような人が利用できるようにすべきかを聞きました(表2)。
その結果、すべての投票シーンに共通して55%以上の人が「すべての有権者」がネット投票できるようにすべきと回答しました。また、わずかですが地方選挙よりも国政選挙、住民投票(国民投票除く)よりも国民投票と、規模の大きな投票での実施に期待が高いことがうかがえました。
条件付きで認めるべきとの回答にはややバラつきが見られましたが、「移動困難な高齢者や障害者」と「投票所に行く時間のない人」は10%前後、「住民票を移していない学生」は6%前後でした。
一方、「例外なく認めるべきではない」としたのは「憲法改正の国民投票」が8.0%ともっとも高く、「衆議院や参議院の国政選挙」が6.3%ともっとも低い結果となりましたが、いずれも1割に満たない結果となりました。
また、国政選挙に絞って性別、年代別で見てみると、男性よりも女性の方が個別の条件ごとに判断する傾向がうかがえ、もっとも男女差が大きかったのは「投票所に行く時間のない人」で、3.6ポイント女性の方が多く回答しました(表3)。
年代別では、「投票所に行く時間のない人」と答えた割合がもっとも高かったのは10代21.0%(12.0%)で、「住民票を移していない学生」14.5%(6.3%)とともに他の年代より突出した結果となりました。ほかの年代との大きな差異は60歳以上にも見られ、「移動困難な高齢者や障害者」15.5%(10.7%)、「山間部や離島に住む人」13.9%(8.0%)と、それぞれの年代によって直面している課題が異なることがうかがえました。
次に、回答者の中から先着順で500人に対して、現行(紙)の投票制度とネット投票との違いを、7項目にわたって聞きました(グラフ2)。
紙の投票の方が高いと答えたのは「投票の秘密の保全性」36.4%と「選挙にかかるコスト」40.4%の2項目、ネット投票の方が高いと回答したのは「投票の利便性」65.6%、「集計の迅速性」72.6%、「集計の正確性」58.6%、「投票者が不正を行うリスク」45.4%、「管理者が不正を行うリスク」32.4%の5項目でした。
投票の利便性と集計の効率化によって得られるメリットも大きい反面、秘密を守られなかったり不正が行われたりするリスクを感じていることがうかがえます。議論を進めていく上では、コストの試算や不正リスクの客観的評価も重要となりそうです。
最後に、ネット投票を導入すべき、または導入すべきないと考える理由を自由記述でお答えいただきましたので、その一部をご紹介します。
●導入すべき
<10代男性>身体的障害や老化による身体能力の低下によって投票所に行くことが困難な人もいるため。
<30代男性>ネットで投票、集計、即時開示してもらったほうが信用できる。土日の公務員の余剰給与を減らせる。
<50代男性>海外勤務があったので、手続きの不便さに閉口していた。どこにいても投票はすべきだと考えている。
<20代女性>近くに投票所がなく行けない人や仕事や育児などで投票に行く時間を作れない人がいるため。ネット上で立候補者と演説内容をまとめてあれば比べて投票しやすくなる。
<30代女性>夜勤で働いている人もいるから、真夜中でも投票できるシステムはネットだったらいいのではと思う。
<50代女性>当方障害者なので現状投票には行きたくても行けない身体なのでインターネット投票しか投票の手立てがありません。これからの高齢化を考えてもネットでの投票は必要不可欠なのではないでしょうか?
●導入すべきでない
<20代男性>情報操作によって当選者が変えられてしまう恐れがあるため。
<40代男性>投票所に行くという行為が選挙に参加したという実感が伴い、その後の興味関心や責任が備わるため。
<70代男性>ネット投票は候補者の資質を見抜けないように思う。
<10代女性>簡単にできすぎて、ふざけ半分で適当に投票したり、不正な票が出てきたり、監視の目がないのであまり公平とはいえない。
<40代女性>きちんとした会社に依頼しないと、でたらめな結果を出しそう。
<50代女性>(インターネットを)使えない人がいるから。
「わからない」や「特になし」を除く365人の自由記述回答から作成したワードクラウド
本調査結果でも明らかなように、ネット投票には投票率の向上と集計作業の効率化について、大きく期待が寄せられています。一方、コストやリスクの検証が不十分であることも否めません。今よりも選挙事務の負担を減らしつつ、かつ正確性と公正性を充分に担保することのできる選挙制度の構築は可能なのか、建設的な議論が望まれます。
<政治山 市ノ澤充>
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