「変えたいことが変えられる」組織への第一歩
政治山 / 2016年4月28日 11時50分
福島県会津坂下町は2014年から人材マネジメント部会(以下、部会)に参加し、私は2期生です。1期生から「総務人事係の承認を得たから、来年参加して」と、言われるがままに第1回目の部会を迎えました。何を学ぶところなのかを聞いても「自分の身体で感じてきて」と言うだけで、これからの1年間、私は何を感じ取れるのか、期待よりも不安な気持ちでいっぱいでした。
キーパーソンとのダイアログ
部会では第2回研究会のあと「キーパーソンとのダイアログ」という宿題が出ました。キーパーソンって誰だろう。職場に戻った私たちは、自分たちが話してみたい人、考えを聞いてみたい人は誰だろうという気持ちだけで、町の三役(町長、副町長、教育長)とダイアログ(対話)することにしました。
業務多忙な三役を同時に拘束するわけにはいかないため、同じ質問で話ができるように、まずは聞いてみたい次の8項目の質問を考えました。
1.職員と町民の気持ちのズレについて(原因)どう考えますか
2.なぜ職員は「やらされ感」に陥ると思いますか
3.価値前提で仕事をするために必要なことは
4.三役からみて、今の職員をどう思うのか
5.三役が職員に望むこと、どうあるべきか
6.他町村の職員との違い
7.職員がやる気を持って仕事に打ち込めるには何が必要だと考えますか
8.「町のありたい姿」とはどう考えていますか
ここで驚いたことは、別々にダイアログさせてもらっているにも関わらず、現状の把握、未来へ向けた考えなど3人の気持ちが一致していたことです。町の舵取りをしている3人の気持ちが一緒であり、町や職員のあるべき姿を思い描いていることに嬉しさを感じました。
3期生の集合写真
三役ダイアログ(対話)から見えてきた現状と課題
三役は、現在の町職員の年齢層を気にしていました。団塊の世代の職員が多く、30~40代前半の職員層が少ないこと。大量退職を迎えた際、残された職員がそれぞれの立場で仕事を全うできるかが不安だという課題が見えてきました。
それぞれの立場になって仕事をするということは、それなりに責任が出てくるということ。自分一人では何もできないことは誰しもが思っていることだと感じます。しかし、私が思う役所の人間は、プライドが高く、何か問題があると自責(自分で責任を持つ)ではなく、他責(自分ではなく他人の責任にする)にし、面倒くさいことには手を出さない、さらには他のやり方が正しいと思っていても、前任者がやってきたことをまねる前例踏襲。これでは目標・目的がないまま目の前の仕事をただ作業のようにこなすだけの状態となり、仕事に対して夢を持てず、やりがいのない活気のない職場になってしまうのではないでしょうか。
変えたいけど変われない
当町にも、このままでは駄目だという熱い想いを持った職員もいます。振興計画などを作成する際、職員の考えだけでなく、町民の方や採用年数の浅い職員と意見交換をし、その考えを取り入れてきたのも事実です。
上層部も大量退職を迎えるにあたり、より一層職員の人材を育成していくことに重点を置き始めてきているように感じました。その取り組みが次の5つです。
1.プロジェクトチーム(若手職員を中心に、農業・地元商店街など活性化させるにはどうすれば良いかなど、住民の方に話を伺いながら行った)
2.アフターファイブミーティング(自由参加)
3.職場内研修
4.アウェイクばんげ(採用5年以下の若手職員の交流を合わせた勉強会)
5.朝礼の実施(町の接客7大用語の唱和と個人の1日の目標を発表)
この5つの取り組みで、目に見える職員の意識の改善・改革は、私は、あまりないように感じます。
1つの例として職員研修に着目すると、研修に行かせる側は少しでも学び感じ取ってきてほしいという思いもあると思います。しかし、行く職員側は「その年齢になったから仕方ない、面倒くさい、行きたくない」という気持ちで参加している方が多数だと思います。
人は興味のあることは率先してやる。しかし興味のないことになると憂うつになる。とても不思議です。
このように、職員の意識改革のためにさまざまな取り組みを行ってきていますが、継続されているものがありません。そして、なぜ継続できなかったのか検証が行われていない。PDCAサイクルでいうところの「P(計画)D(実行)までは行うがC(評価)がなく継続したA(改善)に移せない」という、まさに「変えたいけど 変われない」組織だといえると思います。
「変えたいことが 変えられる」組織への第一歩
部会の夏季合宿で、「当町において『ごちゃまぜミーティング』をやります」と幹事の皆さんをはじめ、全国マネ友の前で宣言しました。当町の事務職員数は140人ほどの小規模自治体のため、一人ひとりの顔と名前が一致し、仲間意識が強いと感じます。しかし、仕事となると縦割り社会であり、上司は部下の、部下は上司の考えが分からないという状況にあります。これでは雰囲気の良い職場環境とはいえません。
そこで総務人事係の理解と協力もあり、職域・年齢・性別を「ごちゃまぜ」にしたダイアログを行ってみました。終了後のアンケートからも「話しづらい人だと思っていたが思い込みだった」「新鮮だった」「こんなダイアログが係内でもできる雰囲気になればいいな」など、参加した職員のほとんどがこの手法は職員の意識改革をする上で大切だと言ってくれました。
この高まりつつある気持ちを止めては駄目だと思い、管理職向けの研修として、部会顧問の北川正恭先生の特別講演を開催しました。「会津坂下町の良いところはどんなところですか」という突然の北川先生からの質問に、少し戸惑い焦ったような課長たちの姿が見られました。さらに、「対話の重要性を知る」を目的に、青森中央学院大学准教授の佐藤淳先生を講師として、ワールドカフェミーティングを開催。さらには、採用5年目未満の職員で構成されている「アウェイクばんげ」を、人マネ参加者(マネ友)が引き継ぎ毎月1回開催、新たに2016年度からは女子職員の人材育成研修の一環として「茶話会(さわかい)」が行われます。職員の意識が少しでも変わり、一人ひとりが明るく楽しく気持ちよく仕事ができる環境になる第一歩を踏み出せたと思います。
佐藤幹事を招いて開催したワールドカフェ
取り組み後の職員の意識、組織の変化
私が思う取り組み後の職員の意識の変化は、毎月1回行っている「アウェイクばんげ」に参加している職員から感じます。初めのうちは総務人事係が中心となって行っていましたが、3回目くらいから人マネ参加者が中心となり、「町長に聞いてみたいことを考えよう」「職員としてのあるべき姿とは何か」「理想の職員と仕事に対する気持ちの持ち方について話してこよう」といった宿題を毎回出しました。このことにより、グループで業務後に話し合う姿が見られたり、廊下で会ったときに、今まで挨拶しかしなかった人が話しかけてくれるようになったり、「仕事に対する気持ちの持ち方が変わったような気がします」と言ってくれた職員もいました。
組織の変化としては、2016年度から新係長を対象とした町独自の研修が開催されることです。私たちは、役職・年齢・性別を「ごちゃまぜ」にしてダイアログをすることがお互いの意思疎通を図る上で重要だと提案してきました。改めてもう一度振り返り考え直した結果、それぞれの役職、階級ごとでやるべきことを明確にし、気持ちの共有ができなければ根本的な問題解決にはならないという結論になりました。部会の年度末に提出する協同論文で、「今後は、役職・階級ごとの研修の実施を提案したい」と書いた矢先、総務人事係もこのような研修の実施を提案したことに私たちも驚きました。
少しでも自分の立場を理解し、同じ立場の職員同士が同じ気持ちで仕事に取り組めば、より質の良い仕事ができ、個人満足度の向上にもつながるのではないでしょうか。
誰かが始めなければ何も始まらない。その第一歩が出せる職員になりたい
私は、2人の良きメンバーにも恵まれ、1年間楽しく部会に参加してきました。出馬幹也部会長の言う「ほんとうの笑顔」であふれる職場。これはそう簡単には実現できません。相手の考えも受け入れつつ自分の考えも言える環境、皆が毎日役場に来るのが楽しいと思える環境、雰囲気作り。これは一人の力ではどうにもできないことです。しかし誰かが始めなければ何も始まらない。私はその第一歩が出せる職員になりたいです。この部会に参加し、ものの見方・考え方を少し変えるだけで世界が広がる経験をすることができました。常に問題意識を持って誰のために今何をすべきなのか考え、自分自身、明るく笑顔で夢を持って何事にも取り組んで行きたい(生きたい)です。
2016年度は運営委員としても参加することになりました。全国の人マネとの出会い、その出会いから得た今までにない気づきは財産です。もっともっと多くのことを身体で感じたいと思います。
会津坂下町役場 総務課 税務管理班 川田良子さん
◇ ◇
自治体職員のスキルアップ研究会「早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会」研究生による連載コラムです。研修で学び得たもの、意識改革や組織変化の実例などを綴ります。
<福島県会津坂下町役場 総務課 税務管理班 川田良子>
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