ビジョナリー・シビルサーバント
政治山 / 2016年7月21日 15時30分
私の2015年4月からの1年間は、早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会(以下、「人マネ」)と組織への挑戦の日々でありました。「人マネ」との出会いで何が変わったのだろうか。組織へどのような影響を与えることができたのだろうか。変わらなかったことは何だろうか。これまでを振り返るとともに、現在の心境と、そしてこれからの展望を述べてみたいと思います。
異端児の孤独
私の市役所人生は、深いコンプレックスを抱えながら、スタートしました。中野市とは縁もゆかりもないよそ者であり、根無し草のように吹いて飛んでいきそうな刹那的な生活を送っていました。なぜそんなにも不安定で自己コントロールができなかったのか、自分でもよく分かりませんでした。暗闇の一筋の光明として自分を支えていたのは、「誰かの何かの役に立ちたい」という強い思いだけでした。それが公務員という職を選んだただひとつの理由でした。
コンプレックスを払拭するためには、仕事に一心不乱に打ち込むことしかありませんでした。上司や同僚は、私に対して親切に接してくださいました。しかし、思いや価値観を共有できないという孤独感はぬぐい去ることができず、自分の居場所探しに必死になり日々悶々と過ごしていたことを覚えています。それから10数年後、1つの転機が思いがけず私に訪れることになりました。
組織の垣根を越えて感じた「新たな可能性」
2014年は、私にとって大きな転機となった年でした。当時は、選挙管理委員会事務局に配属され、度重なる選挙事務に忙殺されていました。そんな中、投票率アップという1つの目的のために、組織の垣根を越えたチームが結成されたのです(長野県庁「職員による政策研究」)。メンバーは、長野県職員、山ノ内町職員、中野市職員という多様な人材がそろい、目的のために自ら研究し、実践するという得難い体験をすることができました。このチームの取り組みは、様々なメディアで取り上げられ、有権者へのPRという一定の成果を出すことができました。それ以上に、異なる自治体職員が対話をして、実践し、成果を上げるという、これまで経験したことのない「力強い動き」「新たな可能性」を感じることができました。そのことが、次のステップである「人マネ」につながると、この時はまだ気づいていませんでした。
(参考)2014長野県庁「職員による政策研究」報告書(PDF)
http://www.pref.nagano.lg.jp/career/shokai/taike/documents/013_touhyou.pdf
2014年9月 長野県庁「職員による政策研究」報告会
組織を考え、人材を思う
2015年4月、中野市から3人の職員が初めて「人マネ」に参加しました。この3人は、誰から言われたわけでもなく、自ら志願して参加しました。いずれもが組織の現状を憂慮し、何とかして良い組織に変えたいという熱い思いを持っていました。私たちの取り組みの概要は、2015人材マネジメント部会共同論文(http://www.maniken.jp/jinzai/bunken/)で説明しています。この1年間の取り組みを経て、3人が幾度となく対話したことは、私にとってかけがいのない時間だったと思います。何より仲間ができたという喜びは、入庁して10数年来、いやもっと前の20数年来、私が待ち望んでいたものでした。同じ志を持った仲間の存在こそが、自分を奮い立たせ、勇気づけるものだということを実感することができました。それは、同じ市の職員だけでなく、全国の「人マネ」の仲間に対しても同じ気持ちでした。
組織を考えるということは、「同じ職場で働くみんなが幸せになるために、何をすればいいか考えること」だと思います。そして、人材を思うということは、「相手を思いやって、お互いに信頼できるよう自分が成長すること」だと思います。強い信頼と絆で結ばれた職員がいきいきと働ける組織に変わることで、市民からの期待と信頼にしっかりと応えていきたい。その先に見える未来を想像する力こそ、私たち自治体職員に求められているものではないでしょうか。
2015年8月「人材マネジメント部会」夏期合宿
ビジョナリー・シビルサーバント
ビジョナリーは、「未来志向の」「先見的な」といった意味があるそうです。未来志向の公務員、先見的な公務員、つまり前例踏襲・指示待ち型の公務員ではなく、問題発見・課題解決型の「ビジョナリー・シビルサーバント」が、組織を変え、地域を変えるのではないでしょうか。それは、地方自治体が直面する人口減少や財政悪化の帰結として地域に目を向けると、消防や祭事などの担い手不足や小中学校の統廃合問題、荒廃農地の拡大や後継者問題など、これまで私たちが経験したことのない問題に対応するためには、自治体職員の働きが大きいと考えるからです。住民との協働や民間との連携を進める上でも、自治体職員が果たす役割は決して小さくないはずです。私たちは、住民の目線に立って、問題をいち早く発見し、課題解決のため未来志向で考え、実践することでしか、希望ある地域の未来を創造することはできないとさえ考えています。
「ビジョナリー・シビルサーバント」は特別な人間だけがなれるものではなく、「そうなりたいと考えて動いている人間だけが近づける公務員像」だと思います。私は、2016年「人マネ」に運営委員として関わり続けています。これは、個人として成長し続けることで組織に貢献したいと考えているからです。
私は、仲間との絆を強くしたいと考えています。2016年2月に結成した職員による自主研究・政策グループは、若手職員を中心とした自主研究グループ「Wake Up!NAKANO」8人と、課長級職員が横に連携した政策グループ「STAND UP 中野」5人がコラボレーションして活動しています。それぞれが組織・人材について話し合い、お互いの考えを理解することから始めています。また、イベントへのボランティア参加(シャッターマン活動など)を通して、担当部署を飛び越えた組織貢献を実践しています。私は、組織への働きかけを続けたいと思っています。対話により信頼関係を構築して、若手職員のアイデアや意見を課長級職員との連携により理事者への提案につなげるための研究を続けていきます。そして、いつの日か中野市に、組織に、人材にパラダイムシフト(規範・価値観の劇的転換)が起きると信じています。
2016年2月「自主研究・政策グループ」キックオフミーティング
おわりに
「人マネ」に参加して、ある人の言葉や思いに心が震えることがありました。そして、自分の心の中からあふれ出てくるものを感じました。それは、公務員を志望したときから変わらずに持ち続けている誰かの何かの役に立ちたいという強い思いでした。「人マネ」に参加される皆さんは、自分と向き合い続けるという苦難に直面することと思います。しかし、自分の殻に閉じこもっているだけでは何も変わりません。「人マネ」での体験や仲間との対話の中で、自分の心の奥底にある本当の思いがきっと見つかるはずです。その苦難を乗り越え、自分の本当の思いに気づいたときに見える景色は、どんなに清々しいものでありましょう。あなたが望めば、道は開けることを心から祈って、この拙文を閉じたいと思います。
「同世代の人たちや過去の世代の人たちに勝とうなどと考えることはない。自分自身に勝つことを考えるべきだ。」ウィリアム・フォークナー(米国の小説家)
何かの壁にぶつかった時に、とことん自分と向き合い、自問自答を続けることによって、自らを貫く揺るぎない信念のようなものができるのではないかと思います。自分で考え、実践するということは、その信念を基にしたありたい姿を目指す自分自身との闘いであるように思えます。このフォークナーの言葉は、「自分自身に勝つこと」で「未来を展開する」勇気と希望を与えてくれているような気がします。
長野県中野市 北部公民館の小林来世展さん
◇ ◇
自治体職員のスキルアップ研究会「早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会」研究生による連載コラムです。研修で学び得たもの、意識改革や組織変化の実例などを綴ります。
<長野県中野市 北部公民館 小林来世展>
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