「巻き込むこと」の難しさを痛感
政治山 / 2016年9月6日 17時30分
はじまりはマネ友に「巻き込まれた」
一般的に選挙事務は「正確性を最優先に」という考えから、「開票は時間がかかっても仕方がない」という意識が強くなります。また、担当者として関わっていると、決められた期間で選挙に関する一連の業務を遂行するために、「従前の選挙と同様に業務を行えばいい」という「前例踏襲」で仕事を進めていく傾向になりがちです。
笠間市では、選挙管理委員会とマネ友(部会修了生)が中心となり、2014年の衆院選から開票事務の改善に取り組んでいます。正直なところ、最初は選挙管理委員会の担当者として「マネ友に巻き込まれた」という感覚で関わったのですが、自分の仕事ではないのに真剣に対話をするマネ友たちに、自分自身が「取り込まれていく」のを強く感じました。結果的には、最終の開票時間は「4時間35分」と、目標の「4時間」を達成することはできませんでしたが、ある種の充実感と、何か引っかかるものが残りました。
立ち位置を変えて臨んだ今回の参院選
2014年の選挙から1年半余り、2016年1月にマネ友中心の自主研究チームである「かさま未来研究所(かさラボ)」が立ち上がりました。また、自分自身も2015年度の人材マネジメント部会に参加し、「かさラボ」のメンバーに加わることで、2016年の参院選では「巻き込まれる側」から「巻き込む側」へと立ち位置を変えて選挙に臨むことになりました。
今回の参院選では、前回の課題を中心にさらなる改善を行い、開票所撤収目標時間を「4時間」としました。さらに、実際に疑問票の審査に関わってもらうことで直接の担当者とは別の視点から課題や改善点を得ることを目的に、今まで選挙管理委員会職員や選管OBが中心で行っていた総括審査係(疑問票の審査)に「かさラボ」のメンバーを加えることにしました。
当日は、選挙区の開票はほぼ予定どおり進みましたが、比例代表の個人票の処理に手間取りました。最終的な開票所撤収までの時間は4時間30分かかってしまい、設定していた目標の達成はできませんでした。
これまでとの違いとしては、今までは開票を終えた後に、職員に対して反省点、改善点などの意見を庁内掲示板で求めても、意見が寄せられることはほとんどありませんでした。そこで今回は手法を変え、「かさラボ」のメンバーが庁内の調査システムを用いて、開票事務に従事した職員が簡単に回答できる無記名のアンケート調査を実施したところ、多くの意見が寄せられました。
中でも、「改善点」を指摘し次回どうしたら良くなるかを提案してくれた職員が増えてきたことは、大きな収穫であったと思います。
今回の取り組みを振り返ってみると、「巻き込まれる」ことは簡単でも、「巻き込むこと」は難しいということを痛切に感じています。前回の取り組みのときに感じた「引っかかり」は、この難しさを自分自身が無意識に感じていたのではないかなと今となっては思います。
参院選での開票作業の様子
また、今回の参院選では、新たに選挙権を得る市内の県立友部高校と県立笠間高校に通う18歳の計5人を、期日前投票の立会人に起用しました。
実際の「選挙」に触れる、体験することにより、若年層の社会参加意識の醸成や投票率の向上につなげていくことを目的に、市内の県立高校2校に対して投票事務に参画いただきたい旨の働きかけを行ったところ、学校側からの全面協力をいただきました。この取り組みは、報道機関からの注目も集め、地方紙の1面で取り上げられるなど、啓発活動としては大きな効果があったと思います。
さらに、県立友部高においては、選挙期間中に「かさラボ」のメンバー協力を得て、高校3年生を対象に出前講座を実施しました。実際の投票所で使用する物品を使用して教室内に模擬投票所を設け、投票も体験してもらいました。
実際の様子は、茨城県教育委員会ホームページにも掲載されています。
・県立友部高校の生徒が期日前投票の立会人を務めました。
http://www.edu.pref.ibaraki.jp/board/topics/news/photo/h28/06/0629-8.html
・県立友部高校で選挙に関する出前講座が開かれました。
http://www.edu.pref.ibaraki.jp/board/topics/news/photo/h28/07/0701-3.html
「気づき」を促し、組織変革へ
そもそも、開票事務の改善の目的は何なのでしょうか。
選挙管理委員会の立場から考えると、「開票結果を住民に『正確かつ早く』伝えること」が最大の目的であることは言うまでもありません。
また、別視点から見ると、笠間市でいえば開票事務は中堅・若手職員を中心に多くの職員が関わり、一体感をもって取り組むことのできる数少ない業務であることから、他課の業務に対する協力体制を理解し、「縦割り意識」の打破につなげていくことが期待できます。
さらに、なかなか変えることが難しいと思われる開票事務であっても、目的達成のためにさまざまな取り組みにより業務の改善ができるという経験を通じて、業務改善への「気づき」を促し、自らの業務へ反映させる職員が増えていけば、将来的な組織変革へと広がるのではないかと思っています。
茨城県笠間市 総務部総務課 係長の松葉茂博さん
考えることをやめない「覚悟」
最後に、開票事務の改善の取り組みや、部会への参加を通して、自分自身にはどのような変化があったのか。ここ数年、「考える」ことを忘れかけていた、あきらめかけていた自分自身が、「考える」ことがいかに大切であるかを再認識できたことが一番大きいと思います。さらに、「考える」だけでなく、「考えたこと」を伝え、そして話を聴き、再び「考える」。この繰り返しが、周りを「巻き込むこと」につながるのではないかと思います。
私は、考えることをやめない「覚悟」で現状に満足せず、一歩ずつ、少しずつ前に進んでいきたいと思います。「考えることをやめなければ、あしたはきっと変わる」と信じて。
◇ ◇
自治体職員のスキルアップ研究会「早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会」研究生による連載コラムです。研修で学び得たもの、意識改革や組織変化の実例などを綴ります。
<茨城県笠間市 総務部総務課 係長 松葉茂博>
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