鎌倉市が直面する公共施設の更新問題~公共施設のあるべき姿とは
政治山 / 2017年3月29日 17時30分
私は、公共施設の再編(公共施設マネジメント)という、これまで自治体が業務として行ってくることのなかった「公共施設の更新問題」に取り組む業務にたずさわっています。整備してきた公共施設を再編し、将来にあるべき姿、最適な状態を探し、実現させようとする業務です。私が2015年度に参加した早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会でも同じように、この時代に求められる市役所・公務員のあるべき姿を探してきました。
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公共施設の再編(公共施設マネジメント)について
長い間自治体は、メンテナンスフリー、スクラップ&ビルドといった考え方をもって、整備した公共施設に対してこまめに手をかけず、古くなれば建て替えるという管理を往々にして行ってきました。更には、高度経済成長期、人口増加への対応として、どうしても必要となる学校施設等だけでなく、住民要望や他の自治体が整備しているからといった理由のもとに、公民館やさらに大きなホール、美術館・博物館などの公共施設を整備してきた自治体も数多くあると思います。
鎌倉市も同様に、昭和30年代から40年代を中心に、多くの公共施設を整備してきました。これらの公共施設(ハコモノ)は、一斉に老朽化するとともに、法律の改正等による耐震化や防災への対応、社会の変化等によるバリアフリー化や情報化への対応に迫られるなど、様々な課題を抱え、建替えや大規模改修といった更新時期を次々に迎えています。一方で、少子高齢化・人口減少社会で、扶助費の増加による財政硬直化が進んでいるほか、保育園や学童など、ニーズが高まっている施設もある状況です。
公共施設を取り巻く状況のイメージ図[
整備してきた時代と同じように、住民が求める施設を新たに整備する、古くなった施設は建て替えるということができるならば、話は簡単であり、私の業務も不必要でしょう。
鎌倉市が策定した公共施設再編計画で更新にかかるコストを試算した結果、40年間の計画期間内に新たな施設を増やさず、保有する公共施設を更新するだけでも、現状で公共施設にかけることができている費用の約2.8倍のコストを要すると算出しました。
とても用意できそうにないコスト、少子高齢化・人口減少社会への突入による扶助費の支出増といった状況が見込まれる中で場当たり的に公共施設を維持することは、必要な更新が行えないことに起因する公共施設における事故が防げない可能性があり、必要な更新を先送りすることで将来への“つけ”を残すことになりかねません。
国土交通省の資料によれば、日本の総人口は2004年をピークに、今後100年間で100年前(明治時代後半)の水準に戻っていく可能性があり、この人口の変化は千年単位でみても類をみない、極めて急激な変化とされています。
日本の総人口の変化のピークのグラフ形状に、鎌倉市の人口の変化のピークのグラフ形状を揃えるかたちで重ね合わせてみたところ、鎌倉市の人口も急激に増え、推計値のある2030年には急激に減少している。この変化の量は、増加・減少ともに日本の総人口の変化以上です。
日本の総人口の推移(国土交通省資料より)
1948年にほぼ現在の市域となった鎌倉市は、人口のピークまでにおよそ2倍の人口増があった中で、現在の公共施設の多くを整備してきました。整備してきた公共施設について、今後の人口減少を想定して、そのあるべき姿を見つめ直さなければなりません。
こういった公共施設を取り巻く状況を理解、把握し、あらゆる手段を講じ、最適化を図っていく公共施設マネジメントを断固たる決意で行わなければなりません。
しかし、総論の理解は割と得やすい反面、具体的な公共施設のあり方の変化については、その公共施設の受益者である市民(利用者)の理解を得ることとともに、その公共施設で行政サービスを行っている事業所管課・施設管理課の協力を得ることが難しいところです。
人材マネジメント部会と公共施設再編について
人材マネジメント部会に参加することになった2015年度は、公共施設再編計画の実施初年度でした。部会の中では冗談で、「公共施設マネジメントもままならない中、人材マネジメントを研究しに来ました」と自己紹介していたのを思い出します。部会では、市役所組織のあるべき姿を分析・対話を中心に研究してきました。これまでの公共施設の管理が事実前提・前例踏襲であるとすれば、公共施設の再編は価値前提・あるべき姿の追求ではないでしょうか。
現在取り組んでいる公共施設再編計画に基づく市役所本庁舎の整備においては、積極的に高校生や大学生といった次の世代を担う市民に声を掛け、公募市民を交えた市民対話を通じ、そのあるべき姿について考えていきました。部会に参加していなければ、ここまで対話を重視した取り組みにならなかったかもしれません。
公共施設再編をテーマとした市民対話の様子
この市民対話の結果は、「市民の想い」として取りまとめることができました。「普段の私には関係ない場所」という「市民の想い」の最初に登場するという意見が、若い方だけでなく、多くの方にとっての本庁舎の存在を捉えたものだと言えます。本当に困った時、災害が発生した時、どのような本庁舎であるべきかを考えていただくことで、参加いただいた市民の皆さんの本庁舎整備の取組への理解・自分事化に加え、オーナーシップの醸成にも効果があったと感じました。
しかしながら、こういった市民対話などを経て、整えてきた本庁舎の整備方針の案についてパブリックコメントを実施したのですが、高校生や大学生を加えて行った市民対話に対する批判的な意見がありました。このことからも、市民対話を行ったからといって、市民全てがこの取組に全面的に賛成となっている訳ではなく、残念ながら批判があることも分かりました。
最後に
市民の想い(市民対話を取りまとめた冊子)
市民対話の終了後に感想等を聞いたところ、「対話という手法が良かった」「今後も関わっていきたい」という声が多かったことから、市民全てに対しては決して大きなものではないかもしれませんが、市民対話では確かな手ごたえを感じることができました。このように、公共施設マネジメントでも対話が有効であることを感じた一方で、再編後の公共施設のあり方が、単なる公共施設の削減とイメージされるのではなく、例えば官民連携による新たな公共施設のあり方を具体的にイメージしてもらえるような取組も重要ではないかと考えています。
繰り返しですが、今まで自治体がやってこなかった業務にチャレンジすることが、容易でないのは当たり前です。反対という意見も含め、多様な意見に向き合い、難しい中でも常に最善を尽くすためにも、より多くの方に公共施設の抱える問題を知っていただくとともに、まだまだ十分ではない職員の公共施設の再編への理解を補う意味でも、この記事を書かせていただきました。
鎌倉市だけでなく、多くの自治体職員の公共施設マネジメントの必要性への理解のきっかけになれば幸いです。
神奈川県鎌倉市 経営企画部経営企画課 公共施設再編推進担当 担当係長 石塚智一さん
◇ ◇
自治体職員のスキルアップ研究会「早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会」研究生による連載コラムです。研修で学び得たもの、意識改革や組織変化の実例などを綴ります。
<神奈川県鎌倉市 経営企画部経営企画課 公共施設再編推進担当 担当係長 石塚智一>
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