組織での実践を地域へ~熊本市「ママカフェ」の実践、地域担当職員としての役割
政治山 / 2017年7月25日 11時50分
今年度、熊本市ではまちづくりセンターが設置され、各校区に専任の地域担当職員が配置されました。私はその地域担当職員として日々地域に出向き、その課題と向き合っていますが、人マネで学んだことを実践できる最高の職場にいると感じています。
このように、最高だと思える職場に巡り会うまでには、仕事と育児の両立に対する大きな葛藤がありました。その過程をここで振り返ってみたいと思います。
中村幸香さん(1列目中央)
コミットメント(宣言)した施策のひとつ、「ママカフェ」
私には、現在、中学生と小学生の子どもがいます。そして、夫は同じ熊本市役所の職員です。子どもが生まれてからの10年間、仕事と育児の両立の難しさに悩む毎日でした。それもそのはず、熊本市は政令指定都市の中で時間外勤務が最も多い都市だったのです(2012年度調査)。2014年度、この現状をどうにかしたいとの思いで人材マネジメント部会(人マネ)に参加しました。
これから10年以内に団塊の世代が後期高齢者となり、職員の大多数が介護を担うことになる「大量介護時代」が確実にやってきます。育児・介護中の職員だけを定時に帰宅させ、超過した業務を他の職員の時間外勤務に頼るというこれまでのやり方では、わが熊本市はこの「大量介護時代」を乗り越えられないと考えました。そのため、人マネでは組織のありたい姿を「職員全員が生産性高く働き、定時に帰宅できる、職員自らが幸せと感じる熊本市役所」と掲げ、それを実現するための施策を考え実践してきました。
このありたい姿を実現するためには、職員どうしが現状を認識しそれぞれの思いを語りあう対話の場が必要不可欠です。本市のマネ友が、職員同士の対話の場となるオフサイトミーティング「つながるカフェ」を企画運営していたため、私もこの運営に携わってきました。その中で、就業時間後に開催される「つながるカフェ」に育児中の女性が参加するには高いハードルがあることを感じました。
「子どもがいても、学ぶことをあきらめたくない」「他の職員が仕事と育児をどのように両立しているのか知りたい」。そんな女性の声を反映できる施策はないだろうか…。そこで思いついたのがFacebookグループを利用したオフサイトミーティング「つながるママカフェ」です。ここでは、Facebookでの投稿による情報交換をメインの活動とし、ランチタイムや休日の子連れOKミーティングで女性職員の対話の場を広げていき、ひいては定時に帰宅するべく生産性高く仕事をしている女性職員の仕事のやりかたを施策に反映し、業務改善につなげられないかと考えました。
しかし、グループへ記事を投稿しても、コメントを寄せてくれるのはごく一部の職員のみで「いいね!」の数もなかなか増えず、他のメンバーからの投稿がない状態が続きました。そのため、このようなニーズはあまりないのではと不安になり、投稿すら躊躇してしまう状態となりました。
熊本地震発生
2016年4月、熊本地震が発生しました。
地震の影響で学校は休校となりますが、災害対応の仕事は待ったなしで休日もありません。私は職場の理解を得て子連れで出勤させてもらえましたが、幼い子を持つ他の職員はどうしているのかと心配になりました。後から聞いたところによると、職場によって対応はまちまちだったそうです。このような非常事態において、子どもを持つ職員の勤務状況への配慮を現場任せにして本当にいいのかと感じました。組織としての対応方針を早急に打ち出し、子どもの預け先さえあれば出勤できた貴重な戦力を活用すべきだったと思います。そのためには、災害対応の混乱中には上層部からの指示を待つだけではなく、現場で「こうなったら出勤できる」という意見を集約して上層部に伝える必要があったのではないかと痛感しました。
この地震をきっかけに改めてママカフェの活動の意義を思い知り、活動をやめずに続けていこうと決意しました。
熊本地震を契機に「ママカフェ」を開催
ママカフェ、実践
そこで、女性幹部職員2名を招き、これまでなかなか開くことのできなかった「ママカフェオフ会」を開催しました。カーペットフロアの会場で、落書き帳やクレヨンなども準備し、子連れでも気兼ねなく参加できるように気を配りました。
このオフ会は、あらかじめ幹部職員への質問を募集し、その質問に答えてもらう形式で進行しました。幹部職員がどのように育児と仕事を両立してきたかのお話を参加者は頷きながら熱心に聞いていました。
幼い子どもを持つ参加者からは、災害対応に十分に協力できず後ろめたいとの声が次々に上がりましたが、「いつか恩返しできる日が必ず来るから今は甘えて大丈夫。限られた時間内で仕事の成果を出すように頑張って!」とのエールは育児と仕事の両立で悩む参加者の心に響きました。
オフ会に参加した職員からは、子どもを他の参加者がかわいがってくれたのでゆっくり過ごせた、次回は友人も誘って参加したい、先が見えない状況だけど前向きな気持ちになった、若手職員と話すきっかけができてよかったなどの嬉しい感想が寄せられました。そして、この翌週に参加者から私に仕事の依頼の電話があり、気軽に頼みごとができる人間関係が広がりつつあることに感激し、この取り組みはぜひとも続けていきたいと思いを新たにしました。
また、さまざまな年齢層の参加者がいたことにより、現在の職場環境は変わらないようで少しずつ変わってきていることがわかりました。お茶くみや庶務は女性の仕事というような、10年前は当然と思われていたことが今では当たり前ではなくなってきています。わずかなマイナーチェンジも積み重ねていけば大きな変化となり、組織を変えていくことができるという気づきが、このオフ会で得た大きな収穫でした。
ママカフェでは仕事と子育ての両立を話し合った
地域担当職員としての思い
ママカフェを実践したことにより、「必要だと思うことをとりあえずやってみる勇気」が自分の心に芽生えてきました。そして、対話により前向きなパワーが生まれることを実感しました。今度は、地域担当職員として、地域で「人をつなぎ、未来へ思いをつなぐ」一歩を踏み出そうとしているところです。
土木・空き家・ごみ問題など多岐にわたる地域の要望に早急に対応することはもちろんですが、長期的な視点で地域の将来を見据え、地域が抱える課題に対し今どのような手を打つべきなのか、住民と共に考えていくことが地域担当職員としての最も重要な任務です。
変わりゆく地域の課題に柔軟に対応していくには、人材(住民)・組織・地域が変わっていかなければなりません。具体的には…
・人材を変えるには、まずは自分が変わること、同じ思いを持つ仲間を増やすこと
・組織を変えるには、ありたい姿を描きながら、まずはできることから一歩踏み出すこと
・地域を変えるには、地域のありたい姿を住民と同じ目線で、時には俯瞰しながら考えていくこと
だと私は考えています。着任以来、それをどう行動に落とし込んでいくかを念頭に置きながら地域に出向き課題を整理していました。そろそろ始動の時が来たと感じています。
☆10年後、20年後、子どもたちに胸を張ってバトンタッチできる地域を残すために、私たちにできることは何だろう☆
これを自分にも地域にも常に問いかけ、住民とともに笑い、時にはともに涙を流しながら、地域の目指すありたい姿に向かって進んでいきたいと思います。
◇ ◇
自治体職員のスキルアップ研究会「早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会」研究生による連載コラムです。研修で学び得たもの、意識改革や組織変化の実例などを綴ります。
<熊本市西区役所区民部西部まちづくりセンター 参事 中村幸香>
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