第47回 地域課題解決に向けた熊本市北区役所北部支援チームの挑戦
政治山 / 1970年1月1日 9時0分
「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に自治体職員のリーダーを育成する実践的な研究会「早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会」受講生による連載コラム。研修で学び得たもの、意識改革や組織変化の実例などを綴っていただきます。
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熊本市では2017年4月から市内17カ所にまちづくりセンターが設置され、49人の地域担当職員が配置されました。2016年から既に先行配置されていた私は2年目を迎えていました(前回の記事「第24回 地域の最前線で地域担当職員として“まちづくり”に関わってきたこと、感じたこと」)。
その「声」が地域の「声」なのかそれまで地域担当職員の役割である「相談窓口機能」「地域情報収集と行政情報発信機能」「地域コミュニティ活動支援」の3つの役割を果たしてきました。しかし、これらの活動を行っていく中で疑問として残ったものがありました。それは、「地域担当職員として捉えている地域の現状や課題が、その地域全体を網羅できていないのではないか」ということです。
その原因として考えたのが、「一部の地域役員いわゆる地域の自治会長さんなど地域のために活動している方々との関わりは多いが、住民との関わりが少ないこと。ゆえに地域課題把握には限界があるのではないか」ということでした。地域と一番近くで接する立場上、関わる機会が多い地域役員といった特定の方の「声」は聞くことができますが、その「声」が地域の「声」なのか、それとも地域役員の個人的な「声」なのか、情報元が不明確でした。
また、地域担当職員は保健福祉分野については地域の現状や課題の把握がほとんどできていませんでした。例えばケースワーカーや地域の民生委員さんが持っている情報すら知り得る機会もないままでした。本市が進めている校区単位の健康まちづくりについては、校区担当の保健師と一緒に進めていたため、ある程度の情報は得ることができましたが、保健福祉分野という専門知識を有していないという先入観もあり、本来であれば地域担当職員としてやれるべきこともあったと思います。
専門性を持った職員が地域課題を出し合い解決していくそこで、私は、一つの地域を多面的に捉えることができる体制づくりが必要と考え、地域の中でそれぞれの専門性を持った職員がお互いに情報共有しながら地域課題に対して一緒になって検討し、役割分担のもと課題解決に向けて取り組むことができるように、「北部地域包括まちづくり支援会議」(通称:北部支援チーム)を創設しました。
北部支援チームのメンバーは、校区担当保健師、ケースワーカー、福祉課職員、地域包括支援センター職員、地域担当職員です。この支援チームの目的は3つで、1.情報共有、2.課題の多面的な分析、3.課題解決に向けた方策の検討です。
- 情報共有については、それぞれが地域役員や住民、支援対象者から聞き取った課題を共有するのみならず、地域に関するソーシャルキャピタル(社会関係資本)についても共有します。
- 課題の多面的な分析については、それぞれのメンバーがあげた課題をそれぞれの立場で客観的にみて分析します。
- 課題解決に向けた方策の検討については、多面的に分析した後、優先的に解決すべき課題は何か、また課題解決に向けた方策について検討します。
具体的には、それぞれが把握している地域課題、個別課題を出し合い、項目別に整理して優先順位を付け、方向性や役割分担の目星を付けるという方法で進めていきました。
そこで北部地域の課題や特性として多く出されたキーワードは「認知症」でした。現にある一つの地域では認知症対策の先進地である大牟田市への視察や認知症徘徊声かけ模擬訓練を企画実施するなど、一体的な取り組みが先行していました。
また、北部支援チームのメンバーからは、地域特性として「高齢化率が低いのに対して介護認定率が高いこと」「介護認定を受けている者のうち、認知症の症状を呈する者の割合が高いこと」、さらには「認知症に対する誤解があること」などが挙がりました。
この認知症についての誤解を少しでも解くことが、全ての地域住民にとって住みやすい地域づくりにつながると考え、認知症啓発普及事業として、認知症啓発の映像作成に取り組みました。
映像作成にあたっては、「北区役所職員や、地域住民や商業施設、医療機関等にも目的を説明して撮影場所や出演の協力を得ながら認知症を理解する」「認知症になっても地域で安心して暮らせる」、という内容構成としました。
映像の活用方法の案としては、市民が訪れる機会が多くより目に付くために年間を通じた区役所の窓口モニターでの放映を考えました。その他、地域の高齢者サロンや認知症サポーター養成講座、その他地域活動において放映、さらには北区ホームページでの紹介も考えました。現在は全区役所の区民課にある窓口モニターで放映しています。また続編として今は、認知症になっても地域で安心して暮らしていくための映像作成に取り組んでいます。
また、2018年度からは、この映像作成に留まらず、認知症に関する地域課題として、ごみ捨てを通じて独居・高齢世帯や認知症の方を見守る事業の実施も考えています。
地域担当職員の役割は地域力の維持・向上への貢献このような北部支援チームの取り組みが他のまちづくりセンターでも必要であると判断され、2018年度からは北部まちづくりセンター以外の北区役所内の全まちづくりセンター3カ所でも展開し始めました。
もちろん、北部支援チームも地域担当職員だけが中心的になって会議の検討や運営を行ってきたわけではありません。中でも、地域担当職員制が導入される前から地域に入り活動している校区担当保健師が、地域保健活動に対して「みる・つなぐ・動かす」という視点で関わっていたのが北部支援チーム内でも同じように関わったことでメンバー同士を動かす原動力ともなりました。
また、同じ地域に関わっている職員が組織を越え、地域課題をより多面的に捉えることができ、対策を検討していく際にも発想が豊かになるなど広がりが生まれました。これもそれぞれ関わる職員が北部支援チームの目的や方向性に理解して納得し共感できたからこそ、プロジェクトチームのような一過性のもので終わるのではなく持続できており、さらには具体的な行動にも移すことができたのではないかと思います。
メンバーの中で唯一民間事業者である地域包括支援センターの職員からは、「このような連携ができて発想が広がりますね。行政がこんな考えで活動をしているとは知らなかった。もしかしたら同じような事業があるならば一緒に協力もできて、さらによい事業ができますね」と言っていただいています。
地域担当職員は地域に寄り添いつつ、地域の課題解決や地域の人々の思いをつないでいきながら、「地域力」の維持・向上に貢献するという役割があり、地域全体を大きく俯瞰して見る立場だと思います。地域担当職員をはじめ、地域に入って活動している職員等間の連携協力と地域間の連携協力、つまり行政と地域との協働ができて初めて、「地域力」の維持や向上につながると考えています。さらに、地域課題を解決していく過程において、行政のみならず地域を巻き込み展開していくことは、今後の地域包括ケアシステムの構築にも大きく寄与できるものであると思っています。
今後は、地域包括ケアシステムの構築を本格的に見据え、現在の体制に医療機関や他関係団体を加えて目的等に応じてこの支援チームを変化させていければと考えています。
自分も成長し続け、信頼のネットワークを築く私は2018年4月からは地域担当職員を外れ、総務企画課に在籍しています。総務企画課は区全体を俯瞰して見る位置にいます。そこで、新たな取り組みとして、総務企画課職員が支援チームにメンバーとして参加することで、まちづくりセンターと区役所の橋渡しの役割を担い、区内の各課が組織の枠を超えて積極的にかかわれるようにしました。
また、オフサイトの新たな取り組みとして、北区役所内の有志と一緒に、職員向けの勉強会やランチミーティングなどを開催しています。これも職員一人ひとりの力では限界があるため、もっと職員同士が連携協力できればもっと大きな力になり、様々な相乗効果も生まれるのではないかという考えで始めました。
そして、最後は自分のこと。自分自身も変わり成長し続け何事にも率先し、周りを巻き込みながらもよい影響を与え、北区役所内に「あなたが言うのだったら、やるのだったら一緒にやるよ!」という信頼のネットワークを築けるように、今後も自分自身をリードしていきます。
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