第49回 硫黄山噴火が気づかせてくれたこと
政治山 / 2019年3月13日 10時0分
「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に自治体職員のリーダーを育成する実践的な研究会「早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会」受講生による連載コラム。研修で学び得たもの、意識改革や組織変化の実例などを綴っていただきます。
硫黄山噴火被害わたしのまちは、火山の噴火によって「水が使えなくなる」という全国でも過去に例のない被害を経験しました。
それは、2018年4月下旬に霧島連山えびの高原・硫黄山(いおうやま)で断続的に水蒸気爆発が発生、250年ぶりに噴火し、その火口から流れ出た白濁した泥流が市内中央部まで流下する長江川に流れ込んだことによります。河川の水質が悪化したことで、農業分野においては、稲作に必要な水を確保できないという事態になりました。
発生した頃は、既にどの農家も田植えに向けた準備を整えており、共同で用水路を掃除する作業が間もなく始まるという時期でした。
数日後に水蒸気爆発は沈静化しましたので、水質回復を期待しながら検査結果の情報を住民に伝え続けていましたが、その一方で判断時期を逸すると、代替作物の播種(はしゅ=たねまき)の時期に間に合わないことも懸念されたことから、被害面積の算定や転換作物としての推奨品目の素案づくりも急ピッチで進めていました。当時は「取水しないのか、経過観察を続けるのか」、限られた時間の中で難しい判断を迫られていました。
非常時だからこそ思い知った農家の米づくりへの思い5月上旬に「河川からの取水をしない」ことが市を含む行政機関と営農関係団体との間で合意形成されてからは、私が所属する畜産農政課の主な役割は、来年度以降の営農について方策を練っていくことでした。
えびの盆地は、ヒノヒカリなど昔から品質に定評がある米どころです。これまで知識や技術を継承し、時代にあわせて営農環境を整えてきた農家に対して、「来年度以降も稲作が困難であること」を前提とした将来の営農のことについて話し合うことは、とても難しいことと心得ていました。
実際、農家の皆さんとの説明会でご意見を聴き入る中で、米づくりへのこだわりや伝統、湿地の土壌条件での試行錯誤、一時は盛んであった麦栽培の衰退、高齢であることや労力に対する不安、地域のけん引役やまとめ役の方の存在など、ふだんの農家さんとの接触だけでは知りえない思いや実状、これまでの経緯も知ることができました。
また、複数の部署がそれぞれに取り扱っている水利系統、農地、営農形態を一元化した情報として地域に伝えることが今後の検討に効果的にはたらくことにも気づけました。こうした意見交換を通して、まだ数年先だと思っていた大きな変局は、今ここにあることを共有することができたのではないかと思いました。
被害対策と現状8月下旬以降は、河川下流域の水質が安定して改善されており、来年度以降は、本年度の被害面積の約40%が水稲営農を営むことができそうな状況になっています。
またそれ以外の、引き続き取水制限の影響を受ける区域における被害対策としては、代替水源の確保に向けた可能性調査の実施や、非常時に備えた自動開閉水門の設置に向けた計画が取り組まれているほか、転換作物の栽培適化実証試験や畑地改良整備の実施準備に向けた住民間の話し合いを進めているところもあります。これまでの姿を取り戻すにはもう少し時間がかかるかもしれませんが、一歩一歩と進んでいます。
硫黄山が気づかせてくれた農業被害の復興はこれから本格的に始まるところですが、その復興自体がまちの将来に直結するものであるため、私たちはこの農業被害の経験を通して気付いたことを、日常の業務や生活に少しずつでも活かしていくことが必要です。日々の小さくても「やる」「できる」を追求して高めていくことが、非常時の何よりの備えだと思うからです。
日常の業務の向き合い方をさらに深く考えるきっかけになったと同時に、“今やるべきこと”にグッと意識を引き寄せた「ありたくない自分の将来まちの姿」に対する体感は、反面教師とするよういただいたご縁かもしれませんね。
現在、私は道の駅「えびの」の運営管理担当責任者として、道路交通利用者の休憩機能、情報発信機能、地域連携機能を果たす業務を行っています。複雑な課題を他部署の職員や多くの地域住民との関わりを持ちながら複合的に解決を図っていくこの業務の過程は、人材マネジメントで学んだことを必ず活かせる場でありますし、硫黄山対策のひとつにもなると思っています。
復興の本格開始と施設リニューアルとともに、私も新たにチャレンジしていきます。
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