第51回 「挑戦可能性都市」の加賀市職員の挑戦~アバター・ドローン技術で先進自治体を目指す
政治山 / 2019年8月16日 9時28分
「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に自治体職員のリーダーを育成する実践的な研究会「早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会」受講生による連載コラム。研修で学び得たもの、意識改革や組織変化の実例などを綴っていただきます。
◇
私は日本初の事業を数多く展開している加賀市が、今後もAI(人口知能)やIoT(モノのインターネット)の分野で、全国を牽引する存在であり続けなければならないと思っています。私は、このテーマについて、現在2つの業務に取り組んでいます。
遠くにいながらその場で体験できる、アバター技術1つ目はアバター技術です。これは、例えば「遠隔地の会議室や室内にいながらにして、加賀市で海釣りを体験できるような技術」です。VR(仮想現実)やIoT、AIなどの技術を駆使することによって、その土地でしか体験できない活動やアクティビティをまるでその場で行っているかのように体験できる技術です。
そして、アバター技術を含む最新の技術を活用し加賀市の活性化を推進していくために、2019年5月、イノベーション推進に関する連携協定を加賀市とANAホールディングス株式会社で締結しました。これは、最新の技術をもとに、行政サービスの向上や観光・教育振興、人材育成などの分野で実証実験を行い、自治体として実証フィールドの提供や地元との調整を行うことにより、地域課題の解決や産業振興への活用に寄与することを目的としています。
現在検討中の活用方法としては、例えば、市役所窓口にアバターを設置することで、住民の方は自宅にいながらスマートフォンの操作を通じて円滑な行政相談をする、などです。さらに、身体的制約がある方にとって利便性の向上に繋がることが考えられます。
また、観光名所等にアバターを置き、遠隔で観光体験や伝統工芸体験ができる機会を作ることで、遠方の方も気軽に体験でき、その後の訪問に繋げることも考えられます。
このほか、アバターを活用した著名な先生・講師の授業・講演など教育振興やデジタル化人材育成に関する取り組みなども考えられます。
これらのアイデアの実現を目指すため、アバターの実証実験を今年中に実施したいと考えています。このような取り組みを通して市民全体のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上に努めます。
ドローン技術の可能性2つ目の技術がドローン技術です。ご存知の通り、一昔前のラジオ・コントロール、つまりラジコンの進化版ともいうべき存在で、空高く舞い上がるドローン・ロボットを操作して、空中から撮影を行ったり様々な作業を行わせたりすることができるというものです。
ドローン技術が世に送り出されてからというもの、しばらくの間は一部の愛好家に向けた技術と言われておりましたが、ここ数年はドローン技術も多くの改善があり、また技術革新とも呼ばれるべき成長を遂げております。
そして、2019年6月21日に国の閣議決定においてドローンを含む次世代モビリティ・システムに関する政策目標として「小型無人機(ドローン)について、2022年度を目途に有人地帯での目視外飛行を目指す」ことが示され、ドローンが前提となる社会がすぐそこまで来ております。
また、現在は様々な分野においてドローン技術を活用することが可能です。例えば、ドローン技術を使うことにより農業分野において作物の生育状態を空中から俯瞰(ふかん)的に観察したり、農薬散布および収穫作業などを自動化したりすることも可能となります。現在は「自治体としてできること」を探っている段階ですが、こういったドローン活用によって災害時の被害調査などもスピーディーに行うことができ、命を守るための意思決定を早められるようになると思うと、使命感を感じます。
公的な立ち位置でプロジェクトに関わること、官と民の違いこういった新たなプロジェクトを実証実験とはいえ稼働させるということは、多くの人を巻き込むということに他なりません。
自治体という公的な立場からプロジェクトに参画するということは、いわゆるオブザーバー(観察者)的な使命を帯びることになります。自治体のスタッフとして市民や自治体そのものの豊かさや幸福さを追求し、また市民の立場の公平性や公益性を保ち続けるということもさることながら、プロジェクト全体が制度や法律にきちんと沿っているかを絶えず確認するという役割も必要です。
また、民間の方々と連携することによりこのようなプロジェクトを進めておりますが、現在のところ民間企業に感じている印象としては「人脈は多大で、より良い仕組みづくりや大きなプロジェクトの成功に向けて邁進することができる」「新しい技術の導入により、旧態依然とした考え方ではなくて自由で柔軟な発想により楽しんで取り組んでいる」と感じます。
それを感じたのは、特に民間企業であるANAとのやり取りの中でした。人脈の多大さ等については、現在担当しているANAのメンバーは、元ボーイングや元キヤノンの技術者、ANAのキャビンアテンダント、空港スタッフ、整備、マーケティングなどからさまざまなキャリアの人材が集結しているとのことで、既存のANA事業のなかでは、誰も着手してこなかったことやっている組織だそうです。自由で柔軟な発想等については、これまで私は会議を行うにあたって、「決まった場所に集合して顔と顔を合わせるもの」と思っていましたが、ANAとの会議では、テレビ会議を多用して離れた場所でも行っています。
また会議時は、ANA側は常に明るく楽しく自由な発想でものごとを考えている印象です。というのもANAグループCEOの片野坂真哉氏は社内向けのメッセージで「新しい発想でチャレンジする社員を増やしていこう」「上司や役員を追い抜いていくほどの『やんちゃさ』や『気概』を持っても構いません」と社員に鼓舞しているそうです。このような体制や理念が社員に浸透していることを強く感じました。
プロジェクトでは官民一体となってプロジェクトを進めることになるため、ゴールを共有することがまず一番重要なのではないかと感じています。ゴールを共有し、各自の強みを活かして役割分担をすることが牽引するリーダーの役目と日々認識を新たにしていきたいと思っています。
「挑戦可能性都市」の職員として挑戦をしかけていく現在私が携わっている分野は第4次産業革命スキルといわれる最先端テクノロジーであり、市の今後に必要不可欠な分野であることは申し述べるまでもありません。このような分野の仕事に携われて幸せを感じると同時に、どのように市が関わっていくかによって「市の将来性」が決まると感じています。
また今まで私が携わってきた職務はもちろんのこと、特に現在携わっている分野は行政にとっても新しい分野であることから、粉骨砕身で職務に邁進する必要があると感じています。これまで、周囲の同僚や後輩、そして上司および家族に支えられながら仕事をしてまいりましたが、今後はより一層打ち込まざるを得ない時が来ると思います。しかし、私はこの仕事に対する結果を出すことによって、結果的に行政はもちろんのこと、地域そのものに還元することができると確信しています。今後も全力投球で一つのゴールを迎えるまで、業務に従事し、努力してまいります。
市長の言葉どおり「挑戦可能性都市」の職員として、常に挑戦し「しかけていく側」でありつづけるため日々の職務に従事してまいります。
1978年、石川県加賀市生まれ。横浜国立大学を卒業後、加賀市役所に入庁。職務上、社労士資格をはじめ多数の資格を取得。趣味は野球観戦で生粋のドラゴンズファン。公務員の仕事の楽しさを誰よりも知っている。公務員一筋18年。仕事を辞めたいと思った日数3日のみ。その経験と知識は一聞の価値あり。
連絡先:h.shouda@city.kaga.lg.jp
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