第52回 やりきる。つながる。オフサイトからオフィシャルへ。~静岡市自主研究グループ「しずマニ」の挑戦
政治山 / 2019年9月27日 10時0分
「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に自治体職員のリーダーを育成する実践的な研究会「早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会」受講生による連載コラム。研修で学び得たもの、意識改革や組織変化の実例などを綴っていただきます。
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ここ数年、変化する社会情勢に対応し、それぞれの組織、地域のありたい未来を目指そうと、全国各地で地方公務員ネットワークが活動の輪を広げています。私もそんなネットワークの活動に数年前から加わっているフォロワーの一人です。
私が参加しているのは、静岡県静岡市職員のグループ「しずマニ」。今回は、私がしずマニのメンバーとして体験したこと、グループとしてやりきったこと、その行動によって組織や地域に起こった変化など、事例を挙げて紹介したいと思います。
小さな集まりから、市内外で活動する市役所公認の自主研究グループへ――「聞く・考える・対話する・気づく」をテーマに対話の場をつくり、組織や地域をよくしたい、ありたい未来に向かって一歩踏み出そうとする人の勇気づけになりたい。そんな思いからしずマニは誕生しました。発起人は、静岡市職員の大石誠さん。早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会(通称、人マネ部会)に参加したことを機に、2014年にしずマニを立ち上げました。
発足した当時のしずマニはフェイスブックの「秘密のグループ」で、当初メンバーは代表と、人マネ部会に参加したことのある静岡市職員(通称、マネ友)でしたから、「知名度ナシ、信用ナシ、資金ナシ」のごく小さなオフサイト(業務外)のネットワークでした。
それから5年あまり、今では対話型財政シミュレーションゲーム「SIMULATIONしぞ~か2030」など複数のコンテンツを所有し、市内外で活動する公認の自主研究グループへと成長を遂げました。
これは、大石代表をはじめとする各メンバーがテーマと講師を見つけては、職員向けの夜間講座を開催し、また自ら近隣市町の自治体職員ミーティングに参加するなどして認知と信用を得て、少しずつ組織と地域の変化に関わってきた結果だと思います。
また、活動にあたって「まずはオフサイトから小さく始める」「失敗してもいいから最後までやりきる」というグループポリシーをメンバー間で共有できていたことも、成長を持続できた大きな要因だと思います。
「SIMULATIONしぞ~か2030といえば、しずマニ」しずマニのコンテンツ「SIMULATIONしぞ~か2030」は、熊本県の公務員ネットワーク・くまもとSMILEネットさんが開発された「SIMULATIONくまもと2030」を静岡市版にアレンジしたものです。
しずマニは今から約2年半前、製作元であるくまもとSMILEネット代表・和田さんに相談し、ご当地版SIMの製作に着手しました。
当時、SIMは既に全国にいくつかのご当地版が派生していたのですが、静岡市内でこのコンテンツに手を付けているグループはまだなかったので、他に先んじてゲームを完成させ「静岡市でSIMといえばしずマニ」という事実上の公認を地元で獲得しようという計画でした。
開発着手から約1年。試作版ができると、私たちは休日や仕事終わりに市役所内外で、官・民・学生を対象にした試行を何度も繰り返しました。
試行前は、はたして人は集まるのだろうか、参加者の反応はどうだろうかと不安はいろいろありましたが、「絶対にやりきろう」と決めて臨んだ結果、この試行自体が大きな実践の場となりました。試行のたびに、「しずマニと参加者」「参加者と参加者」の間に新しいつながりが生まれましたし、行財政の仕組みのこと、対話で対立を乗り越えられること、ありたい未来から逆算で今必要な選択をする「バックキャスティング」の考え方など、様々な気づきがゲームの参加者にありました。
また、「静岡市によく似た仮想都市」がゲームの舞台ということで、実名をもじったウケ狙いのパロディー地名などを各所に盛り込んだのですが、これが参加者に好評でした。市役所組織にはない、オフサイトならではの自由なゲーム作りが高評価につながったと思います。
また、参加者の多様性の面でも市役所の枠を飛び越えた様々な職業や年代・性別の試行参加者を獲得することができたので、「SIMULATIONしぞ~か2030といえば、しずマニ」の認知を試行の段階から内外で広めていくこともできました。
そして現在、SIMULATIONしぞ~か2030は静岡市の公式事業として、2018年度に事務事業評価の担当者の研修ツール、2019年度は人事課の採用2年目職員研修メニューに採用をしていただくことになり、目標としていた「オフサイト活動からオフィシャルに食い込む」という、ひとつのゴールへの到達をみることとなりました。
「オフサイトで小さく始める」「失敗してもいいから最後までやりきる」をポリシーに私たちしずマニはオフサイトネットワークです。オフサイトの活動は、組織の変革にかかわろうとするとオフィシャル(公式組織)に入り過ぎて自由を失ってしまったり、反対にオフサイトの自由すぎる活動で公式組織から相手にされなかったりと、活動の軸足をどこに置くかでジレンマに陥りがちです。例えば、念願かなって公式採用を果たしたSIMULATIONしぞ~か2030も、公の事業になったことで多少の硬直性が生じてしまいますが、これもオフィシャル事業の宿命であり、ある程度の割り切りは必要となります。
そういった意味で、私たちはオフサイトネットワークの持つ「野性的な良さ」を保つことも大切なことだと考え、最近はしずマニのメンバー自身がワクワクする本当にやってみたい企画や、固定化しがちな講座参加者に新たな層を呼び込む新企画などを実施して、オフサイト勘が衰えないようにしています。
「オフサイトで小さく始める」「失敗してもいいから最後までやりきる」をポリシーに、ムリのない範囲でやる組織変革、「オフサイトからオフィシャルへ」を旗印のもと、しずマニはこれからも静岡市で面白い活動を展開していきたいと思います。
「失敗の不安をはねのけてやってみる」ことの貴さ最後に、私が昨年やった珍企画「長男長女の会」を紹介させていただきます。
私は日頃、しずマニの活動をしていても、個人として今一歩踏み出せない感に悩まされていました。私事ですが、私は第一子・長男です。あるとき、「長男であることに一歩踏み出せない原因があるのではないだろうか、長男長女(長子)は実は同じような悩みを持っているのだろうか」と思い、長子だけを集めたダイアログを企画してみようと思いつきました。
ところが参加者を募っても、私を入れてわずか4人。これはもはや失敗か…とも思いましたが、ともかく集まった4人でやってみることにしました。すると、ダイアログの結果「失敗できないキャラ」や「自分でハードルを高くしてしまう」など、長子には共通したお悩みポイントがいくつもあることがわかりました。どうやら私は、長男属性からくる失敗の不安でなかなか一歩を踏み出せなかったようです。
この辺りのことは、その手の本には既に書かれていると思いますが、人と人との対話の中で気づくというプロセスには本にはない深い納得感を与える力があります。対話の力を改めて感じた出来事でした。
この経験は、私に「失敗の不安をはねのけてやってみる」ことの貴さを教えてくれましたし、この先、失敗を楽しめるようになれたらもっと世界は広がるだろうという期待も持たせてくれました。私も日々、しずマニと一緒に成長させていただいています。感謝!
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