聖火リレーを通じて地域に恩返し
政治山 / 2021年8月28日 8時0分
「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に自治体職員のリーダーを育成する実践的な研究会「早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会」受講生による連載コラム。研修で学び得たもの、意識改革や組織変化の実例などを綴っていただきます。
◇
2021年6月26日。山梨県市川三郷町の聖火ランナーとして職場である役場前を走った。新型コロナウィルスの感染拡大が予断を許さないような状況の中で、公道にて聖火リレーを開催してくださった実行委員の皆様に改めて感謝申し上げたい。聖火リレーを走ったことをこの連載に書くことは関係のないことだとお思いの方も多くいると思うが、私にとって人材マネジメント部会との出会いが聖火ランナーにつながる大きな分岐点となった。
町のことを知って気づいた危機、聖火ランナーへの応募現在入庁6年目の私は、4年目の時に人材マネジメント部会に参加した。所属していた課も変わらずいつも通りの一年が始まると思っていた私にとって、部会での経験は目から鱗のことばかりであり、多くのことを学ぶことができた。その中でも、「自分事として捉える」ことの大切さを改めて学んだ。恥ずかしながら私は、入庁4年目だったのにも関わらず、これまで生まれ育ってきた自分の町のことを大まかにしか理解できていなかった。
そのような中で最初の部会で与えられた課題が自分の町について調べることであった。町の人口・年齢構成や自組織の人数・年齢構成、財政状況について平成元年から現在、そして10年後に至るまでを実際の数字を出して考察をした。この時に、自分の町について深く知ることができたことは本当に良かった。考察をする中で、市川三郷町が迎えるであろう「危機」を強く思い知らされた。
ちょうど同じ時期に東京2020オリンピック聖火リレーのランナー募集があった。聖火リレーのコンセプトは「Hope Lights Our Way~ 希望の道を、つなごう。」。日本で開催されるオリンピックだからこそ地元に回ってくる聖火。この機会を地域のために活用できないかと考えた。
同年代の方々に伝えたいメッセージ市川三郷町が迎えるであろう危機。それは人口が大幅に減少していき町がなくなっていくことである。町について調べる中で特に人口減少に目がいき、生産年齢人口(15~64歳)の中の20~34歳の減少幅が大きいことに気づいた。20~34歳の方々が町を出ていくということは、今後の街の活性力がなくなっていくことではないかと怖くなった。同時になぜ町を出て行ってしまうのだろうと考えた。おそらく地元の町に働く場所がなく、県外や他市町村へ出てってしまうという方が多いと考えられる。
このような自分の町の危機に対して私にできることは何かと考えた結果が、聖火ランナーへの応募であった。雇用を生み出すことは私一人ですぐにどうにかできることではない。しかし、聖火ランナーへの応募であればすぐにできる。聖火リレーを走ることで地元に雇用が生まれるわけでも、若い方々が出ていくのを止められるわけでもない。それでも、私が聖火リレーという世界的な大イベントで地元を走ることによって、同年代の方々に、「この町はまだ死んでいない」というメッセージを伝え、いっしょに地元を盛り上げていけるのでないかと思った。
私は地元への想いと危機を書き、すぐに応募した。選考委員会の方に想いが届いたのか、2019年12月に私は地元市川三郷町の聖火ランナーに選ばれた。
迎えた当日、新型コロナウイルスの影響で1年延期になったり、公道での開催の危機があったりと多くの試練があったが、無事に公道で地元の皆様の前で、しかも勤務先の役場の前を走ることができた。走っている時に見た地元のみんなの笑顔は今でも忘れられない。また、走った後には多くの人から「感動をありがとう」「良い笑顔だったよ」と声をかけてもらった。具体的な数字やデータはないが、このような社会情勢・地元の危機の中で市川三郷町に元気を届けられたのではないかと思った。
これからの市川三郷町のために今回私はすぐに聖火ランナーへの応募という行動を起こした。なぜそのように素早く行動できたのか。それはおそらく自分の町のことを「自分事として捉える」ことができたからである。
自分事として捉える…簡単そうに見えてけっこう難しい。私自身もたまたま人材マネジメント部会に参加していてそのような考え方を教えてもらっていたから、行動に移すことができたのだと思う。人材マネジメント部会との出会いに本当に感謝している。しかし、聖火リレーを走ったからといって町の課題が解決するわけではない。これからも、聖火リレーの時のみんなの笑顔とあのときの盛り上がり、そして「自分事として捉える」ということを忘れずに、地元市川三郷町のために尽力していきたい。
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