マニフェスト大賞の受賞で「さいたま市重度障害者の就労支援制度」を全国へ
政治山 / 2021年8月17日 10時0分
地方自治体の議会・首長等や地域主権を支える市民等の優れた活動を募集し、表彰する「マニフェスト大賞」。今年で第16回を数える同大賞の募集が始まっており、8月31日まで受け付けています。過去の受賞者に、応募した取り組みの紹介や、受賞して感じたことなどを綴っていただきました。今回は、2020年(第15回)に最優秀政策提言賞を受賞した小川寿士さいたま市議会議員です。
![小川寿士さいたま市議会議員](https://seijiyama.jp/wp-content/uploads/2021/08/00d48256565db0bb71adfe3c7e0879a7-375x500.jpg)
小川寿士さいたま市議会議員
「重度障害者が安心して働くことができるように」「さいたま市重度障害者の就労支援制度」を少しでも多くの方に知っていただきたい。少しでも多く、支援を必要とされている方に支援が行われるよう制度の普及につなげたい。その目的のためにマニフェスト大賞に応募しました。
「就労中も訪問介護を受けられるよう制度を変えてほしい」。そんな重度障害者の訴えを聞いたのは2017年夏。重度障害者は障害者総合支援法に基づき、市町村が実施する介護サービスを24時間体制で受けられますが、仕事中は「経済活動」と見なされ対象外なのです。私は市議会で国の制度の問題点を指摘し、さいたま市独自の支援事業創設を提案しました。これが、全国自治体で初となる「さいたま市重度障害者就労支援事業」の創設につながりました。
2017年に夏祭り会場で私に声をかけたのは、さいたま市中央区の猪瀬智美さん(当時27歳)です。彼女は全身の筋力が次第に衰える筋ジストロフィー。腕が自力で上げられず、寒い時に上着を羽織ることも、暑い時に水を飲むことも1人ではできません。移動は車いすで、トイレは全介助が必要。障害者総合支援法に基づき最重度の障害者が利用できる24時間体制の「重度訪問介護制度」を利用して自立生活を送っています。
猪瀬さんは病院から退院した後、就職をして在宅勤務していますが、国の障害者福祉サービスは仕事中の利用を認めていません。そのため、勤務時間中は介助者がおらず、トイレに行くことができないため、水を飲むことも我慢していました。私はこの制度の問題をさらに深く知るために、就職活動をしていた矢口教介さん(当時28歳)を紹介してもらいました。
![(左から)猪瀬さん、小川議員、矢口さん](https://seijiyama.jp/wp-content/uploads/2021/08/30736dd4d1658d95994ad4b8baaede83-500x500.jpg)
(左から)猪瀬さん、小川議員、矢口さん
矢口さんも筋ジストロフィーで、24時間人工呼吸器をつけて生活しています。呼吸器の管理やたんの吸引などの介助は必須です。採用に前向きな企業はあっても「仕事を始めると介助が受けられない」と途方に暮れていました。この2人が必要としていたのは、仕事の作業を手伝うということではなく、トイレに行くことや水を飲むといった当たり前の生活の介助だったのです。
生活の介助は仕事中であるなしに関係なく必要です。2人との出会いによって私は国の制度の矛盾を強く感じ、制度改正を国に働きかけるよう議会で清水勇人市長に訴え始めました。市長は2018年6月、地方分権改革の自治体提案として在宅就労中の制度利用を認めるよう国に要望しました。しかし、当面の制度改正は見送りとなり、2018年12月定例会一般質問に登壇した私は「若者が働いて得たお金で自立生活を送るために懸命に頑張っています。国は制度改正を見送ったが、こうした若者たちの背中をそっと押すのが行政や政治の役割ではないか。市は単独事業として取り組むべきだ」と市長に迫りました。
![議会での代表質問](https://seijiyama.jp/wp-content/uploads/2021/08/8198d02120419b0a18de17a8bfa8a909-500x335.jpg)
議会での代表質問
これを受け、市は「重度障害者が仕事を持つことは社会参加のあるべき姿」と2019年4月からの事業開始を決定しました。市の取り組みは国を動かし、2020年10月から国と県の補助も受けられるようになりました。私は今回の課題への取り組みを経験したことで、改めて「当事者・市民の声を市長、行政に伝え課題を共有しその解決に取り組むこと」の大切さと議員の役割を認識しました。こうした活動を評価していただき、第15回マニフェスト大賞で、最優秀政策提言賞を受賞しました。
マニフェスト大賞への応募により、重度障害者の就労においてこのような問題が自立生活を阻害している実態を審査員の先生方にご認識をいただくことができました。
私にとっては、それだけで十分に目的は達成するものと思っていましたし、まさかエリア選抜に選ばれ、優秀賞を受賞するとは夢にも思っていませんでした。大変な驚きとともにコロナ禍における開催にご尽力をいただきました関係者の皆様に感謝の気持ちでいっぱいでありました。
その後、優秀賞、最優秀賞受賞者としてプレゼンテーションに参加ができて、改めて審査員、主催者の皆様に「重度障害者就労支援」の必要性を訴えかける機会をいただきました。
第15回開催におけるプレゼンテーションは、リモートにより行われたことで職場(市議会会派控室)からの参加となりました。このことで会派所属議員やスタッフの応援を受け仲間とともに参加できたことは貴重な機会となり、身近にいる仲間の皆にも改めて私の取り組みを理解してくれることにもつながりました。
![マニフェスト大賞でのプレゼンテーション](https://seijiyama.jp/wp-content/uploads/2021/08/65ded02af884129c02a67468511c3bff-500x375.jpg)
マニフェスト大賞でのプレゼンテーション
この「最優秀政策提言賞」を受賞したことを契機に様々なマスメディアでとりあげていただくなどによって多くの皆様に「重度障害者就労支援」の必要性をご理解いただくことができました。現在、全国の自治体におかれても同趣旨の支援制度の創設が広がりつつあります。今後は、全国どこに住んでいるにしても重度障害者が安心して就労できる環境が整備されますよう、微力ではありますが努力を続けて参りたいと思います。
また、第15回マニフェスト大賞に参加し、「最優秀政策提言賞」受賞の誇りを胸に、引き続き市民の声を市政反映することができるよう全力を尽くしてまいります。
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