若者と行政の相互教育―遊佐町少年議会の取り組み
政治山 / 2022年8月4日 18時57分
はじめに
山形県遊佐町は山形県と秋田県の県境にあり、人口およそ1万3,000人の小さな町です。遊佐町には稲作やパプリカをはじめとした名産品が数多くあります。春はアスパラガス、夏は岩カキや庄内砂丘メロン、秋は鮭や庄内柿、冬は促成山菜など山と海、湧水の恩恵を大きく受けた自然豊かな町となっています。
そんな遊佐町内には現在中学校、高校が1校ずつ、小学校が5校ありますが、令和5年度から小学校が統合し1校のみとなります。
そんな小さな町で、今年で20期目を迎える事業があります。それが「遊佐町少年町長・少年議員公選事業」です(以降、遊佐町少年議会事業と表記)。これは遊佐町に在住・在学の中高生を対象に、遊佐町の若者の代表として活動してもらう取り組みです。
1.遊佐町少年町長・少年議員公選事業(1)事業が生まれたきっかけ
ではなぜ、遊佐町少年議会事業を立ち上げたのか。きっかけはいくつかありますが、最も大きかったのは、地域の問題・課題を解決し、時代を牽引していく役割を担う、若者の減少です。町内の働きどころが少ないために、町を離れてしまう若者が多くなっていた現状がありました。また、地域に残っていても、地域の活動などに参加しないといった状況となっていました。
地域の大人は何をすればいいのか?その一方で若者はどうしたらいいのか…?という疑問が出てきました。そこで、若者自身にも、自分たちは、立派な地域社会の一員であることを自覚させる必要があります。若者自身で、自分たちで何ができるかを考え、地域の中での役割を発見していくことが必要であると考えられました。
若者や町に求められていることは、厳しい状況を乗り越えて、地域の中心となる若者の育成・若者の活躍の場を創るための環境づくり、若者の力、意見を取り入れたまちづくりを推進することなどが挙げられました。これらを目的として2003年に遊佐町少年議会事業がスタートしました。
(2)事業のねらいと活動内容
事業の狙いは大きく分けて3つあります。1つ目は知識として、民主主義とは何か?を学校で習いますが、この事業を通し、さらに早い段階で、社会のシステムを実感できるということです。2つ目は中高生が、町に対して個人で意見を出すこということはなかなか難しいことであり、そのような機会はなかなかありません。そこで、この事業を通して、若者の意見を町政へ届け、行政側も意見を積極的に取り入れることで、若者視点からまちづくりを進め、若者からは、まちづくりへの関心を持ってもらうことが狙えます。3つ目は若者の意見を正面から受けとめることで、若者の町への考え方を大人も学び、若者も社会の一員として認められていると学ぶことです。そういった相互教育の場になることをねらいとしています。
少年議会の活動内容について少し詳しく説明していきます。まず、対象者となるのは、冒頭でも触れましたが遊佐町に在住・在学の中高生です。対象者はだれでも、少年町長・少年議員の選挙権と被選挙権を持つことができます。構成員は、少年町長1名、少年議員10名で、定員を超えた場合は選挙となり、当選しなかった者のうちから少年副町長、少年監査、少年事務局長、少年事務局次長が少年町長より選任されます。第20期である今期は少年町長に2名、少年議員に16名の立候補があったため、18年ぶりのダブル選挙となりました。
実際の活動は年3回の「少年議会」と、政策を実現していくために年15回ほど「全員協議会」を行っています。「少年議会」では第1回で当選証書、任命書の付与式と所信表明を行い、第2回で政策提言と町への要望、第3回では活動報告を行います。「少年議会」には町の町長、副町長、教育長、全課長が集まり、有権者からのアンケートをもとに政策の立案、要望を行います。その内容を確認する際にも「全員協議会」で話し合います。
また大きな特徴としては、少年議会には政策実現のため、45万円の独自予算を設けています。この予算と決められた期間の中で政策を進めることになります。
(3)少年町長・少年議員たちの足跡
遊佐町少年議会事業はこれまでに様々な政策を立案してきました。その中でいくつか紹介します。
まずは遊佐町のイメージキャラクター「米~ちゃん」(べぇ~ちゃん)を作成しました(第2期)。これは町民から広く募集し、デザインと名前を決定しました。このイメージキャラクターは町のいたるところに描かれており、町役場の封筒や、町のタクシーにも描かれ、また着ぐるみも作成され、町のイベントがあると必ず出演します。第7期には家族ができ、「米~ちゃんファミリー」として町から愛されています。
また、形に残るあらゆるものを作ってきました。遊佐町はパプリカが名産品なのでパプリカのレシピ本を制作したり、米~ちゃんの絵本も作られました。町内のイベントをまとめた「遊佐町大図鑑」、遊佐町の名所や飲食店をまとめた「YUZA!YAMAGATA」など、町内外のひとにも紹介できるものを制作しました。冊子の他にも、中高生が多くいる駅やショッピングセンターには、少年議会で作成したベンチを設置しました。昨年度は町内の子どもたちに遊びながら遊佐町をもっと知ってもらいたい、コロナ禍でも楽しんでもらいたいという気持ちから、「ゆざっこかるた」を作成しました。
政策ではなく、少年議会が町へ要望し、実現したものもあります。田んぼ道を自転車で帰る際に、暗く危ないということで、どうにかならないかと少年議会のアンケートに書いた方がいました。その後、実際にその道路には街路灯が設置されました。町へ個人が訴えても、なかなか声が届かないことも、少年議会で取り上げたものであれば町は動いてくれることもあることを証明しました。似た要望を受けたものでは防雪柵の設置も行いました。
町への要望として他に大きなものとしては、若者の居場所づくりとして「スタディスペース」の設置が挙げられます。これは、学生が声を出して教えあえる場所が無いため、静かに勉強する場所だけでなく、そういった場が欲しいという意見から作られました。実際に設置したら本当に学生が利用するのかを生涯学習センターの一室を使用し、試験をしたところ多くの学生の利用がありました。需要があることを証明したのち、遊佐町の町立図書館に「スタディスペース」を設置することになりました。
2.事業への町職員の関わり(1)社会教育係を中心に全課で
ここからは遊佐町少年議会事業の町の体制について説明していきます。事務局は教育委員会の社会教育係にありますが、その他にも遊佐町少年議会に対して、町では「プロジェクト会議」を年度のはじめに実施します。プロジェクト会議の委員は総務課(選挙管理委員会)、議会事務局、企画課、教育委員会の職員から構成されます。
プロジェクト委員では少年議会事業での大事な役割をそれぞれ担ってもらう形で協力していきます。対象となる学校への事業の説明会や投票作業、開票作業も各プロジェクト委員が協力して行います。また、遊佐町少年議会事業では実際の選挙に使用される投票箱や議員バッジなどを使用するため、その管理をしている各課での協力をお願いしています。
(2)若者の主体性を重んじる
遊佐町少年議会事業における町職員の役割とは、事業が円滑に進むように取り組んでいくことですが、一番大切なのは中高生の主体性を何よりも重んじることにあります。事務作業は職員が行うため、活動の進め方は職員がある程度は取り決めることがありますが、会議の進め方、立案する政策の内容、政策の実現の仕方などは基本的にすべて少年議会内で行います。これは、大人が何か意見を言ってしまうと、それが正しいと捉えられてしまう可能性があるためです。
(3)学校との連携・協力
有権者に関心持ってもらうため、また立候補者の確保のために、学校への事業説明会を開催しています。有権者が通う町内の中学校、町内・隣の酒田市の高校へは事業が始まる前の5月上旬に事業説明会を開催して立候補者の確保に努めます。その際には、各学校からは少年議会担当の先生を配置してもらい、遊佐町在住・在学の生徒を集めてもらいます。
その後も立候補者の取りまとめや選挙となった際の投票やアンケート回収など、少年議会に関わることを引き受けていただく形となっており、学校側の協力無しで事業を進めることはできません。町内の学校では昼休みの放送の時間に少年議会を取りあげて放送してくれた学校もありました。
また、町内の小学校6年生を対象に事業説明会を行っております。未来の有権者が興味を持つことで、立候補者の確保と有権者から少年議会の活動に関心を持ってもらうことを目的としています。この際にも小学校の担任の先生に授業を1コマいただいて開催します。
3. 第16回マニフェスト大賞「成果部門」最優秀賞受賞(1)受賞とその後の展開
ここ数年、対外的に認知度が大きくなってきており、テレビやラジオ、新聞などのメディアからの取材も多くなってきております。その中でも、2021年11月12日に第16回マニフェスト大賞で成果部門の最優秀賞を受賞できたことは当事業における非常に大きな出来事のうちの一つです。今年度で第20期を迎える遊佐町少年議会事業ですが、形に残る受賞は初めてでした。
受賞後は様々な取材を受け、遊佐町少年議会事業の知名度を大きく広げるものとなっております。受賞後、「少年議会の活動内容を詳しく知りたい」「実際の活動を直接見たい、できれば少年議員の方々からお話を伺うことができないか」等といったお問合せを多数いただきました。また、若者の活動に対し、多くの方が大きな期待を寄せていることも感じました。事業の狙いでもある相互教育を今後も続けていきたいと改めて感じました。
(2)まずは応募するところから
マニフェスト大賞へは全国各地から議会や自治体だけでなく、NPO、市民、企業など幅広い主体からの応募があります。当事業も受賞するかはともかく、事業を紹介できる機会があればという気持ちで応募した経緯がありました。その結果、このような大きな形で評価していただけることとなりました。2022年の7月になった今でも、マニフェスト大賞で受賞しことが、少年議会の視察の際に話題になることもあります。是非このマニフェスト大賞に応募してみてはいかがでしょうか。
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