マイナンバー対応する余裕のない中小零細――国も企業も対応に遅れ
政治山 / 2015年12月18日 18時0分
銀座の一等地に社労士事務所を構える中小企業サポートセンター代表所長の宮本宗浩さんの元には近隣の飲食店や小売店などの中小企業からマイナンバーについての問い合わせが昨年以降、絶えません。
政府は零細企業にもっと情報提供を
「メディアでは不安を煽る内容が多いけれど、企業の実情に応じた説明が少ない。従業員20人以下の零細企業となると、マイナンバー対策や新たに委託をする余裕などなく、本当に気の毒です。せめて、彼らにどんな対策を打てばいいのかを説明する場を設けるべきです」と国の対応に疑問を呈します。
中小企業サポートセンターの名前が示す通り、クライアントの99%が従業員50人以下の企業。顧問契約していない企業からの一般的な問い合わせにも丁寧に対応しているものの、マイナンバーを一から説明すれば何時間も必要になります。宮本さんは「まずは(自身も会員となっている)マイナンバー推進協議会のホームページ(https://www.mynumber.or.jp/)を見ていただくよう勧めています」と言います。同ページには社労士向け、企業向け、一般向けにそれぞれコーナーを設け、必要と思われる情報のほとんどを詳しく解説するとともに、頻繁に更新やテーマの追加をしており、新たな状況にも対応しています。
通知カード発送だけでない対応の遅れ
当初11月中に全世帯に届けるとしていた通知カードは、大阪市天王寺区などカードの作成漏れがあった一部の地域を除き、1回目の配達を終えたと日本郵便が12月17日に発表しました。とはいえ、大阪市分は年内までぎりぎりの状況で、12月11日に作成漏れが明らかになった秋田、静岡、滋賀3県内の5市町については「配達状況を確認できていない」としています。
対応の遅れは通知カード配布だけではありません。12月に社員に配られる源泉徴収票は、10月の所得税法施行規則改正で、個人番号の記載が不要となりました。多くの企業には朗報ですが、対応の準備を進めていた企業には骨折り損です。制度が状況に応じて変化する可能性があるので、政府のマイナンバー関連ページを巡回するなどして最新動向をウオッチしておく必要があります。
私たち個人は通知カードが届いたら個人番号カードを申請するか否か、会社の指示に従い番号を届け出る、といったところが当面の対応項目です。
厳しい罰則、企業は戦々恐々!?
これに対し、大企業から中小零細に至るすべての企業は、従業員やアルバイトのマイナンバーを収集、管理する必要があります。収集したマイナンバーによって、税や社会保障の手続きを行いますが、取扱責任者の教育・監督をはじめ取扱規程の策定(101人以上の事業所は義務)、番号の使用履歴を記録するなどの対応が必要になります。マイナンバーとそれに紐づく情報は、「特定個人情報」として守秘義務があり、不正な流出や漏えいがあった場合には、企業や管理責任者に最高で罰金200万円以下、懲役4年以下の罰則が科せられる可能性があります。
外食や小売り、金融機関は早くから対応
政府から特に強いプレッシャーを与えられてきた外食や小売り大手は、早い段階から対応を行ってきました。アルバイトが多く従業員の流動性が高い外食と小売りは、各店舗の負担を考慮して外部委託するケースや、社内インフラを早期に整備してコストカットの目途をつけたケースなど親会社の対応は様々です。従業員や地主・家主からの番号収集も、各店長が集めるか郵送で一括収集するかは、それぞれ対応が分かれています。
金融機関もマイナンバーに関連する業務範囲の広さから早期に対応してきた業界です。既存の税法とマイナンバー法の間で随所にズレが発生し、顧客や従業員が今後、戸惑う場面もありそうです。一例を挙げると、海外送金について、税法では金額に関わらずすべてのケースで個人番号を収集する必要がありますが、マイナンバー法では100万円を超える海外送金に限定して個人番号付き調書の起票が必要としています。
保険代理店は泣きっ面に蜂、建設・人材派遣も対応に遅れ
金融事業者は100人以下の小規模であっても取扱規程の策定が例外的に義務となっています。ここ数年で急増した小規模な保険代理店の場合、少人数でぎりぎりの営業活動をしている店舗も多く、番号の収集から規程策定までやることが増えすぎて「現状では対応しきれない」と悲鳴を上げる店長も。来年5月には顧客保護のルールが厳格化された改正保険業法も施行されるため、保険代理店には泣きっ面に蜂の状態です。
建設業界では日雇い労働者の個人番号をどうやって収集すれば良いのか、対策を施している中小の建設業者はほとんどいない状況です。出稼ぎ労働者や仮住まいの労働者に対しては、本人の手元に通知カードがないケースも多いため、混乱が予想されている業界の一つです。
同様に、人材派遣業界も自社の社員はともかく、派遣社員の番号収集に苦労しそうです。派遣先が多岐にわたるだけでなく、経理や人事といったマイナンバーを取り扱う部署に配属される派遣社員も多いため、取扱規程の遵守を徹底しなければ、派遣元の自社に責任が及ぶ可能性もあります。
◇
コラム「企業にはデメリットだけ? いいえ、法人番号DB化でメリットも」
システム導入など管理設備のために、平均100万円超のコスト負担がかかり、1000人以上の会社では600万円かかるとされ、企業にとってマイナンバーはデメリットしかないようにも見えます。しかし、初期の対応が一段落すれば、法人番号を活用したデータベース(DB)がビジネスを円滑化するのではないかと期待されています。
例えば、(1)法人番号公表サイトなどを使って、企業のマイナンバー法人番号をDBとして利用すれば、情報の集約や名寄せ作業を効率化できる、(2)新規の営業先を探す際、マイナンバーの「法人番号指定年月日」絞り込み検索によって、新規の設立法人を見つけることができる、(3)法人版のマイナポータルが稼働すれば、資格許認可や賞罰実績などがオープンデータとして集約されるので、企業が新規取引先にこうした自社情報を求めたとき、互いに調査・打ち込みの手間が省ける、といった具合にDB検索や名寄せ作業で時間やコストをカットし業務を効率化することが期待されます。
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