司法界にもマイナンバーの影響
政治山 / 2015年12月25日 15時30分
首相官邸の西側に通りを挟んで向かい合う山王パークタワー。その12・14階にオフィスを構える牛島総合法律事務所の弁護士、影島広泰さんはマイナンバーを分かりやすく解説すると評判で様々なメディアに登場しています。導入直前に迫ったマイナンバーについて、インタビューに応じていただきました。
世の中が過剰反応しているところも……
――マイナンバー導入まで1か月を切りましたが、顧問先から相談はありますか?
「多いですね。今の時期は社内規程の作り方や委託先との契約書についての問い合わせです。夏頃まではどうやって番号収集をすればよいかの問い合わせが多かったですが、今は少なくなりました」
――新たな内容の相談は?
「東京の大手企業は、皆それぞれ情報を集めて対策しています。地方に行くと何から始めていいか分からないという企業経営者がいて、説明会で「なるほど、分かりました」というケースがあります」
――事務所内の対応は?
「従業員の番号収集作業をしていますが、新たなシステムを導入する予定はありません。世の中が過剰反応しているところがあると思いますが、要するに、扶養控除等申告書に番号を書く欄が1つ増えて、源泉徴収票の欄に転記するだけです。
もちろん漏えいしてはいけませんが、それは今までも同様で、漏れてはいけない情報が増えるだけです。集めるのに本人確認をする必要がありますが、さほどスタッフが多くない中小企業の方はマイナンバーのためにクラウドサービスや番号収集キットを高い金額で導入する必要はありません。扶養控除等申告書を例年通り提出してもらえれば、そこに全員の番号が書いてあるので、税理士に渡して源泉徴収票作ってもらうだけ。非常に簡単な手作業です。
一方で、私たち士業には別の課題があります。報酬を支払った企業は、支払い調書に報酬を受け取る私たちのマイナンバーを記載しなければなりません。各企業が弁護士や税理士、社労士の番号をどう集めるのかにも依りますので、私たちがどのように番号を提示するかは制度が始まってからの課題です」
漏えい第1号にだけはならないように
――漏えいは必ず起こると言われています。
「個人番号は名前と同じ個人を識別する符号です。私たち日本人にとって漢字が分かりやすいように、コンピュータには数字が分かりやすい。名前の代わりに数字が増えるだけです。漏えいの恐れは番号に限らず、名前や住所だって常にあります。
ただ一つ気を付けなければいけないのは、マイナンバーは注目されていますので、漏えい第1号になると大きく報じられ、記録と記憶に残ります」
情報管理のニーズ増え、法律相談は増える可能性も
――マイナンバーは弁護士の業務を減らすと思われますか?
「弁護士の場合、むしろ増えると思います。今まで独自のシステムで人事や経理を行ってきた企業も、マイナンバーを契機にクラウドサービス契約やパッケージソフトに移行する企業が増えています。独自システムで漏えい対策を行おうとしてもコスト的に見合わないからです。このことからも分かるように情報管理の社会的重要性が高まり、法規制もマイナンバー法の罰則規定を見れば分かるように厳しくなっています。必然的に法律家の仕事が増えるのではないかと思います」
――いわゆるイソ弁(居候弁護士)はともかく、ノキ弁(軒先弁護士)では食べていけない弁護士もいるようですが?
「一時は“過払い請求訴訟バブル”がありましたが、その後は件数が減る中で弁護士は増えました。情報管理の規制を実務上どのようにクリアするかについては、技術的な話がついて回りますので、若い弁護士が専門性を身につけるにはよい分野だと思います」
番号管理していれば不必要だった名寄せ作業の4000億円
――マイナンバーは評価していますか?
「今やっていることが非効率的過ぎるので、やらざるをえないし、やるしかないと思います。反対意見もよく分かりますが、現状のままでは財政負担が大き過ぎます。消えた年金記録問題なんて、5000万件の名寄せ作業に4000億円もの予算をかけてしまいました。番号で管理していればコストなんてほぼゼロで済んでいたはず。人が一字ずつ入力して山崎と山嵜の違いで名寄せできないとか。税と社会保障を1つの番号で管理すれば、こうしたムダもありませんし、社会保険の不払いも防げます。生活保護費の不正受給防止にもなります」
紐づけ作業は慎重に行う必要
――反対意見に対しては?
「番号で管理される気持ち悪さと危険性は分かるので、どこまで紐づけるかが大きな問題です。例えば医療情報。レセプト効率化の必要性は分かりますが、他方で信頼できる医者にだけ話せる病歴というのもあります。紐づけ作業は慎重に行う必要があります」
――銀行口座の紐づけは?
「口座の付番義務化は賛成です。「資産課税につながる」という説については、現在でも銀行は「CIF番号(Customer Information File、顧客情報ファイル)」によって、個人が複数の支店に口座を持っていても統一されたCIF番号で枝付けされているので、その気になれば財産状況は把握できると思います。
資産課税がいいのかどうかは分かりません。ただ、銀行口座の紐づけは、和解金や賠償金の逃げ得を許さないために、むしろやっていただいて、司法手続においても利用できるようにしてもらいたい、というのが私の考えです」
(次回へ続く)
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