参議院不要論をコストから考える
政治山 / 2015年9月30日 16時0分
与野党の激しい攻防が行われた安保法制審議。最後は暴力まがいの妨害行動や、いたずらに議事進行を遅らせる牛歩戦術が、参議院で行われました。「良識の府」という言葉が皮肉にしか聞こえない参議院の在り方を真剣に考えるときではないでしょうか。
ここでは、政治的テーマとしての参議院不要論ではなく、コスト面から参議院を考えてみたいと思います。
至れり尽くせりの議員特権
まず国会議員の手当等で考えますと、歳費は期末手当の約635万円を含め年間で約2200万円。そのほかに領収書など一切不要で国会議員の第二の給料と言われる文書通信交通滞在費が月100万円で年間1200万円。また、これも領収書不要の立法事務費が月65万円で年間780万円。
さらに、JR全線で新幹線・特急・グリーン車等の料金無料または月4往復分の航空券の無料。これを経費とした場合、月4往復の航空券を1往復5万円で計算すると20万円と換算できるので、年間240万円の対価。
また、国費で負担する公設秘書として、公設第一秘書、公設第二秘書および政策担当秘書の3人を置くことが認められます。給与はそれぞれ異なりますが、35歳の年収で平均666万円と計算しても、3人で年間2000万円。
これに当選した衆参議員の数に応じて政党に分配される政党交付金が追加されます。国民一人当たり250円として合計320億円を、国会議員717人(参議院242人、衆議院475人)で割ると、1人あたり約4500万円と考えられます。
議員一人当たりの経費は年間1億円
これらを積み上げた結果、議員一人当たりにかかる経費は少なく見積もっても年間約1億円と言われます。242人いる参議院議員には私たちの税金から250億円近くが支出されていることになります。
また、参議院議員会館には全議員242人分の事務室があります。2010年7月に完成した新議員会館は総工費約600億円。年間の光熱水費を含めた維持管理費は約15億円。麹町と清水谷にある参議院宿舎の経費は分かりませんが、衆議院赤坂議員宿舎の年間維持管理費は平成27年度一般会計歳出予算で見ると8億円です。
続いて両院の平成27年度予算を見ると、参議院は約440億円、衆議院は約743億円、国会図書館は約200億円となっています。国会図書館は立法行為の補佐が主な役割です。単純計算はできませんが、一院制になれば規模を半減できると仮定すれば、予算の半額約100億円は参議院のために費消されていると考えることができます。
選挙にかかる費用はどうでしょうか。2004年度の参院選では570億円、2007年度の参院選では526億円、2010年度は約500億円が総務省から自治体などに振り分けられています。3年に1度の半数改選の度に平均550億円の税金が支出されるということです。年間180億円程度と考えればいいようです。
参議院は年間1000億円以上?
トータルで考えると、私たちの税金から参議院を維持するために最小限に見積もって年間1000億円以上はかかっているようです。直接的な経費は議員一人あたり1億円でしたが、これら間接的な経費も含めて換算すると、一人あたり4億円程度かかっているということです。もちろん、たとえ参議院が廃止されても、固定資産税や減価償却費、国会図書館などの経費はゼロになるわけではないので、参議院の廃止で直ちに全額が節約されるわけではありません。
この金額は高いのでしょうか。安いのでしょうか。
私の友人や家族に尋ねると、一律に「高すぎる。参議院なんて必要ない」という意見が返ってきました。ですが、永田町で働く議員や秘書、公務員の方に尋ねると、「民主主義のコストとしてはむしろ安い」という意見が大勢です。「6年間の任期が約束されているので民意に安易に踊らされず、バランスのとれた政治ができるのは参議院のおかげ」「衆議院が解散している間、国を守っているのは参議院だ」と勇ましい発言をしていた人もいました。
利益を享受する立場か否かではっきりと分かれる意見ですが、過去20年間の政治史で参議院が最も目立ったと言えるのは2005年の郵政国会の時ではないかと思います。衆議院で可決された郵政民営化法案が参議院で否決され、小泉首相は民意を問うため衆院を解散したことは、まだ皆さんの記憶にもあることかと思います。
総選挙の結果、自公が圧勝し直後の特別国会で民営化法は可決されました。結果的に参議院の判断は民意に逆らっていたということで否定されたのです。
<フリーライター 上村吉弘>
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