笹川陽平 日本財団会長インタビュー(2)「日本の有権者と政治家が忘れてしまったこと」
政治山 / 2015年11月27日 19時30分
前回は、ミャンマー総選挙において、日本政府から選挙監視団団長を嘱託された笹川陽平日本財団会長に、現地での選挙状況をうかがいました。今回は、ミャンマー総選挙を通じて、わが国の選挙と政治、そして有権者に対する思いを語っていただきます。
関連記事:笹川陽平 日本財団会長インタビュー(1)「一票が国を変える」有権者の笑顔と民主化への思い
http://seijiyama.jp/article/news/nws20151125-001.html
投票は民主主義の原点
【記 者】 日本では来夏の参院選から選挙権年齢が18歳以上に引き下げられますが、若年層の投票率は改善するのでしょうか?
【笹川氏】 投票率の低下は深刻な課題だと思います。ミャンマー総選挙では、投票を終えた有権者がインクの付いた小指を笑顔で見せ合う場面が本当に感動的でした。私たち日本人はそういった選挙のありがたみを忘れてしまいました。自分たちの一票で国が変わるんだという民主主義の原点に立ち返らなければいけません。
投票日、投票開始の6時前から並ぶ有権者(左)、投票日の前日、準備状況を視察する笹川会長(右)
【記 者】 民主的な選挙が当たり前にある国と、今までなかった国との差でしょうか?
【笹川氏】 ミャンマーでは民主的な選挙は50年間なかったですからね。
情報を正確に伝えるメディアが必要
【記 者】 日本では2013年にネット選挙が解禁され、私たち政治山ではインターネット投票の研究や検証も推進しているのですが、投票率向上の施策としてどのようにお考えでしょうか?
【笹川氏】 インターネットの利用には大賛成です。しかしその前に、政治家の資質を判断できる材料を揃える必要があります。今は候補者のプロフィールくらいしか紹介されませんが、それだけでは不十分です。
現職ならば、今までどの委員会に出席し出席率は何割か、どんな発言をしたかなど最低限の情報を有権者に提供するべきです。議員の年収は諸々の手当、それに政策秘書の給料などを含めると議員一人におよそ1億円が必要です。参議院議員の場合は特に、6年間何の成果がなくても毎年それだけの経費が必要なのです。それに国会運営費を加算すると議員一人にいくら費用がかかっているのか不明です。比例選出の議員の中には、委員会の出席率が極端に悪い人もいるようです。
衆参ともに身を切る改革を
【記 者】 参議院は衆議院のカーボンコピーとも言われています。
【笹川氏】 私は衆院300、参院100程度に定数是正すべきだと考えています。現状の在り方であれば参議院は無用です。戦後の参議院は政党の枠を超えた不偏不党の緑風会という会派が結成され、衆議院とは一線を画した独自性を見せていましたが、今は衆議院と同じ党派で同じ議論をしているのだから意味をなさなくなっています。
取材に応じる笹川会長
河野太郎 行革担当大臣も一生懸命仕分けをしていますが、政治家は何よりも先ず自分たちの身を削らなければいけません。
【記 者】 衆議院の選挙制度についてはどう考えますか?
【笹川氏】 衆議院は小選挙区制を廃止して中選挙区制に戻すべきです。小選挙区にしてから政治家同士の切磋琢磨が見られなくなりました。中選挙区制なら常に有権者の声に耳を傾けないといけませんが、小選挙区の場合は議員の資質よりも政党政治で決まってしまい、選挙区の声が議会に届かない。地に足のついていない、宙に浮いたような政策になりがちです。
【記 者】 参議院改革は鳥取・島根と徳島・高知で合区にする区割りの変更にとどまっています。
【笹川氏】 違憲状態を回避するための小手先の変更で、与野党で野合しているだけでしょう。本来は国民の声をどう反映させるかが国会議員の仕事なのに、裁判官の判決だけを気にして技術論に陥っています。日本の将来を考えたらもっと大胆な改革をしなければ善政とは言えません。
投票は未来への責任
【記 者】 来年から有権者となる若者にメッセージをお願いします。
【笹川氏】 選挙権は権利であると同時に国家に対する責任でもあります。投票行為は権利の中で最も大切で、また重要な義務でもあるのです。権利と義務の両方を備えた国民としての役割を果たす自覚を持ってほしいです。「デートがあるから無理」などというのはとんでもない話で、自分たちの一票が国を動かし、未来を変えるという意識で最優先に考えてほしいと思います。
小手先の人気取りよりも効率的な国会運営を
【記 者】 いまの政治家に対してもメッセージをお願いします。
【笹川氏】 議論にも上らない重大問題は、国会運営のあり方です。実に非効率で、いつでも総理大臣が待機していないと重要な委員会が行えない。国際会議出席のために出国すると、野党はすぐに「国会軽視だ」の一点張り。総理より詳しい役人や大臣がいくらでも答弁できるのに審議拒否となる。
なぜそうなるかと言えば、総理との応酬が映像で流れ、それが自分たちのPRになるからです。国会中継は必要ですが、本来の役割の阻害要因となり、非効率な国会運営になっていると思います。
日本の総理大臣は世界で最も忙しい国家元首です。オバマ大統領は昨年1年間で100回以上ゴルフをしたと言われています。安倍総理はたったの11回です。ところが、「11回もゴルフしていた」などと叩かれる。精神衛生上、健全でなければ国策を決める正しい判断は行えません。政治家は小手先の人気取りよりも、日本のことを考えて行動してほしいと思います。
笹川 陽平(ささかわ ようへい) 日本財団会長1939年1月8日東京都生まれ。明治大学政治経済学部卒業。2001年5月に世界保健機関(WHO)ハンセン病制圧大使、2007年9月にハンセン病人権啓発大使(日本政府)、2012年6月にミャンマー少数民族福祉向上大使(日本政府)、2013年2月にミャンマー国民和解担当日本政府代表(日本政府)に就任。日本人で初めて『法の支配賞』(国際法曹協会)を受賞したほか世界各国・機関で43の賞与を受賞。世界22学術機関の名誉学位を取得。笹川良一・日本船舶振興会初代会長の三男。次兄に自由民主党元衆議院議員・笹川堯がいる。『紳士の「品格」』など著書多数。1年の3分の1を海外活動に充てる。
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