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プログラミング言語がまちの資源―松江市がRubyの聖地化した10年の歩み

政治山 / 2016年2月18日 11時30分

 私が所属する島根大学は島根県松江市にあります。その松江市に在住のまつもとゆきひろ氏が開発したプログラミング言語がRubyです。このことに着目した松江市は、2006年からRuby City MATSUEプロジェクトを展開しています。

 私が島根大学の教員ということもあり、自己紹介をした際などに、「Rubyの松江市ですね」と声をかけられることも多く、プログラミング言語に触れたことがある層には、松江市と言えばRubyということが浸透しているように思われます。

 そこで、「地域デザインの観点から見たRuby City MATSUEプロジェクト」という論文を大学の上司である野田哲夫教授と一緒に書き上げ、先日、島根大学法文学部山陰研究センター主催の「山陰研究交流会」にて、その内容を発表しました。その概要を紹介したいと思います。

松江城
国宝に指定されている松江城

教育現場でもプログラミング実習

 Ruby City MATSUEプロジェクトは、2006年に始まりました。松江市は、プログラミング言語RubyをIT産業振興のための地域資源として注目し、各種の取り組みを展開してきたのです。

 まず、2006年7月、松江駅前に松江オープンソースラボ(開発交流プラザ)が開設されました。Rubyおよびオープンソースに関わる、活動の拠点が作られたのです。同年9月には、島根県内におけるOSS(オープン・ソース・ソフトウェア)に関わる企業、技術者、研究者、そしてユーザによる組織として「しまねOSS協議会」が発足しました。この協議会は、松江オープンソースラボを会場に、RubyやOSSにまつわる活動を行っている人を招いて講演を行うオープンソースサロンを継続的に開催しています。2015年12月には、このオープンソースサロンは第100回の開催を迎えました。

松江オープンソースラボ
松江オープンソースラボ(松江市ホームページ)

 2007年7月には、開発支援事業・コミュニティ支援事業・情報発信事業・Ruby技術者認定試験事業・事業者認定制度を事業として展開する「合同会社Rubyアソシエーション」が設立され、2011年7月には「一般財団法人Rubyアソシエーション」にその業務が移管開始されています。

 2007年10月には、島根大学において、「Rubyプログラミング講座」が開設されました。以降、松江市内の中学校などでもRubyを用いたプログラミング教育が行われるなど、教育を通じて市内でのRubyの浸透も図られています。

 2016年に至るまで様々な取り組みが積み重ねられてきましたが、2006年から2008年あたりが、プロジェクト開始と初期の成功の時期だと言えると思います。

Rubyを世界標準規格へ

 2009年から2012年が松江での定着から世界展開への時期です。

 2009年には、RubyWorld Conferenceが開催されました。以降、このイベントは海外からの講演者や参加者を得る一大イベントとなっています。2012年には、4月には、RubyがISO/IEC(国際標準化機構/国際電気標準会議)の標準規格として承認されました。前年にはJIS規格に制定されていましたが、それに続き国際的な標準規格としても認められることになったのです。

 そして、2013年から現在までが、プロジェクトの深化の時期にあたると思います。

 2013年1月には、Ruby City MATSUEプロジェクトの実施が評価されて、「地域づくり総務大臣表彰」地方自治体表彰を松江市が受賞しています。このような対外的な評価を得つつ、市内中学校での「Rubyプログラミング授業」や25歳以下のRubyプログラミングコンテストとしてU25Rubyプログラミングコンテストin島根の実施など、次世代の育成に向けた取り組みに積み重ねられています。

RubyWorld Conference2015
Ruby World Conference2015のホームページ

松江市をRubyの聖地化するという地域デザイン

 以上のようなRuby City MATSUEプロジェクトの取り組みを地域デザインの理論枠組みで読み解くというのが、論文の主旨です。

 詳しくは論文が島根大学のWebサイトで公開予定ですので、ご参照頂きたいのですが、地域デザインの理論枠組みで読み解くと、Ruby City MATSUEプロジェクトでは、結果として的確な事業展開が図られてきたことが分かりました。

 まず、地域デザインの理論では、地域に関わるアクターの存在が重要視されます。この点につき、しまねOSS協議会のオープンソースサロンの開催に見られるように、RubyやOSSにまつわるアクターの存在が明らかにされ、アクター同士がつながる契機が数多く作られてきました。

 さらに、地域デザインの理論では(特に、地域デザイン学会における議論では)、コンテンツではなく、コンテクストの重要性が強調されているのですが、Ruby City MATSUEプロジェクトでは、Rubyを単なるコンテンツとして扱うことに留まらず、松江市をRubyの聖地化することを企図するなど、地域振興というコンテクストの中にRubyというものを位置付けることに成功しています。これは、市内在住のまつもと氏が開発したRubyというエピソードに留まることなく、教育なども通してRubyを市内に「埋め込み」、松江市と言えばRubyを想起させるというコンステレーションデザインにつなげたという意味で大きな成功を収めていると言えます。

 プログラミング言語など一切知らないという人の大半でしょうから、Rubyと松江市と言っても、ピンとこないという人が多いとは思います。しかし、少数派とはいえ、一定の層にRubyのまちとして松江市が認知され、RubyWorld Conferenceなどでは域外から数多くの訪問者を得ています。国内では、福岡市もRubyに着目した地域振興策を展開するなど、同様の取り組みの広がりもあります。

 何らかの施設や風光明媚な名勝、固有の文化などではなく、プログラミング言語という新たな資源を発掘し、それを活用して地域の産業振興を図るとともに、地域のブランド化も図る。そのような先進的事例として、松江市は注目されるのではないかと思います。

<島根大学研究機構戦略的研究推進センター特任助教 本田正美>

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