現役大学院生が挑む地域おこし協力隊「人生をかけて農村活性化に挑む」―農業改革特区・養父市(2)
政治山 / 2016年2月22日 12時30分
地方に仕事は多い。お金になっていないだけ
【政治山】 実践の場で1年余りにわたって経験した感想は?
【衛藤さん】 実際に住んでみる、やってみるということを通じて得られたものは非常に多かったです。何かで読んで、あるいは聞いて知っていたことが、身をもって感じられるといった思いです。
【政治山】 東京都立川市のご出身とお聞きしましたが、京大に進学した理由は?
【衛藤さん】 中学三年の時に修学旅行で初めて京都を訪れ、初めてなのに懐かしい気持ちになりました。「ここに住みたい」と強く思い親に相談すると、「なんで京都なの?京大にでも行くのならともかく」と言われ、「京大ならいいのか」と思い勉強しました。
養父市の人々は自ら成功例になろうとするマインドが良い
【政治山】 何でも揃っている京都と比べて、養父市は自然が多い一方で不便だと思われることはないですか?
【衛藤さん】 研究や調査でいろいろな地域に関わってきて、「地域は人だ」とつくづく感じます。養父は自然が多いですし水もきれいでお米もおいしいですが、何と言ってもやはり人ですね。私が出会った人はみな素晴らしい方々でした。
「移住・定住・地域おこしフェア」で、来訪者に説明する衛藤さん
何と言ってもマインドの良さです。国家戦略特区に名乗り出たということもあり、熱い人たちが多くて。全国どこも、条件の不利な中山間地域では農業が経営として成り立たないところばかりで、このままでは耕作放棄地は増える一方です。こうした逆境の中でも儲かる農業のモデルを生み出そうとするマインドを持った人が大勢います。
ここでできなかったら全国どこに行ってもうまくいかない、という背水の陣で臨んでいて、先進的な中山間地域型の農業モデルを確立しようとする姿勢が魅力です。
心に余裕を持った人々が集う
【政治山】 本気の方々が多いということですね?
【衛藤さん】 はい。さらに、多くの市民が心に余裕をもって生活しています。田舎暮らしは、一般にイメージされるような、“のんびりスローライフ”というわけにはいきません。しっかりとした蓄えがあるか、場所を選ばずどこでもできる仕事と収入があるか、農作業で朝から晩まで動き回るか…都会は都会で大変ですが、田舎にいけば楽というものでは決してありません。
歴史を見ると、心の豊かな時代に文化は発展しますが、文化が花開いた江戸時代は物質的に必ずしも豊かではありませんでした。それでも人々は生活していたし、子どもも生まれ育っていました。
広瀬栄・養父市長と握手する衛藤さん
今は掃除洗濯も料理も科学技術のおかげで江戸時代よりはるかに楽になりました。にもかかわらず、人々は余裕のない生活を送り、ストレス社会の中で自殺者も年間2万人以上いて、何より出生率が下がり続けています。
これだけ科学技術が進歩して、もっと人間は豊かに生活できるはずなのに、こうも余裕がないのは社会技術が追いついていないからだと思います。真に豊かな社会を求めて、社会技術を高めていくのが社会科学に従事する研究者の使命だと思っています。養父市には心の豊かな人が大勢いますので、真に豊かな社会の先進事例になるのではないかと期待しています。
熱いマインド持った人に来てほしい
【政治山】 養父市への移住・協力隊に興味ある人へアドバイスをお願いします。
【衛藤さん】 養父市は国家戦略特区であり、中山間地域の農業改革拠点です。ここで成功しなければ全国どこの中山間地域農業にも未来はない、そういう使命を背負ってやっています。「農業で食っていく。自分がそのモデルになる」、そういう熱いマインドを持った人にぜひ挑戦してほしいと思います。日本一の中山間地域農業を目指す熱い人々が集まって、さらに新たな動きが展開されることを楽しみにしています。
【政治山】 地方移住に興味ある人へのアドバイスをお願いします。
【衛藤さん】 移住といっても今はすごく多様で、2地域拠点や他地域拠点という住み方も一般的になってきました。その意味で、“試しに住んでみる”というのを受け入れてくれる自治体に住んでみるのも考え方の1つだと思います。住んでみないと分からないことは沢山あります。その上で納得して移り住む、というのが移住者にとっても地元にとっても良いように思います。
自治体は副業を認め、3年経過後の備えに配慮して
【政治山】 地域おこし協力隊に入ろうと考えている人にもアドバイスを。
【衛藤さん】 地域おこし協力隊は移住・定住の政策と位置づけられていますが、自分は疑問に思っています。その地に住みたいと思っている人は勝手に住めばいいわけで、その意味では最初から与えられ過ぎているように思います。
養父市内外の企業家らと日本一の農業改革を目指しましょうと語り合うことも
一方で、3年経過したら定住することを自治体から期待されると尻込みしてしまうと思います。逆に、自治体には「定住しなくてもいい」と言ってほしいです。その上で、「3年間ここでしっかり挑戦してください」と。しっかり挑戦すれば、そこで人脈もできるし仕事もおのずから見つかります。そうなれば3年後も自発的に住みたいと思えるはずなので。
具体的な提案としては、挑戦できる条件をきちんと備えている自治体かどうかを見極める必要があります。例えば副業を禁じて人員補充的な仕事のみしか用意されていない環境だと、3年の任期が過ぎれば突然の無報酬となる上に、蓄えもなく定住を強いられるというブラック企業に勤めるような劣悪環境と言えます。
3年後の自立を目指すのであれば、副次的な収入も当然認められるべきで、その中で仕事を自ら作りだしていくという姿勢と環境が必要です。
地方に仕事はある、ビジネスになっていないだけ
【衛藤さん】 よく地方には仕事がないと言われますが、むしろ仕事は多いです。なかなかお金にならないだけです。地域の課題解決に取り組みながらそこでの生活を成り立たせていく、そうした挑戦をするための3年間だと思って取り組むのであれば、例えうまくいかなかったとしても、その経験はきっと後の人生に役に立ちます。
定住できるかどうかはともかく、実りある3年間を送れるかどうかが、協力隊員にとっても、地域にとっても一番大切なことだと思います。
聞き手:上村吉弘(うえむら・よしひろ)
◇
衛藤彬史(えとう・あきふみ)
神戸大学大学院農学研究科地域連携センター学術研究員
1987年 東京都生まれ。京都大学大学院農学研究科地域環境科修了。同大学院在学中の2014年10月から兵庫県養父市の地域おこし協力隊に入り、京都市左京区から養父市大屋町に転居。地域おこしの研究をしながら実践に励む。まち・ひと・しごと・ふるさと養父市創生作戦会議委員(2015年度)。2016年1月から研究の場を神戸大学大学院に移す。農村計画学会、農業農村工学会、地域農林経済学会、社会情報学会に所属。
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