価格高騰や大停電も―海外の電力自由化の実情とは
政治山 / 2016年3月14日 11時50分
3月11日で発生から5年を経過した東日本大震災。福島原発事故の衝撃が徐々に薄れ、エネルギー政策のあり方について語られることも少なくなり、4月から始まる電力自由化はむしろ唐突に始まる感さえあります。しかし、海外ではずっと以前から電力会社の独占体制によってサービスが向上しないことが問題視されていました。
イギリスは自由化で逆に高騰
イギリスではサッチャー政権が電力改革を進め、1990年から段階的に自由化に移行。北欧でも1991年から加速度的に自由化が進められ、より安い電力会社を選べるようになりました。
際立った変化が訪れたのは1998年から2002年にかけて。電気の卸売価格はこの間に40%下落し、電力自由化の成果が見られました。しかし、2004年頃から卸売価格の上昇とともに小売価格も上がり、現在の電気料金は当時の約2倍です。
天然ガスの高騰が主な要因に挙げられるほか、利益を追求した結果、インフラ投資が遅れて供給能力が低下したという指摘や、CO2削減などの環境コストが高くなったという指摘もあります。エネルギー市場価格の上昇に加え、自由化そのものの要因が電気料金の高騰を招いたと言えます。
ドイツでも料金は高止まり、料金プランは1万種類以上
ドイツでは1998年のエネルギー事業法改正で全面自由化されました。イギリスのように国有の独占会社が存在せず、中小規模の電気事業者や供給会社によって成り立っていたため、自由化後には1000を超える電力会社により価格競争が行われ、電気料金は下がりました。しかし、競争の激化により、新規事業者の倒産や合併が相次ぎ、2000年から電気料金は上昇し始めました。
近年は、環境税の引き上げや再生可能エネルギー買い取りコストの増加など脱原発政策によって電気料金が高止まりする一方、1万種類以上の料金プランによって利便性にも疑問符が付いており、ドイツの電力自由化は失敗例として取り上げられることが多い状況です。
アメリカでは自由化後に大停電
アメリカでは1990年代に電力自由化が各州レベルで導入されました。1998年に導入したカリフォルニア州では、2000年夏から翌年にかけて停電が頻発しました。きっかけは、猛暑の影響による電力卸売価格の急上昇などです。電力会社は様々な規制によって、高騰した電力を発電事業者から購入する一方、上昇分を小売価格に転嫁できませんでした。
電力会社の経営が悪化する中で、発電事業者は利益確保のため供給を抑えたり、売り渋ったりするようになり、電力会社はやむを得ず輪番停電を行う事態に陥りました。
2003年の北米大停電は、電力自由化による質の低下とも言われます。競争激化により、電力会社が余分な発電設備を持たなくなれば、需給の変動で安定供給は難しくなります。
日本は…東日本大震災で崩れた電力独占体制
日本の電気料金は、原価を基準に料金を決める“総括原価方式”を採用し、電力会社と政府のやりとりだけで価格を決めていました。
1993年、総務庁(当時)がエネルギーに関する規制緩和の提言を行い、電力自由化に向けた動きが始まります。1995年に電気事業法が改正され、電力会社に電力を供給する独立系発電事業者の参入が可能になりました。1999年の改正では大口需要家に販売する新電力の新規参入が可能となり、電力自由化が一部認められましたが、一般家庭への自由化は閉ざされてきました。
世界的に見ても高い電気料金が見直されたきっかけは、東日本大震災です。電力の仕組みや制度への不安、既存の電力体制に対する不信などもあり、全面的な自由化が実現されることになりました。
なぜ日本の電気料金は高いのか
昨年7月から世界の原油価格は一時、半値以下にまで落ち込みましたが、日本の電力価格はあまり下がりません。価格が直結するはずのガソリン価格も3分の1程度しか下がりません。日本の場合、中東などからの原油輸送コストが上乗せされるため、国内の石油価格は高止まりし火力発電のコストが劇的には下がりにくい地政学的な理由があります。
原子力発電については震災事故後、2013年に新規制基準が施行されてから昨夏の川内原発1号機再稼働までの約2年間、原発ゼロが続いてきました。再稼働に向けた動きが本格化し始めた矢先の3月9日、大津地裁が福井県の高浜原子力発電所3号機と4号機について、「安全性の確保について説明を尽くしていない」として、運転の差し止めを命じる仮処分を決定しました。原発再稼働の道のりは難しい状況です。
一方、原発に代わる活躍が期待される再生可能エネルギーにも課題は山積しています。太陽光発電や風力発電はコストやエリア、安定供給に難があります。地熱発電も候補地が限られるだけでなく建設コストも高いため利用には限界があります。研究段階にあるバイオマスやメタンハイドレートなどの新たな技術はまだまだ実用化の目途が立つ状況にはありません。
“ベストミックス”という言葉だけが独り歩きしている感のあるエネルギー事情の中で、いかに安く電力料金を抑えるか。世界的にも割高な電気料金を下げる試みが始まろうとしています。
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